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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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結構いけると思うがな

「あれ? 此処って」


 しかし、カイルがイストファ達を連れてきたのはドーマに用意された部屋ではなかった。

 カイルが扉をノックするとメイドが顔を出し「お待ちください」と告げて部屋の仮の主を呼ぶ。


「あれ、どうしたんですか? あと、そちらの方って……」

「おう、ミリィ。お前に頼みがあってな」

「はあ。頼み……ですか?」


 部屋にカイル達を招き入れたミリィは……メイドをも追い出して彼等だけになった部屋で事情を聞き、顔を青くしていた。


「……仮の黒杖騎士? ボクが、ですか?」

「おう。お前が最適だ」

「無理無理無理! 無理ですよ! ボクの職業を忘れたわけじゃないでしょうに!」

「おう、知ってるさ」

「こういう時はどう考えてもドーマでしょう⁉」

「僕もそう思うよ、カイル」


 ミリィに、イストファも頷く。そう、イストファもドーマに声をかけるものだと思っていた。

 何しろ、イストファの知る限りではドーマは対人の格闘術に長けている。それは護衛という役割では非常に役立つだろうし、何よりドーマは神官戦士だ。回復魔法も強化魔法も使えて、怪我をした時にも実力的に上の相手が出てきた時にも頼りになる。


「ドーマはダメだ。アイツは確かに隙が無いが、単純に上回る相手が出てきた時には簡単に負けそうだからな」

「ドーマが聞いたら怒るよ、それ」

「ボクがチクります」

「おいやめろ」


 本当にやめろよ、とミリィに釘をさしながら、カイルは咳払いをする。


「別にドーマを馬鹿にしてるわけじゃねえんだ。単純に向き不向きの問題だからな」

「だから、ドーマの方が向いてるでしょうに」

「単純に護衛『だけ』ならな」

「……まさかカイラスお兄様。『黒杖合わせ』の事を仰ってるんですの?」

「そのまさかだ。ジョセフは絶対に仕掛けてくるぞ?」


 黒杖合わせ。それは王族同士のもめ事を解決する1つの手段でもある。

 王族直属の護衛である黒杖騎士同士を戦わせ、その勝敗によって要求を通す方法だ。

 これがあるから、どの王族も黒杖騎士の選定には慎重になるし……今、仮とはいえブリギッテにはイストファという黒杖騎士がいる。


「でも、通す要求がありませんわよ。私は利権にもほとんど絡んでいませんし」

「模擬試合があるだろ。むしろ、そっちの方が本来の黒杖合わせだ」

「でも、黒杖合わせの最中に暗殺なんて」

「何があるかなんて分かんねえだろ。だから、お前の『友人』枠としてドーマを当日にお前の隣に配置する。俺の友人のドーマをな」

「妙なところで上に立とうとするのはやめていただけるかしら」

「一応言っておかねえとな」


 聞いていたイストファとミリィは苦笑していたが……やがてミリィがハッとした顔になる。


「って、待ってください! それってボクがその黒杖なんとかってので戦うってことでは⁉」

「おう、その通りだ」

「無茶ですよ! 相手は王族の護衛なんでしょう⁉」

「そうか? 結構いけると思うがな」


 何をそんなに怖がってるんだ、と言いたげな顔をしてカイルは、ミリィの肩を叩く。


「心配はいらねえよ。サラディア八剣やミノタウロスとソロで戦えって言ってるんじゃねえんだ」

「そんなのと比べられても……」

「でも、相手には金級冒険者もいるよ?」

「へえ、誰だ?」


 イストファの言葉にミリィが「ああーっ」と声を上げているが、カイルは逆に面白そうな声をあげる。


「紅蓮のガラハド、だったかな」

「ふーん。知らねえな、ステラはどうだ?」

「興味ないわねー。そもそもギルドの等級ってのは貢献度よ? 実力が高ければ等級が高いってものでもないわ」


 そう、以前イストファが真正面から倒した冒険者たちも銀級だった。彼等も等級だけで言えばイストファの遥か上だったのだ。

 腕輪の色は実力を必ずしも保証しない。それは今のイストファにも理解できている。


「でもたぶん、あの人は凄く強いと思う」


 油断を含めても、一瞬で首に剣を突き付けられた。だが、油断していなければどうだったかは怪しいものだとイストファは思う。だからこそ、イストファはガラハドをかなりの格上として認識していた。


「そうか。ま、それについても俺は勝算はあると思ってるが……」

「え、どうして?」

「んー……まあ、間違ってたらカッコ悪いし、今度な」


 それに、とカイルは続ける。


「黒杖合わせは命の取り合いじゃねえ。相応に怪我は負うが殺しは禁止。王宮付きの神官も待機してるくらいだ」

「そうなんだ」

「1つも安心できるポイントがないんですけど……」


 ホッとした様子のイストファと違いミリィはげんなりした表情だが、カイルはそれを笑い飛ばす。


「だから、命の取り合いじゃねえし何もかかってない試合だ。気楽にやれよ」

「そもそも、ボクが人前であんまり戦いたくないの忘れてませんか?」

「その為に親父に願い出たんだろ? 明日には公布されるぞ。呪法士への差別を禁じ罰する法律がな」


 そう、ミリィが願い出たのはそれだ。ミリィが今の状況にあるのも、元はと言えばそれが原因だ。

 だが一旦王の名により「差別を禁止」と法になれば、地方領主にまでそれは徹底される。

 二度と同じような事は起こらないし……ミリィも堂々と呪法士を名乗れるというわけだ。


「言ってみれば、これは『呪法士ミリィ』のデビュー戦だ」

「ボクの……って、待ってください。そもそもボクの名前はミ」

「よかったね、ミリィ!」


 イストファの心の底からの喜びの声に押され、ミリィは言いかけた言葉を飲み込んでしまう。

 まあ……本当にもう、今さら過ぎてどうしようもない。


「……仕方ありませんね。イストファの親友の1人として、ボクもやるだけはやってみましょう」

「よーし、よく言った!」


 ミリィの背を叩きながら、カイルは慎重に思考を巡らせる。


(だが、問題はそこじゃねえ。たぶんジョセフの馬鹿兄貴が仕掛けてくるのは賭け試合の方だろうな。一体何をネタにするつもりだ……?)


 カイルの疑問は……なんと次の日に、早くも解消されることになる。

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