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二度も婚約が破談になりましたが、三度目は幸せになれそうです  作者: 四折 柊


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13/21

13.二人の母親

 私は姿見を見た途端、顔が綻んだ。浮かれた気持ちのままくるりと回ればドレスがふわりと揺れる。

 藤色のドレスの胸元とスカートには黒と金色の刺繍が交わるように施されている。私の髪の色とオリス様の髪の色。


「エルシャったら上機嫌ね」


「でも、よく似合っていてよかったわ」


 お母様とダニエラおばさまにも同席してもらってオリス様の贈ってくださったドレスを試着している。


「オリス様がお母様とダニエラおば様にも手伝ってもらったとおっしゃっていました。ありがとうございます」


「オリス様はそれはそれは熱心に考えて下さっていたわよ」


「手伝えて私も楽しかったわ。でも、メリア。私がエルシャのことでここまで口を出してしまって不愉快ではない? 母親のあなたがいるのに、ついでしゃばってしまって……」


 ダニエラおば様は悲しそうに俯いた。おば様がそんなことを気にしているなんて私は気付かなかった。小さなころから呑気にお母様が二人いるような気持ちで喜んで甘えていた。


 ダニエラおば様は身分の高い人にも対応できるようにと私に貴族のしきたりや立派な淑女になるための教育を与えてくれた。お母様が苦手な裁縫や刺繍もおば様のおかげで身についた。ラモンおじ様は厳し過ぎないかと心配して下さったが、私は新しい知識を得る喜びに浮かれ辛いと感じたことはない。ダニエラおば様も私が上手に出来た時は目一杯誉めてくださった。

 対してお母様はもし平民の男性を好きになって貴族であることを捨てることになっても生活できるように、料理や掃除など自活できる方法を教えてくれた。料理やクッキーの作り方もお母様から学んだ。貴族令嬢は厨房に入ることはあまりないらしい。それ以外にも下町での買い物の仕方やお金の価値についてもお母様から教えてもらった。お母様は貧しい子爵令嬢だったので苦労してきた分、私に苦労させたくないがもしそのような状況に陥った時に何も出来ずに困ることがないようにと考えてくれていた。

 両極端ではあるが、私にとってはどちらを学ぶのも楽しいだけだった。


「ダニエラったら、変なことを言うのね。嫌なはずないじゃない。あなたがどれだけエルシャのためにいろいろなことをしてくれたかちゃんと知っているわ。あなたは私の可愛い娘を一緒に愛してくれているのよ? それはエルシャだけじゃなく私にとっても幸せなことだわ。それに母親の独占欲でエルシャに与えられるはずの愛情を取り上げるなんて馬鹿げている。多くの愛情がこの子を守り幸せにしてくれる。いつだってダニエラには感謝しているわ。ありがとう」


 お母様はカラカラと笑っている。


「メリア……こちらこそありがとう」


 私はなんて幸せなんだろう。それを改めて実感し瞳が潤んだ。貴族であれば冷たい親子関係の家だってある。それなのに両親だけでなくラモンおじ様にもダニエラおば様にもこんなに大事にしてもらっている。


「あとはね~。エルシャがもっと自分に自信を持てばいいのだけどね。この子は自分が魅力的だってちっとも自覚がないのよ。ねえ? ダニエラ」


「そうよ。エルシャは誰よりも魅力的な女性よ。私が保証する。あなたはこれからオリス様の隣に立つのでしょう。彼を支えられる女性になる為にも自信を身につけましょう。ね?」


 ダニエラおば様が笑顔で威圧してきた……。確かに淑女としての教養や知識をダニエラおば様は沢山くれた。それは伯爵令嬢の立場であれば身につけることは難しかったことだ。本当に有り難いのだが、それでも自信があるとは言えない。どうしても過去の婚約者の態度を思い出すと自分に魅力がないせいだと思ってしまって……。


「自信……どうやったら身につくのかしら?」


「エルシャったら難しく考え過ぎよ。あなたは素晴らしい娘だという私たちの言葉を信じるのよ。私とロアルドとラモンとダニエラにこれほど愛されている自分は最強! そう思わない? だからオリス様も求婚してくれたのよ。エルシャはあなたを愛している私たちや彼の心を疑うの?」


 その言葉に目を丸くした。そうか……。いつまでも俯いていることは彼らを悲しませてしまうことだ。自分を否定し続けることは私を愛してくれる人達やオリス様の気持ちも否定することになる。皆の気持ちに応えるためには自分が自分を認め胸を張らなくては。

 それに両想いだと分かった以上オリス様の隣を誰にも渡したくない。あの優しい場所は私だけの場所。私は彼と幸せになりたい。

 誰に何を言われても恥じたりしないように顔を上げて自信を持とう。今までダニエラおば様やお母様に多くを学んできた知識がこの身の内にある。それは私の心の礎となり誇りになる。


 それだけではなくオリス様が目を逸らすことなく私に告げて下さった「好きだ」という言葉が私の心を支えてくれていた。




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