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シングル・ライフ-VR世界に舞い降りた名探偵-  作者: いまだめい


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2/2

タルフェの町の死亡ログ

最初の町へ向かう道中、まあとんのゲーム初心者向けの丁寧な指導のもと、ダイゴは剣と盾の基本的な構え方を習得した。


「ほら、ダイゴさん。タンクは前に出て、敵の攻撃を引きつけるのが仕事ですよ。私が後ろから魔法で火力を出しますから!」


「なるほど……盾で受け流し、剣で反撃、か。ふむ、戦術的だな」


ダイゴは、ゲームの操作こそ不慣れなものの、戦術の理解力は中年男性らしからぬものだった。グリーンスライムやホーンラビットといった初期モンスターを相手に、二人は順調に経験値を稼ぎ、二人ともレベル5に到達したころ、ようやく建造物が視界に入り始める。


「あ、あれがタルフェの町だ! やっと着きましたね!」


レンガ造りの家々が並ぶ、賑やかな町「タルフェ」。初期プレイヤーが初めに訪れる地。ゲーム開始初期なのも相まってひと際賑わう町の空は赤く染まり、夕暮れの鐘が鳴り響く。ダイゴの視覚と聴覚には、現実と変わらない、圧倒的なリアリティが流れ込んでくる。


「今日はもう日が暮れますから、どこかで宿を取りましょう。ほら、あそこの宿屋に行きましょう!」


まあとんの提案で、二人は手近な宿屋『雛鳥』へと向かった。


宿屋のカウンターにいたのは、エプロンをつけた優しそうな女性のNPCだった。まあとんはダイゴに、チェックインの手続きをしてみるよう促した。


「ダイゴさん、行ってみてください。このゲームのNPC、最新のAIを搭載してるんですよ。人間とほとんど区別がつかないくらい自由に対話できるって評判なんです!」


まあとんに言われるまま、ダイゴは受付嬢に話しかけた。


「……今晩の宿泊をお願いしたいのだが」


「はい、ようこそ、旅のお方。ご夕食と朝食付きのプランでよろしいでしょうか? お二人の冒険話、ぜひ聞かせてくださいね」


受付嬢はダイゴに笑顔を見せ、まるで本当の人間のようにダイゴの言葉に応じ、自然な会話のキャッチボールを成立させる。ダイゴは内心、その技術に驚嘆した。


「お、新人さんか? 楽しめてるかい?」


背後からダイゴ達に声をかけてきたのは、初期装備からいくらかランクの高そうな装備をまとった3人組だった。


「僕はゾロ。チェックインは無事できそう?」


たくましい体躯に、人懐っこい笑みを浮かべている男はゾロと名乗った。重厚そうなアーマーを見るに、ダイゴと同じく剣士なのだろう。口調から滲み出る親切心は、ダイゴのチェックイン手続きが順調であるかを気にしているようだった。


「急に話しかけてごめんなさいね。私はアイリス。彼、誰にでも手を差し伸べちゃうタイプだから・・・」


ゾロの行動を御すように割り込んできたのは、アイリスと名乗る女性。少しゆとりのあるパープルのローブを着た柔和な彼女は、申し訳なさそうに弁明した。装備を見るに、おそらくまあとんと同じマジシャンだ。


「ああ、僕らはチェックイン済みだから、どうぞごゆっくり。」


そう言葉を続けたのはもう一人の男。まあとん、ダイゴとも似つかない装備だが、背負う大弓からアーチャーであることがすぐ分かる。


「あ、僕はクダンです。ここ3人はパーティなんで・・・その、お構いなく。」


親切心で暴走したゾロに引っ張られるように、アイリス、クダンはまあとん達への挨拶を済ます。


引き続きダイゴがチェックイン手続きをしている間、まあとんは先輩プレイヤーと軽く会話を交わす。といっても、会話は全てゾロが担当し、アイリスとクダンは一歩後ろで眺めているだけだったのだが。いわく、彼らは冒険から戻ってきたところだという。


「この『雛鳥』は食事が豪華でね。朝夕食付きだからオススメなんだ。だから先にチェックインだけ済ませて、俺たちも夕食の時間に合わせて戻ってきたのさ」


「なるほど・・・というか、もうレベル10超えなんですね!」まあとんが目を輝かせた。


「はは、まあな。ところで、夕食を一緒にとらないか? 大勢で食べた方が美味いだろ!」ゾロは快活に誘う。


ダイゴとまあとんは、これを快諾。チェックインを済ませたダイゴも軽く挨拶し、ゾロに連れられ1階食堂へ向かう。





宿屋の食堂には、最初の宿屋とは思えないほど豪華な料理が並んでいた。


五人でテーブルを囲み、食事と会話を楽しむ。


「ダイゴさんは、本当にゲーム初心者なんですね。初期ジョブで剣も使えないなんて、都市伝説かと思ってましたよ」クダンが笑う。


「お恥ずかしい限りだ。おかげで、まあとんさんに助けてもらってばかりでな」ダイゴが少し照れたように答える。


先輩プレイヤーたちは、騎乗ペットを獲得するためのクエストについて話してくれた。「早く騎乗ペットを手に入れて、もっと遠くまで冒険したい」と夢を語る彼らの姿に、まあとんは期待を膨らませ、ダイゴは馬やドラゴンに乗れる事実にただただ唖然とするばかりだった。


楽しい時間はあっという間に過ぎ、盛り上がったところで解散となった。


「じゃあ、おやすみ。また明日な!」


ゾロはそう言って、クダンとアイリスにそれぞれ部屋の鍵を手渡した。クダンとゾロは2階の部屋へ。アイリスは1階の部屋へ。


まあとんとダイゴも、鍵を受け取り自室へ向かう。


まあとんは203号室、ダイゴは204号室。二人は隣同士だった。






夜が明けて。


翌朝、ダイゴはまあとんと共に朝食を取るべく食堂へ向かった。ゾロとアイリスはすでに席についており、朝食を始めている。


「おはようございます!」まあとんが明るく挨拶した。


「おはよー! クダンはまだ起きてこないみたいだけど、先に食べちゃおうぜ!」ゾロはいつもの快活な笑顔だ。


アイリスも静かな笑顔で二人を迎え入れる。このパーティ、会話の大部分はゾロが担当しているせいか、アイリスは静かに佇む美人になってしまっている。

思えば最初の挨拶以外、笑っているのは何度か見たが彼女から何か話したことはあったろうか。


四人で和やかに朝食を終えるが、クダンは一向に姿を見せない。


「珍しいな、あいつがこんな時間まで寝てるなんて」ゾロが首を傾げた。


「起こしてくるよ。あいつのことだから、スキルセットとか小一時間見直してるかもしれないし」

ゾロが立ち上がり、続くようにアイリスも席を立つ。クダンの部屋に向かうのだろう。


まあとんとダイゴはその場に残り、朝食に手を伸ばす。少し心配になり、まあとんがダイゴに目を合わした、その時だった。


ドンドンと、1階にも届くような強いノックが響き渡る。どうやらクダンは全く反応する様子は無いようだ。

しばらくノックとゾロの呼びかけが続いたが、どうも成果は無かった様子で、しびれを切らしたゾロは1階に戻り、受付のNPCにマスターキーの使用をお願いしていた。


マスターキーを用意できた受付嬢を連れ、改めて2階へと戻るゾロ。

それからほどなく、ゾロとアイリスの驚く声が響き渡った。


「え、ちょっ、クダン!?」


ダイゴとまあとんは顔を見合わせ、慌てて階段を駆け上がった。


2階の廊下。201号室の入り口で、ゾロとアイリスが、開け放たれたドアの前で立ち尽くしていた。その顔は、VRMMOの軽い感情表現とは程遠い、現実の驚愕に歪んでいる。


ドアの向こうをのぞき込んだダイゴとまあとんの視界に、現実ではありえない光景が飛び込んできた。


床には、人が倒れた形状に沿って、赤いチョーク・アウトラインが引かれている。そして、その人型の中央に、ホログラムのようなテキストが浮かび上がっていた。


『クダン:死亡から5:34』


『氷属性攻撃を受けて死亡』


クダンが倒れていたであろう場所には、彼の姿はなく、ただログアウトしたかのように消滅した後だけが残されていた。『誰が殺したか』という情報が表示されていないあたり、リアルさを重視したゲームシステムに嫌気すら感じる。


「まあとん、これは……」


ダイゴの表情が、平穏な日常のそれから一瞬にして真剣な眼差しへと変わる。


「うん、クダンさん、殺されたんだ。さっき話したよね・・・こうなったら、クダンさんはもう戻って来れない。」


まあとんが震えた声で返す。


「モンスターが宿屋に入ってきたのか?」


ダイゴが続けて質問する。まだこのゲームに関する知識が伴っていないまあとんは、ダイゴが言う通りMOBが町に進入した可能性があるのか分からず答えを出せずにいた。


「町にMOBは・・・いや、モンスターは入って来れないんです。」


まあとんの代わりにダイゴに答えたのはアイリスだった。


「もっと言うと、宿屋の個室はプライバシールームになっているから、内側から開けるか鍵がないと開けられないの。そして、今さっきまでこのドアは閉まってた。だからつまり・・・」


「密室殺人・・・だと言うのか?」


アイリスは神妙な面持ちで静かに頷く。


初めて入った町。宿泊した宿屋。閉鎖的な空間。そして、ゲームのシステムが示す「殺人」のログ。


VR世界に足を踏み入れた男は、この「ありえない密室」を前に、静かに眼光を鋭くした。

第2話スタート!いよいよ本編入ったな、って感じですね。この調子だと、3,4話で1セットになりそう。


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