13.領主ペスカの恐ろしい提案
領主様の登場で、席を移動中の三人は慌てふためく。
「何を慌てているのかな? 好きなところへ座っていいよ」
ペスカはそう言いながら、自分の席に腰を下ろす。
ハルトは、危ないところだったと胸をなで下ろしながら、ここは無難にテーブルの中間付近に着席する。双子は、彼の両脇にスッと腰を下ろした。
「さて、捜索の実務は、そこにいるカルドに任せたよ」
ペスカがカルドに目配せすると、カルドは席を立って深々と頭を下げ、再び腰を下ろした。
ハルトは、『やっぱり、何もしない探偵だぁ』と心の中で納得する。
「その捜している人たちの特徴とかを、彼に教えてあげてくれないかな?」
「「はい」」
オルテンシアとハルトが、同時に答えた。
まず、オルテンシアがクリザンテーモ・セレーナ姫の特徴を説明する。
踝まで届く金色のロングヘア。前髪は、ぱっつんでお姫様カット。ウェーブは一切ない。
小顔で丸顔。眉はやや太くて、目尻が少し下がっており、目の色はコバルトブルー。鼻は高くて、唇は桜色。
身長は150センチメートル。濃い青色のイブニングドレスを着て、赤いヒールを履いていた。
次に、ハルトが妹カエデの特徴を説明する。
黒髪を茶髪に染めた腰まで届くロングヘア。前髪は切りそろえている。こちらもウェーブはなくてストレート。
顔はクリザンテーモ・セレーナ姫と所々似ている特徴はあるが、黒髪に黒目が違う。鼻は日本人にしては高め。
身長は152センチメートル。白色のVネックの長袖カットソーに水色のカーディガンを腰に巻いて、少しダメージのあるジーパンを穿いている。靴はスニーカーだ。
以上の説明を、カルドはフムフムと聞いている。なので、特徴をしっかり記憶しているのだろうと誰もが思っていた。
だが、聞き終わった彼は、突然、パンパンと手を叩いた。
すると、部屋に二人の男が入ってきた。彼らは絵の具で汚れたつなぎのような服を着ていて、手にスケッチブックと鉛筆を持っている。専属の絵師なのだろう。
カルドが「見せてみよ」と言うと、二人の絵師は一斉にスケッチブックをクルッと裏返して、オルテンシアたちに見せた。
左の絵師はクリザンテーモ・セレーナ姫、右の絵師はカエデの鉛筆画を描いていた。一種の、全身が描かれた人相書きである。
「どうかな?」
カルドの問いかけに、オルテンシアは「だいたい合っていますわ」と答え、ハルトは「服が全然違う」と答えた。
すると、右の絵師が「服の言葉がわかりませんでしたので、想像で描きました」と当然のように答える。
結局、ハルトは絵師に服や靴の説明をすることで、かなり近い絵ができあがった。
その後、カルドの提案でこの絵の複製を587カ国全てに配布して、情報提供を募ることになった。しかも、これにかかる費用はペスカが負担すると言うのだ。
オルテンシアたちは感謝の言葉を述べるも、ペスカは「礼には及ばない」と顔の前で手を振る。
彼らが恐縮していると、召使いがお茶を持ってきてくれた。豪華なティーセットで、口をつけるのももったいない、と思ってしまうほどだった。
「ところで――」
お茶を一口飲んだペスカが、そう言ってカップをそっと置き、三人の方へ目を向けた。
「仕事を引き受ける気はないかな?」
まだカップも触っていない三人は、足の上に握りこぶしを置いたまま、様々な表情を浮かべた。
――今回の調査に何らかの見返りを求めているのだろうか?
――裏の仕事に引き込もうとしているのだろうか?
そんな三人の緊張ぶりを、ペスカはカラカラと笑った。
「見返りじゃないよ」
図星だ。
「はてまた、怪しい仕事に巻き込もうとしているのでもないよ」
これまた図星だ。
「そうではなくて、収入がないと、捜している間に無一文になるだろう?
宿屋だって、慈善事業じゃないから、ただじゃない。カルドから聞いたけれど、あの一つの部屋に男女が寝ているんだって?」
それはもちろん、カルドの壮大な勘違いなのだが、言い訳をしてしまうと、だんだんハルトが異世界からやってきた話を持ち出すことになり、正体がバレてしまう。そちらの方が面倒だ。
三人が決めかねていると見たペスカは、ニコニコしながら提案する。
「心配しなくていいよ。新しい宿屋を紹介するから。
そして、宿代や生活費を稼ぐため、仕事を引き受けて欲しい」
ほぼ、話が決定モードになってきた。
オルテンシアが顔を上げて、感謝の意を述べる。
「お申し出、感謝いたします。
それで、そのお仕事とは何でしょうか?」
「おおっ! じゃあ、引き受けてくれるね!?」
「わたくしたちに出来ることでしたら」
「なあに、ちょっとダンジョンに潜って欲しいのだよ」
オルテンシアは、驚きのあまり目を見開いた。
ハルトとカメリアは、ゆっくりと顔を上げ、彼女に負けないくらい目を丸くした。




