危機
話は、武将たちが帰ってきた時へと戻る。
「お!そうだ。武将に見てもらわないといけない書状があった」
そう言うと、利家は、今川からの書状を取り出した。
「わかりました。その書状は私から、武将さんに渡しておきます」
松之助は、立ち上がり、武将の元へと急いだ。
「ところで竹中半兵衛と言ったな。北条の情報を教えれるだけ教えてはくれぬか?」
「はい。北条氏康。北条の一族の中で一番頭がきれる人物です。私が参加した真田との一戦。策で真田は総崩れになりました。その傘下で兵を動かしていたのが氏政様です」
「そうかあの真田が、総崩れとはな…… 北条氏康がこの世にいないとはいえ、氏政は侮れない奴よ」
半兵衛は、知りうる情報を全て利家に話した。
「やはり、お主がいた時から今川と北条は密かに同盟を結んでいたのじゃな。これで北条と今川が通じていることは間違いないようだな。大戦になるやもしれん」
一方、松之助は、小六が休んでいる部屋に入った。そこには武将の姿もあり、何やら呟いていた。
「松之助か…… どうかしたか?」
「この書状を利家様から預かってきました」
その書状を読んだ武将は、言葉を失った。
「何だこの書状は! これでは、前田は滅ぼされてしまうかもしれない。何か逆転の策を考えなければ」
その表情で松之助もことの重大さに気づいた。
「俺は、利家の所に戻り、再び軍議の提案をしてみる。松之助も一緒に来てくれ」
武将の提案でもう一度軍議が開かれることとなった。
「利家…… この書状はいつ届いたんだ?」
「確か二日程前だった気がするのう。今川からの脅しの書状は毎回届く故、無視しておったわ」
書状の日付を確認し、そのうえで届けられる時間を考えると一致した。間違いはないようだ。
「だか、今回の書状は別の者が書いている。だからあんたも気になり、俺に見せたんだろ?」
そのことに気づいていたのは、利家と武将だけだった。
「今回の送り主は誰なんですか?」
松之助も中身を見ていないことから気になっているようだ。
「今までは今川義元…… 今回は松永久秀」
「松永久秀…… 誰じゃその者は?」
利家は松永久秀を知らないようだった。そこで松永久秀については、注意するように諸将に伝えた。
武将が、知る武将の中でも久秀は特に注意するべき人物だったのだ。
「この松永久秀はあらゆる手段で前田を潰しにかかるだろう。今からそれに対抗する策を考える」
それを聞いて利家が口を挟む。
「で、その松永久秀とやらは何がしたいんじゃ?」
利家は、この書状から久秀の狙いがわからなかった。
「見てみろここで小六が刀を抜いたことが記されている。刀を抜いた場所が今川領だったんだ。つまり、領内では戦う意思があると思われても仕方がないということだ」
「今川領内で刀を抜いて何が悪いのじゃ? あちらが先に仕掛けてきたのじゃろ?」
「領内で自国を守るために刀を抜いて戦った…… 如何なる理由であろうともそれは立派な防衛行為だ。逆に前田は、先に仕掛けられたと言っても、それは信じてもらえないだろう。となれば前田には大義名分がない。逆賊になるというわけだ」
最後まで隙がない久秀の策に武将も打ち砕く策を考えているが見つからない。
「とにかく情報が欲しい。半兵衛! 北条にいた時久秀は、今川家にいたのか?」
「少なくとも私が北条にいた時には、松永久秀なる者が家臣にいた確率は低いと思います」
半兵衛の答えから松永久秀は、裏で今川と北条を操り、信玄にわざと武将たちを襲わせ、こうなるように仕向けていたと武将は推理した。
「武将…… 儂はどうすればいい」
対応策は見つからなかった。
「時間をくれ。その間に対応する策を考えてみる。その間は今まで通り書状は無視することにする」
しかし、この行動は久秀の策にはまる行動だった。