少数精鋭なんだよ
そう聞けば、理解できる。つまり、他の兄弟は見えていても記憶に残らなかったのだ。
庶民の事など一切興味がない。そうした『ダメな王族的性質』が発揮されたということなのだろう。
「……なんてこと」
そうだとすると、「ブリギッテを狙う何者か」にとってイストファは障害になりえない。
イストファの背後に見える「ステラ」が見えていないからだ。
いや、だがそれでも「王の友人」という情報くらいはすぐに入手するはず。それが盾になるはずだ。
いや……本当にそう、だろうか?
所詮庶民。そう判断してしまいはしないだろうか?
「ステラから大体の話は聞いてる。つーか、こんな単純な話もねえだろうが」
「……どういうことですの?」
「お前に悪意を持ってるのは誰かって話だ」
「そんなの、今の私の状況を思えば」
「アホだな、お前は」
「はあ⁉」
「こんなもん、推理するまでもねえぞ。ま、分かんねえなら後でイストファにでも聞いてみろ」
「あの子が何だって言うんですの? 得難い人物なのは分かりますけど、そんなに頭が良いようには」
むしろ頭は良く無い部類だろうと言いかけたブリギッテだったが、ちょっとイラついた様子のカイルを見てグッと黙り込む。
「長期的な視点の話じゃねえんだよ。おいイストファ!」
「え、何? カイル」
「お前、そいつと色々練り歩いたんだろ。一番怪しいのは誰だと思う?」
「ん、うーん」
考える様子を見せるイストファに、ブリギッテは冷めた視線を向ける。
どんな頓珍漢な事を言うのか、と。そう思ったのだ。
「第2王子様……かな」
「なんでそう思ったか言ってみろ」
「ブリギッテ様が狙ってた『黒杖騎士』候補を奪うくらいには仲が悪い……というか、嫌ってるんだよね? あと会ってないのは第1王子様と第1王女様くらいだけど……それを除けば、一番怪しいかなって」
「その2人については気にしなくていい」
「そうなの?」
「ああ。で? そこから考えられる手段……お前が防ぐべき事態ってのは何だと思う」
「それは……分からないや。同じ王族のお姫様に無礼打ちなんてないだろうし」
「お前、無礼打ちなんて知ってたんだな」
「さっきされそうになったから……」
「んだとぉ⁉」
カイルは一瞬で沸騰しかけ……すぐにハッとしたようにステラへ振り向くが、ステラの感情の動きはカイルにも読めない。そんなカイルの横を通り過ぎ、ステラはイストファの頭を撫でる。
「でも、されてないって事は乗り切ったのね」
「えっと……僕がっていうよりはヘンドリクソン様に助けてもらって」
「ふーん?」
さほど興味なさそうに言うステラを押しのけ……ようとして弾かれて、カイルは不機嫌そうな表情で咳払いをする。
「ま、考えられる手段はそう多くないな」
暗殺、謀殺。しかしステラがイストファに「勉強」をさせようとしているのなら、おそらくは暗殺だろうとカイルは考えている。
「たぶん高確率でアサシンが紛れ込んでるだろうな」
ステラであれば全員の潜伏場所を看破していてもおかしくはないが、やらないだろう。
どうでもいいからだ。これはもうどうしようもない。
王直属の隠密達も動かないだろう。彼等は「王」の直属であるし、王自身も彼等にどうにかするように命令は下さないだろうとカイルは考えている。
これを乗り越えるのも才覚。そう考えていてもおかしくない。
「アサシン、か……」
思い出すのは、ミリィを狙っていたらしいアサシンのことだ。
あれからイストファも強くなったが……王族が雇うようなアサシンなら、きっと腕はもっと上なのだろう。
「具体的にどのタイミングを狙ってくるかは分からないが……何があってもいいように、俺から提案がある」
「提案?」
「ああ。ちなみにコレはステラも了承済だ」
カイルの提案……というよりは作戦だろう。それが何か分からずにイストファは疑問符を浮かべ、ブリギッテも胡散臭いものを見るような目でカイルを見る。
「カイルお兄様……何を考えてるんですの?」
「たいした事じゃねえよ。お前の『仮』の黒杖騎士を充実させてやろうってんだ」
仮、の分をやけに強調するように言うと、カイルはニヤリと笑う。
「黒杖騎士を?」
「ああ、『仮』の黒杖騎士をな」
「……カイラスお兄様。友達をとられたからって仮を強調するのはやめていただけるかしら」
「とられてねえし。お前に貸してやってるんだ。勘違いするな」
「役に立つようなら、このまま正式に取り立てても構いませんのよ?」
「ハッ、無理だな。イストファの目標はそうじゃねえし、そういう日が来るなら俺の黒杖騎士になりたがるだろうよ!」
バチバチと睨みあう2人にどうしたものかとイストファがオロオロするが、すぐに2人は真顔に戻る。
「で? その候補っていうのは誰ですの? カイラスお兄様の人脈なんて、たかが知れてるでしょうに」
「少数精鋭なんだよ。俺の友人でもあるな」
そう言われて、イストファもそれが誰かに思い当たる。
確かに護衛には最適だし、何かあってもすぐに対処できる人材でもある。
「んじゃ、行くか。たぶん部屋に居るだろうしな」





