後編
さあ、どんでん返しの始まりです!
そんな出来事から、1時間が経過した頃である。
突然大きな音とともに、部屋のドアが開いた。
そして、
「もう大丈夫よ? あの2人はタクシーに乗った後、まっすぐに飛行場に向かってそのままオーストラリア便の手続きが済んだって! 今彼からLINEが入ったわ!」
という女性の一言で、部屋の空気が一変する。
「じゃあ、式場の人に今から伝えないと!」
そして私たちは、かねてからの計画を実行したのであった。
それから、一週間があっという間に過ぎ去っていった。
私も新しい生活に、過ごしずつ慣れ始めていたところである。
そんな時であった。
「これは一体、どういうことなの?」
突然我が家に、義妹夫婦がやってきたのだ。
そして玄関から部屋に入るなり、さっきの第一声を発したのである。
「あらおかえり。新婚旅行はどうだったの?」
鬼の形相をしている義妹を全く無視して、当たり障りのない挨拶をする。
だって、手ぶらなんだもの。
普通旅行といえば、家族にはお土産くらいはあるものなんじゃないの?
そんな気遣いもできないなんて、お姉ちゃん悲しいわ。
「なんでお義姉ちゃんが、こんなにも大きくて豪華な一軒家に、どうどうと住んでいるの? しかも、結婚したって聞いたわ。あの後直ぐに! それがどういうことなのかって聞いているのよ!」
またもや左足で、ガンガンと床を踏みつけながらもイライラした感じの義妹。
「え? だって先週は、私の結婚式だったでしょう? なのにあなたは、そちらの聡さんと結婚したって言って、式に参加することなく、新婚旅行に行ってしまったじゃない?」
「・・・・・・」
とうとう何も言えなくなったのか、今にも私を殺してしまいそうな鋭い視線のみを向けている義妹。
そんな時である。
「あれ? 帰ってきていたんだ、おかえり聡」
私たちのいる部屋の中に、一人の長身の男性が入ってきた。
「!」
そして彼の顔を見るなり、愕然とする義妹。
そんな新妻を無視して、
「うん、ただいま、兄さん。お土産は今日中に宅急便で付くと思うよ? 期待していいよ? 楽しみに待っていて!」
と男同士の挨拶を交わす男性二人。
「これは・・・・・・。なんで同じ顔が2つ・・・・・・そして兄さん? お土産? 一体どういう・・・・・・」
2人の男性の顔を見比べながらも、やっとそれだけを口にした義妹。
予想外の展開らしく、それについていかないで困惑している様子である。
「あれ? 言ってなかったっけ? じゃあ紹介するよ。こちらは僕の父方の従兄弟で5つ年上の“坂本 聡志”兄さん。小さい頃からいつも色々と、面倒見てもらっている。そしてこの前の話したけど兄さんは、実家の会社を継ぐことになった社長さんなんだよ? あの医療品機器メーカーで有名な会社だけど、さゆりには説明したよね? いかにすごい会社なのかってことを」
まるで自分のことのように自慢げに話をする、義妹の旦那。
さらに、
「そして兄さん、彼女が僕がずっと好きでやっと結婚できた妻の、さゆり。ごめんね、僕来週から一年ほどお世話になった先輩の頼みで、“国境なき医師団(MSF)”で、パレスチナに行かないといけなんだよ。だからさゆりのお願いでどうしてもあの結婚式の日に、新婚旅行に行かないといけなくなってさ。本当にごめんね」
愛する妻の紹介を済ませ、ペコリと頭を下げて謝罪する。
そんな彼に対して、
「いや、いいんだよ。元気に頑張ってこいよ、応援しているから。それにしても良かったな? あんなに大好きだった女性と、結婚できて。子供も出来たんだろう? そういえば、実は僕らにもできたんだよ。今、3ヶ月なんだ」
「本当に? それはいいことづくしだね!」
と、お互いの報告を下柄も楽しそうにソファーに座って、仲良く話を始める男性2人。
そんな2人をた呆然とした顔で見つめているだけで、突っ立ったままの義妹。
「これはどういう事? これは一体・・・・・・」
混乱して口をパクパクさせて突っ立っている義妹の後ろから、ひとりの女性が部屋に入ってきた。
そして、
「え? だって聡は高校時代に私と付き合っていたのを当時中学生だったアンタが横取りした、“元彼”じゃないの。あんたが私の妹だったときは、本当にろくなことがなかったわ。いつもいつも、猫なで声と媚びた態度で、私の男友達も彼氏も横取りしていって。飽きたらすぐに手のひらを返す。大人になってもその性格は変わらないのね? 実の姉として、がっかりよ!」
とつらつらと、妹に対する思いを語り始めたのだ。
それに対し、
「なんであんたが、ここにいるのよ!」
叫ぶような甲高い声でそう言ったかと思うと、入ってきた女性を睨みつける義妹。
「なんでって? 美雨先輩は私の2つ年上で、大学時代から仲良くしている先輩だもの。ちなみに勤めている会社も一緒なの。それがどうかしたの?」
妹を馬鹿にしたような見下した目で見ながらも、次にはニコニコして私の方へと視線を変えた。
そして、
「遅れてすみません、先輩。はいこれ、お土産のアップルパイです」
そういって、近所の美味しいと評判のケーキ屋の箱を私のもとへと差し出してくる。
「ありがとう、香織ちゃん。うーん、いい匂い!」
ケーキの箱からは、美味しそうな甘いケーキの匂いが漂ってきている。
「そうそう。あの頃聡は君に夢中でね。なのに貢ぐだけ貢がせて、飽きたらポイ捨てなんてひどいことをするから、やさしい聡は、一時ひどいうつ状態に陥ってしまったんだ。あの時期は、一族中で聡を心配して、“さゆり”という女を憎んだものだよ。でもなんとか立ち直って、今では立派な外科医になった。そして長年の夢を叶えて、好きだった人とも結婚できた。すごいよ。男として尊敬するな」
と、彼の肩を叩いて激励する私の旦那様。
「なんですって・・・・・・」
義妹は、今までに見たこともないような、この世の終わりとでも言いたそうな表情へと変わっていった。
そしてそんな中、
「あら、やっと帰ってきたんだ。お帰り、聡」
「ただいま、静香さん。お土産は実家の方に送っといたから、おじさんたちと一緒に食べて」
次に部屋に入ってきたのは、私の親友の静香である。
義妹を無視して、ソファーに座っている男性二人に手を振って挨拶をしている。
「なんでこの女に、お土産を買わなくちゃいけないの?」
甲高い声で、旦那を怒鳴りつける義妹。
「え? だって静香さんは僕の母方のいとこで聡志兄さんと同様に、僕にとってはいつも面倒を見てもらっている、お姉さんのようなものなんだよ? おみやげを買うのは当たり前じゃないか!」
と、不思議そうな顔をして自分の妻へと説明している。
「やっと帰ってきたのね? 待っていたのよ、聡。あんたがいない間に、そのクソ女の腐った根性叩き直すって、叔母さんかなり意気込んでいたもの。 あんたが海外の仕事でこっちにいない一年間、私と叔母さんとでみっちりこの女をまともにしてあげるから、楽しみにしていて! 美雨、香織ちゃんも今まで大変だったけど、もうその心配はないから安心してね!」
と、私たちにウィンクを投げてくるくらいに、静香は上機嫌だった。
「え・・・・・・」
青ざめた顔色をさらに白くして、今にも泡を吹いて倒れてしまいそうな顔で部屋の入り口に突っ立ったままの義妹。
そんな彼女を全く無視して、私たちはもらったアップルパイと紅茶で、楽しいお茶会を始めたのであった。
「6月の花嫁って、本当に幸せな結婚ができるのね。羨ましいわ~」
「私も! 先輩の結婚式素敵でしたよ、憧れます~」
と二人の独身女性に羨望の眼差しを向けられて、ただただ幸せを噛みしめるだけの私なのでした。
お楽しみいただけましたか?
みなさんが素敵な結婚をして、幸せな人生を送りますように。