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俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第一章 異世界転移編
12/60

12.とんとん拍子で疑心暗鬼

 ペスカが「お礼に別室でお茶でもどうかな?」と誘うので、ハルトたちは恐縮しながら、案内係を命じられた老執事の後に付いていった。


 貴族だからといって横柄な態度を取るようなこともせず、温かみの感じられる言葉をかけてくれる。特別な客人でもない自分たちにこう接するということは、おそらく、町の者たちへもこのように接しているのだろう。


 それにしても、人が良すぎる。


 初めて会った旅の者の願いをホイホイと聞いてくれるのは、何か裏でもあるのだろうか?


 そう思うと、安堵して喜んでいたハルトは、急に背筋が寒くなってきた。そこでハルトは、オルテンシアに話を聞こうと、彼女の耳元へ口を近づけた。


「ひゃ!」


 ビックリした彼女の悲鳴が廊下に響き、前を歩いていた老執事が振り返る。


「ちょっと(つまず)きそうになりましたの。ごめんなさい」


 機転を利かした彼女の言葉に、老執事は目を細め「お気をつけなされ」と声をかける。


「ご、ごめん」


 ハルトは、顔の前で両手を合わせ、彼女に小声で謝罪する。頬を膨らませた彼女は、こうなったのもハルトのせい、とでも言いたげな目をしていた。



 その時、老執事が、近くの大きな扉を開けた。


「こちらでございます」


 すると、そこは大理石の壁と床と天井の豪華な広間だった。


 部屋に入った彼らは、まず部屋の広さに驚いた。真ん中に置かれた長いテーブルを片付ければ、五十人くらいは入れそうだ。


 次に、周囲に並べられた調度品の贅沢さに驚く。これだけ集めるのに、どれほどのお金をつぎ込んだのだろうか。西洋の王宮にでも飾られていそうな品々が目を釘付けにする。


「お好きなところへおかけになってお待ちください。

 間もなく、ペスカ様がお見えになります」


 辺りをキョロキョロと眺めながら、ハルトたちは部屋の奥へと入っていく。


「さっきは、ビックリしましたわ」


 オルテンシアは、ちょっとむくれた顔をして小声で怒る。


「驚かせてごめんな」


 ハルトも小声になると、ここにカメリアが割り込んできた。


「キスしようとしたんでしょう?」


「いやいや、違うって。ちょっと、聞きたいことがあって」


「何ですの?」


「ちょっと、うまく行き過ぎてないか? あの領主、俺たちを簡単に信用している。なんか裏があるのかも知れないと思って、今まで領主の悪い噂とか聞いていないかと」


 ハルトはオルテンシアの方を向いて質問したのだが、横からカメリアが答える。


「何も聞いていない」


「私も聞いていませんわ。町の人たちは、口を揃えて領主様を称えていますもの」


「洗脳されているとか……ないよなぁ……」


「疑えばきりがない」


「でも、さっきの黄金の部屋もそうだし、この豪華な品々も、金に糸目をつけないって感じだし。年貢の取り立てに厳しいとか? オルテンシアはどう思う?」


 と、突然、カメリアがむくれて、ちょっと声が大きくなった。


「なぜお姉様ばっかりに質問するの? なぜ私に聞いてくれないの?」


「シーッ! ご、ごめん。別にオルテンシアだけとは――」


「だけじゃない!」


 すっかり、怒らせてしまったようだ。



 ハルトは、カメリアに問いかけられない理由がある。


 明らかにカメリアは自分を意識している。意識しているイコール()()に違いない。


 そう思っただけで、カメリアを直視するのが恥ずかしいのだ。



 ハルトが答えないので、カメリアは、プイッと彼に背を向けてしまった。こうなると、なんて声をかけて良いか、ますますわからなくなる。


「確かに、カメリアの言う通り……疑えばきりがないよなぁ」


 ようやくの思いで出た言葉がそれだった。


 まずは、相手に同調する。それから、溝を少しずつ埋めていく。時間は掛かるだろうが。



 しかし、カメリアは、調度品へ視線を向ける。もちろん、その美しさを()でているわけではなく、彼女も彼を直視できないのだ。


 言い過ぎたかも知れないと彼女は思う。でも、謝罪はハルトの方からだ。そう考える彼女は、背を向けたまま視線をあちこちに移す。



「まあ、座りましょう」


 その場の雰囲気を悟ったオルテンシアは、二人の腕を取る。そして、二人を着席させる。


 と、その時、扉が開いた。


 三人がそちらに目を向けると、そこには甲冑の男が立っていた。


 カルドである。


「ペスカ様から仰せつかって、私が話を聞くことになった」


 彼は、入り口に近い席にドカッと着席した。


「領主様は?」


 不安になったハルトが質問すると、カルドは心配するなという顔をする。


「そう焦るでない。少し待たれよ。

 あ、そうそう、言っておくが――」


「はい」


「その席は、ペスカ様の席だ」


 ハルトは、尻に火が付いたように跳び上がった。


 カルドは笑いながら、手招きをする。


 ちょうどその時、ペスカが部屋に入ってきた。


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