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将棋
『パチリ』
昼休憩に部長と将棋をさした。
部長は手にした駒が滑らない様に、次の手を考える間中、ロジンバッグを右手でポンポンとお手玉の様に放った。
『パチリ』
『パチリ』
「おっと、これは少し考えさせてくれないか」
部長はそう言うと、今度はロジンバッグを手の平、手の甲と交互に弄びながら眉間に皺を寄せた。
見る見る内に、視界は白く薄らいでゆき、部長から眉間の皺を奪い、輪郭を奪い…、そして全てが煙幕に包まれた。
私は霧深い針葉樹林の旧国道に迷い込んだ時に似た不安を覚えた。
何と心細い事か。
『誰か…誰かいないかー!』
その時である。
「よし王手だ」
煙幕の中から部長の真っ白な右手がヌッと現れた。
『パチリ』
その駒は真っ白で文字は読み取れなかった。
「…参りました」
徐々に晴れてゆく視界に安堵しながら、私は深々と頭を下げた。
“白将棋”の異名を持つ部長の無敗記録は続くのだった。




