結末
俺の子供はバカだった。たったひとつの忠告もまともに守れないバカだ。
好奇心ほど恐ろしいものは無いと忠告してやったのに、バカな奴だ。
バカなりに頑張って目標は達成したようだ。
まさかの結果で今この国いや世界は上から下への大騒ぎだ。
この世界は、80年周期で魔王が出現する。
魔王の寿命は30年だ。30年間で魔王のみで文明を壊滅状態にしたり、30年で眷属を組織し魔王が没後の世界も破壊工作を企んだり、全く活動しない魔王もいる。
もちろん勇者もいるが今回は関係ない。
キャレチャー家の初代当主の最初の物が魔王だった。望んで最初の物になったのか、初代当主の力が強靭なのかは400年以上前なので詳細は分からないらしいが、魔王は眷属を従魔として国家の中枢の送り込み崩壊させる計画だったらしい。ほぼ成功している。現在全ての従魔が使用禁止なので国の機能が停止しまくってる。間違いなく崩壊の危機である。
魔王は最初の者になってから6年後に姿を消したらしいので寿命だったのかもしれない。魔王亡き後も従魔になった眷属は魔王の遺志を継いだ。しかし当主の妻と渡りの魔道具技師は眷属たちの動きに気付いたが殺害された。
従魔達はキャレチャー家の妊婦に魔の物を眷属にする魔石の種を腹の中で育てさせ、真珠のように赤子の魔力で包まれて成長し共に生れ落ちてくる。それを使用して儀式のとき選ばれた最初の者を眷属に変えるのだ。それと歴代の当主を赤子の時から魔道具で洗脳し最初の者に逆らえなくする。
バカの主は洗脳期間が短かったのと渡りであったこと初代当主の妻の生まれ変わりとイレギュラーが多かった、バカは名無しであった事で眷属になれなかった。その代り名無しの呪いが主の念に反応してよく分らんが解けたらしい。あとバカも渡りなのが関係あるのかもしれない。
俺の親も親の親もそのまた親も、どうも皆渡りらしい。記憶はないが俺も渡りだそうだ。なぜ知ってるか?今回のゴタゴタを沈静化するために現れた、自称天界の管理官が教えてくれた。なんでも初代当主の魔道具技師の生まれ変わりらしい。
何で名無しなのか聞いてみた、俺もバカも俺のご先祖様も特別な渡りなんだそうだ。念の量が尋常じゃなくなる可能性があって封印して名が解放された時、貯まった念で自動的に擬人化する特別仕様だそうだ。従魔され利用されるのを防ぐ意味も在ったらしい。従魔じゃないのに擬人化した時は流石の俺も焦った。何で擬人化するのか聞くと折角の知識を少しだけでもこの世界に与える機会を増やすためと、あと従魔術師の補助のない擬人化は念の消費が激しく念の暴走を抑えるために都合が良いらしい。
なんで親が死んだ時なのかは、特別な渡り(パスって呼び名らしい)が被らない配慮だって。
まあ、俺とバカの身の上はここら辺でヤメ。
キャレチャー家がどうなったか?
キャレチャー家の従魔達は皆殺しだ。バカとバカの主が見境なく殺しまくったそうだ。普通人は術は使えないが、渡り歩いた世界の記憶をすべて思い出して魔法をバカスカ使いまくったらしい。バカは記憶は戻ってないらしいが主の念の影響で力が暴走したんだって。
穏便に事を運ぶために裏から手を回していた管理官はブチ切れていたよ。
バカの主の両親は残念ながらこの世をさった。母親を救えなかったから管理官は落ち込んでいた。娘に直接殺されなかっただけマシかも知れん。
バカ以外の渡りの従魔と渡りの念整師は……。死んではいないがバカと主から去って行った。従魔の件の悪い予言は的中する。予言の中の主に惚れて主の望まぬ未来を予言しちまったんだって。狂っていく主を見ているのが辛くなったのか惚れた主の未来像とは違ったのか、全てが収束した時に自分が傍に居れば擬人化しても厄災は訪れるからと去って行ったそうだ。
念整師の方は恋愛バトルに敗れたので主のタイプに成長するまで修行だって、コイツはそのうち現われるかも。
何でこんなに知ってるかって、俺の相棒のミネルウァから俺の存在を聞いた管理官がパス同士の接触は大変危険だから止めてくれって直々にお願いしに来たってわけさ。ミネルウァの兄ちゃんの嫁さんがバカの関係者だったらしい。ミネルウァもバカに口止めされてたからって3年もナイショはヒドイ、相棒なのに……。
で、バカが覚醒したわけを聞いたってことよ。
俺がちょっと旅に出ている2,3カ月でこんな面白い事が起きていたとは悔しい。バカに会うと危険な事が起こるのか…、どんなことだろう……。気になる………。
オット危ない、好奇心は龍も殺すだ。
全てを聞き終わった俺をミネルウァが疑り深く覗き込む。
………俺のことをよく分ってらっしゃる。
管理官はくれぐれも接触しないように念を押し混乱の国を補佐するために旅立っていった。
魔の物から擬人化しいそいそと旅支度を始める。ミネルウァも収納ポケットに荷物を掘り込んでいる。何でも幾らでも収納できる便利なポケット。難点は勝手に剥がれる所だ。前に鞄にすればといったら、お前には夢がないこれが正しいホルムだと言っていた。管理官もポケットの存在を知っているらしく素晴らしいミネルウァは浪漫が分っていると絶賛したそうだ。渡りの考えは分からん?
「付いてくるのか?」
「どこに行くの?」
「いつもの旅だけど…。」
「なら問題ないじゃん。」
「………………。遠くから見るだけなら大丈夫だよな?」
「……大丈夫でしょ。」
ニヤニヤとお互いの顔を見詰める。流石は俺の相棒である。
バカと主は忽然と消えたそうなのでその後は誰も知らないらしい。ミネルウァにふたりは出来てるのかと聞くと《リアジュウバクハツ。》となにやら呪いの呪文を吐いていた。
楽しい旅になりそうだ。