8.即興ラップで手土産ゲット
ハルトたちが町に近づくと、喧噪がボリュームを徐々に上げていくように大きく聞こえてきた。
建物は、木造の二階建てが多い。遠くの方に、石造りの城のようなものが見えるので、ここは城下町と言ったところだ。
ハルトが向かった通りは、両側に屋台が建ち並んでいた。それは、西洋風でもあり中近東風でもあり、何とも不思議なもの。
屋台には様々な色彩のものが並べられていて目を楽しませてくれるし、時折良い匂いが漂って胃袋をやたらに刺激する。
特に、野菜や果物は、見るからに新鮮で、とてもうまそうだ。
買い物客や屋台の店主たちは、ハルトの姿を見ても、着ている服のおかげか、通行人の一人と思っているらしい。
ハルトは、頭の中で一人の店主に今まで自分が着ていた服を着せてみたが、確かに周囲とは大いに違和感があることに気づいて納得した。
オルテンシアが買ってくれた服を着ていなければ、間違いなく、衆目を集めたに違いない。しかも、この喧噪まで消え失せ、人々は立ち尽くし、沈黙が支配したであろう。
通行人や店主を観察すると、ほとんどが人間の姿をしている。そこに、エルフらしい尖った耳の持ち主と、猫耳や狼耳を持つ獣人が混じる。
(これ、ファンタジー、キターって感じだな!)
ハルトは、一人ニヤニヤする。
すると、彼は、横から声をかけられた。
「おい、兄ちゃん! 食べてかない?」
威勢のいい店主が、林檎みたいな赤い果物をハルトへ差し出す。
「おい、こっちもだ! どうだい? うまいだろ?」
別の店主が串焼きを差し出し、まだ食べてもいないのにハルトへ味の感想を求める。
「どうもっす」
品物を受け取って返す、妙ちくりんなハルトの返答に、皆が笑う。
「お金は、いいんすか?」
「いいって、いいって。味見だよ。出来れば買ってくれると嬉しいけどな」
ハルトは、気分がウキウキしてきた。
脳内にラップのリズムが刻まれる。こうなると、人々が行き交う道の真ん中で、なんだか無性に踊りたくなってきた。
「なあ、ちょっとアシストしてくれないか?」
急に振り返ったハルトの放つ言葉に、オルテンシアもカメリアも目が点になる。
「「まさか、ここで!?」」
「いやいや、変身じゃなくって、俺の真似をしてステップを踏んで欲しいんだ。
ボックスステップとか、わかる?」
「何のことやら、わかりませんわ」
「ま、見よう見まねでいい。
ちょっと、PVっぽく、ここでやってみたいんだ」
「ぴーぶぃー?」
「プロモーションビデオ。
決してページビューじゃないから」
「そう言い直されても、何のことか、さっぱりわかりませんわ」
「そっか。異世界だもんな」
「またそんなことを。ここはマグデブルク公国」
「へいへい、そーでした、そーでした。
んじゃ、やるぜ」
「何をですの?」
「感謝の踊り」
ハルトがフィンガースナップで4回音を鳴らすと、通行人たちが振り返った。彼は、その4つのビートに合わせて歌い始める。
「この店サイコー。あの店サイコー。味見をしてみりゃ、いけるぜケッコー。
胃袋つかむ。ハートもつかむ。そうしてしっかり、財布もつかむ。
うまいよ。安いよ。まけるよ。得だよ。なんならオマケも、まだまだつけるよ。
売らなきゃどんどん。買わなきゃ損損。こうして俺たち、みんなでWin-Win」
妙な歌詞だが、フィンガースナップ混じりでステップを踏みながら、笑顔を見せるハルトの怪しいラップに、たくさんの通行人が引きつけられて、集まってきた。
「兄ちゃん! なんだかよくわかんねえけど、それ、おもしれえな!」
「もっと聞かせてくれ!」
アンコールの拍手まで巻き起こる。
恥ずかしくなったオルテンシアとカメリアは、スタタタタッと後ずさりをする。
しかし、彼女たちは通行人に肩をつかまれ、元の位置に戻された。
こうして、ハルト団の踊りが再開された。
店主たちが店を出て、大いに拍手をする。
「いい物を見せてくれたよ! お礼に、うちの商品をただで持って行ってくれ!」
「お嬢ちゃんたち。うちでいつも買ってくれるだろ? そのお礼も上乗せしてあげるよ」
こうして、三人は、抱えきれないほどの果物や野菜や肉をただでもらった。
宿屋に着いたとき、その手土産にシュヴァルツが仰天したのは言うまでもない。




