ファリス・ロドスの終わり(最終話)
「勇者ファリス・ロドスが誕生した」
そんな一報が世界中に流れた。
◇ ◇ ◇ 数時間前 ◇ ◇ ◇
ウルスは、大神殿にきていた。
老化した体を「巻き戻す」ためだ。
そこには、大神殿の奥には、闘技場のような巨大な儀式場があった。
それに、3000人ほどの信者を集め、燃料にする必要があるらしい。
ウルスは、自分ひとりのために、それだけの犠牲がでることに何の躊躇いも感じなかった。大神官たちも同様だ。
ウルスは大神殿に設けられた儀式場に向かう。
そこには呼吸のできる不思議な水槽があった。
ゆっくり体を沈める。
最初は抵抗があったが、すぐに慣れた。
儀式がはじまった。
大神官たちが、不思議なうたのような呪文を30分くらい歌い続けると、水槽が光で満たされていく。
こうして、儀式は終わった。
そこから、出てきたウルスを見た大神官は、皆驚いていた。
そこには、髪色こそウルスと同じ赤色だが、他はファリス・ロドスそっくりだった。
一方で、これまで教会が知っていたファリス・ロドスは金髪だった。
儀式上にあった鏡を見て、赤髪のファリスは笑った。
「ははははは……。戻った、戻ったぞ」
神官たちは対応に困ったが、赤髪のファリスと話をしていくうちに、元々は、ファリス・ロドスだったのだということがわかった。
「巻き戻す」の儀式は、名前とは違う儀式だった。
①.これまでの体を捨てる
②.「魂」に合わせて「体」を作り直す
③.「魂」の消耗した部分を埋め直す
という儀式だった。
魂に合わせて、体を作り直したので、ファリス・ロドスの体になった。
しかし、ウルスの体にいた時間があったことで中途半端に混じって、髪色が変わったようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クフィール王国のラシド教団からの情報は、
ファリスたちの国にも伝えられた。
勇者ウルスは亡くなった。
勇者ファリス・ロドスが誕生した。
どちらも赤髪だった。
これまで、教団には悩まされ続けた。
だけど、今や教団の影響力は皆無になった。
代官たちも信者をやめた。
領民たちも、新しい勇者の誕生に歓喜するどころか、静かに教団から離れていった。
なぜなら、ファリス・ロドスの名前と悪名は、
それほどまでに酷いものだったからだ。
それに「この世界にはラシド教の信者はいない」
という「ウソ」もついたしな。
一方、今の俺は、金髪だけど……
「同じ名前が2つあって、ややこしいな」
同じ情報を、レスタもライナもエリナも見ている。
「これからは、あいつを赤ファリスと呼ぶべきか?」
「あんたの名前の方を変えましょうよ」
レスタがノリノリで、改名を促してくる。
「どうせ、あんたの国になるんだし、今までの戸籍にこだわる必要ないでしょ」
あいつは気が短い。俺は、今、答えを急かされている。
「こういうの苦手なんだけど?」
「さぁ、考えて。今、すぐに……」
「ファリスはファリスだよ」
エリナは改名に反対のようだ。
「私もファリス・ロドスって名前好きじゃなかったのよ」
ライナは改名に賛成のようだ。
「名前は何でもいいから、姓をタルテにするべきですわぁ~」
「いや。それ、お前の姓じゃん」
エリナは反対している。
でも、俺自身はファリス・ロドスという名前に未練はない。
というか、変えられるなら変えたい。
だって、ファリス・ロドスは、領民から嫌われてるし、
変な2つ名とか付いてるし。
まぁ、2つ名がついたのは、ほぼ俺のせいだけど。
「そうだなぁ……」
考えている間にも、レスタ、ライナ、ローラの3人は、いろいろとネタになりそうなダサい名前を上げては笑い合っている。
国名は、自由っぽい感じのがいいかな。
リベルとかなぁ……。
共和国でもいいのだけど、俺がトップでなくなった途端に灰とか諸々の効果が消えるのも怖い。
周辺の脅威がなくなるまでは、しばらくは王国で我慢してもらおう。
名前は、もっとカッコいいのがいいな。
アストラ、レオン、ノヴァ、アーク……。
うん、これがいいかな。
「決めたよ!」
「変えちゃうの?」
エリナが不満そうに言う。
「俺もファリス・ロドスの名前は好きじゃなかったんだ」
「え~!!」
「だから、一緒に新しい名前を受け入れてほしい」
「うん、わかった」
エリナは顔を赤らめて下を向いた。
ん? 俺、なんか変なこと言った?
「それで、新しい名前は?」
「国名はリベル王国にする」
「「違う! そっちじゃない!」」
「今日から俺は、アーク・リベルだ」
こうして、俺の『ファリス・ロドス』という役目は終わった。
「どうせなら、顔も変えましょうよ」
「え?」
「知ってるわよ。あんた、『ウソ』を本当に出来るんでしょ」
いつの間に知られていたんだろう。
まさか、幼馴染にも、それを知られているとは思わなかった。
とはいえ、物事には順序があるな。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
俺は、力を貸してくれている代官や、ミカン(魔王)たちを至急呼び寄せた。
「見た目を変えようと思います!」
彼らの前で、そんなことを言った。
「「は?」」
案の定、予想通りの答えが返ってきた。
「ファリス・ロドスは領民から嫌われてる。この見た目では統治しづらい」
メガネとか、帽子で誤魔化そうとも思ったけど、
あんまり変装できそうになかったから、姿自体を変える。
「まぁ、そうですね」
「いいんじゃないですか」
「そうね」
口々に出るのは賛成意見ばかり。
「敵側に赤髪のファリスが誕生したので……」
「はい」
「今までの不評は、
全部あいつのせいということにしたいと思います」
ローラによる粛清事件も含めて押し付けてやる。
「ぷっ……何それ」
幼馴染のライナが笑った。
「見た目を変えるのはわかりました。でも、できるんですか?」
「できる」
エリナが裾を引っ張ってくる。
「ん?」
「今のままがいいな」
「ごめんな。俺としては、この姿を続けるのはキツイんだ。
せめて髪色だけはエリナと同じにするよ。
だから受け入れてくれ」
「ん……わかった」
そう言って、エリナは下を向く。
ちょっと顔が赤いか。熱あるのかな?
「で? どんな姿にするの?」
「あいつがウルスの見た目じゃなくなったみたいなので、
今の知識は、そのままで、元の外観に戻そうと思います」
「いいじゃない。いいわ。すぐ変えましょう。すぐ……」
幼馴染のライナが異様に食いつく。
そう言えば、元の俺の見た目を気に入ってたんだっけ……
「俺は外見だけウルスになる。でも髪色はエリナと同じ色」
という「ウソ」をついた。
澄んだ音が脳内に響いた。
空気が一瞬入れ替わる感覚がした。
発動した。
「どう?」
「かわいい! かわいい!」
喰いついてくるライナ。
ちょっと怖いくらい。距離感近っ……。
「かわいい男の娘ですわぁ~!」
ローラも、変なことを言ってくる。
「うん、かわいいと思う」
エリナもボソッと言う。
「これまで、敵だった姿なのは気になる。
だけど、かわいいし、髪色合わせてくれたしガマンする」
そう言いなおしたエリナをなでなでする。
「本当に姿を変えられるんですね。驚きました」
「勇者ウルスと見た目が一緒ですけど、髪色も違うので大丈夫でしょう」
「勇者ウルスの人気は高かったし……。
前回の戦争でも、ウルスが攻撃したのは領主様だけです。
ウルスの姿で抵抗を感じる国民はいないと思います」
「それじゃあ、大丈夫そうだね」
こうして、新しく始めていく準備が整った。
領地の立て直しは一段落。
陸地に繋がる隣国との国交は断たれたが、
そこから買いたいものはない。
海はないが川はある。
隣国に川をせき止められたら終わりではあるが……。
国としてもやるべきことも、まだ、いっぱいあるだろう。
それでも、なんとかなる気がする。
俺には、こんなにも頼れる仲間たちがいる。
こうして俺は、ファリス・ロドスを捨て、アーク・リベルとして新たな一歩を踏み出した。
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お読みいただき、ありがとうございます!
これにて完結となります。
ここまで、お付き合いいただき、
心より感謝申し上げます。
少しでも楽しんでいただけましたら、
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今後の創作活動の励みになります。
この話には、もちろん続きがあります。
それは、新作としてスタートします。
主人公は『ファリス・ロドス』の名を捨て、『アーク・リベル』として新たな人生を歩み始めます。
リベル王国の建国と領地運営、そして周辺国との戦争――。
これまでとはまた違った物語を、ぜひ楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは、次回作でまたお会いしましょう!
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