警告
前田家が松永久秀の書状を無視して五日が経ったある日に事件は起こる。
今川が戦の準備を始めているという噂が前田領に広まっていた。
ことの真実を確かめるべく武将は、半兵衛と慶次に偵察を行わせたが、今川で戦の準備をしている様子は確認できなかった。
「そうか…… 戦の準備をしている様子はなかったか」
武将は、未だに久秀の策を上回る策が見つからずにいた。
「武将…… いいか?」
利家が武将に話しかけた瞬間に利家は武将を殴った。その拳は重く部屋の端まで武将を飛ばした。
「何するんだ! 利家!」
「そなた、久秀に勝とうとしているだろう。考えてもみろ! もう相手の策にハマっているではないか! 戦の準備という言葉に惑わされよって! 勝とうとするのではなく、まずは、現状を変えてから勝てばよいではないか」
その言葉に武将は大切なことを思い出した。それは前田家を治める者の言葉の重さだった。
「わかった。利家の言う通りだ。少し頭を冷やしてから戻ってくるから待っててくれ」
武将は、部屋を出て行った。
「あいつのことじゃ。とんでもない策を考えてくるに違いない」
そして、半日が過ぎた頃武将は戻ってきた。
「待たせて悪かったな! 逆転とまではいかないが、現状を打ち崩す策を考えてきた」
武将は、策の説明に入るのだった。
「現状前田は、今川に攻められそうな状態になっている。まずはこれを打開する。前田も戦の準備をしているという噂を流す。あいつらも嘘だと思って偵察に来るだろう。ここも俺の狙いだ。ここで城を作るように見せかけて道の整備や井戸を掘り、民のために一定のことをする」
「しかしそれが今川の策を打ち破ることには繋がらないと思うのだが」
利家は、武将の策の本当の意味がわからなかった。
「この策には続きがある。道の整備や井戸を掘ることは城を作るうえでも必要なこと。つまり、今のこの緊張感のある状況を逆に利用する。このことで今川は偵察に来ただけで戦の準備のための城だと勘違いするだろう。そして今川は、前田領ギリギリに兵を進めてくる。今川には大義名分があるため兵を進めても怪しまれない。その後諸大名に民のために行っていることを戦の準備だと誤解されたと書状を出す。今川は誤解から攻めにくくなるということよ」
そこへ慶次が口を挟む。
「しかし、どのようにして前田が無実だと証明するのですか? 見ただけでは戦の準備と誤解されても仕方ないと思いますが」
「ぬかりはない。将軍家から証人を立て証明してもらう」
「そうか将軍家は信長に追放されてないがまだ諸大名の中には、将軍家はあると信じているものもいる」
「そう織田家とは同盟関係だからたやすく整備だと言ってくれるはずだ。時間が経っていないから前田と織田が同盟関係にあるとは向こうも思ってないだろう。そこを逆手に取る」
それを聞いた利家は笑っていた。
「これでこそ武将よ。そなたなら久秀にも勝てる」
最後に武将はこう付け加えた。
「ここからが本題だ。もし今川が前田領を越えて兵を進め、撤退せずに攻めてきた場合は、前田は今川、北条の連合と一戦交えることを提案する! みんなはどうだ?」
利家も今川、北条と戦になることはわかっていたため密かに準備はしていたが、領主として質問した。
「今川、北条と戦を避けることはできぬか?」
ここにきて利家は戦を避ける方針を考えていたのだった。
「利家…… 戦を避けることはできるかもしれない。だが、前田にとって和睦となると不利な条件となることはわかっている。この書状は今川、北条からの前田に対する警告だ。なぜあんたがそう思ったか聞かせてほしい」
利家は重い口を開く。




