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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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まあ、たぶん

 ……つまり、それは一瞬。

 その場に居た全てを置き去りにして、2人は剣を振るう。

 同じ必殺剣。しかし、異なる剣閃。

 当然だ。ノーツの必殺剣は自身の「最高」を意図的に繰り出す技。

 そのぶつかり合いに「読み合い」などという要素は存在しない。

 言ってみれば、これは互いの剥き出しのエゴ。これが自分だという叫び。


 故に、止まることはない。曲がる事もない。

 響いたのはギイン、という音。咆哮のような、悲鳴のような。そんな音が響く。

 交差した2人が、幻影都市の地面を靴底で削りながら停止する。

 振り抜いた剣。静寂が訪れて、誰かが息を呑む。

 バキン、と。イストファのファルシオンが砕け落ちる音が響く。

 流れ落ちる血は、ノーツの必殺剣が極まった証か。


「イスト……ッ」


 カイルが動きかけた瞬間。カツン、と何かが落ちる音が響く。

 それは、ノーツの剣が断たれ地面に落ちた音。

 再び訪れた静寂の中……「ハッ」というノーツの笑い声が放たれる。


「そうか。俺の負けか」

「……勝った気はしない、かな」

「次があればいいんだがな。まあ、たぶん……それは、ねえな」


 半欠けになった剣を手放さないままに、ノーツは倒れて。

 イストファは壊れたファルシオンを手放しノーツへと駆け寄っていく。


「ノーツ……!」


 自身の怪我を忘れたようにイストファはノーツを抱き起こし……そんなイストファに、ノーツは苦笑する。


「……おいおい。剣士が剣を手放すんじゃねえよ。俺を見ろ。倒れても握ってるだろうが」

「ノーツ! 僕は……!」

「こんな終わり方望んでなかった、ってか? ハハッ……正直、かなり上等な終わりだとは思うぜ?」

「でも、もっと何か……」

「ねえよ。分かってんだろ? 俺は今を生きてねえ。過去の亡霊なんだよ、イストファ」


 そう、ノーツはこの第6階層「追憶の幻影都市」のレアモンスターだ。

 その行動がどれだけ人間らしかったとしても、どれだけ心を交わしたとしても……その事実に変わりはない。

 だから、きっと。ノーツの言う通り、これは良い終わり方ではあるのだろう。

 分かっている。イストファも分かっている。

 それでも、分かっているから納得するかといえば話は別だ。


「……泣いてんのかよ。ああ、ったく……お前って奴はよ」


 ノーツの傷口から、ノイズが溢れ出す。

 ザザ、ザザザ……と。避けようのない別れが近づき始めている。

 その身体はもう、動かない。イストファを見上げたまま、ノーツは言葉を紡ぐ。


「なあ、イストファ」

「うん」

「オレもな、正直未練はある……いや、出来たって方が正しいな」


 もう少し、この先を見てみたい。

 それに、それに……だ。

 もし、自分が本当にこの時代に生きていて、イストファ達と出会ったなら。

 その時、自分は……本当に仲間になっていただろうか。

 サラディアの王ではなく、ダンジョンの奥底を目指す冒険者となって、それで。

 

「……ああ、いいな。それはいい。楽しそうだ」

「ノーツ……?」


 叶わないと知っている。

 最初から叶うはずのない夢だ。

 だからこそ、ノーツはイストファの腰の短剣へと視線を向ける。

 ダンジョン産の金属を鍛え直し「成長する」特性を付与した短剣。

 もし、自分に何かがまだ出来るのなら。


「……」


 ザザザ、と。ノーツの姿がノイズとなって消える。

 他の幻影人同様に、そこには何も残らない。

 ……いや、そこには一つの魔石が残されていた。

 大きな、とても大きな。これまでのどの魔石よりも大きな、イストファの拳よりも大きな魔石。

 その魔石に触れようとして……イストファもまた、限界がきてフラリと揺れる。

 だが、倒れるより前に駆け寄ってきたカイル達に支えられ、イストファが倒れる事はない。


「おい、ドーマ!」

「分かってます! ヒール!」


 何度も、何度もヒールをかけて塞がったイストファの傷を確認するとドーマは安堵の息を吐いて……残された魔石に視線を向ける。


「……カイル、ミリィ。1つ提案があるのですが」

「ああ、俺もたぶん同じことを言おうと思ってる。やっちまえ、ドーマ」

「ええ、ボクもそれでいいと思います」

「え……?」


 1人だけ分かっていない風のイストファだが、「短剣借りるぞ」というカイルの声に「うん」と頷く。

 そしてカイルの手から渡された短剣に、ドーマは魔石を触れさせ……合成の魔法を唱える。


「えっ……?」


 通常では有り得ないような、青い輝き。一体何が起こったのかと訝しんだのは一瞬。


「これは……」


 ドーマの手の中にあったのは、進化したイストファの短剣。

 黒鉄製だった刀身は、赤鋼の段階を飛び越え鋼鉄製へ。

 そして……柄に嵌まっている、何処となくノーツを想起させる青い宝石が、新しくイストファの剣に現れた変化だった。


「なんだこりゃ。まさか魔剣化でもしたのか?」

「い、いえ。特殊な魔力は感じません……たぶん、ただの飾りかと」

「そうか……ほらイストファ、返すぜ」

「あのっ、ファルシオンも拾ってきました!」


 ミリィから砕けたファルシオンを、そしてカイルから短剣を受け取ると、イストファはそのまま立とうとして……カイルに「無理すんな」とどつかれる。


「あの八剣の連中も消えてるし……あとは降りるだけだろ。ドーマに任せとけ」

「え、私ですか?」

「お前……俺がイストファに肩貸して歩けるほどマッチョだと思ってんのか?」

「別に私もマッチョじゃないんですが!?」


 何を言ってるんだと言いたげなカイルにドーマは憤慨しつつも、イストファに肩を貸しながら開いた門の奥へと歩き始める。

 その二人を挟むように先頭をカイルが、そしてミリィが最後尾を歩いて次の階層へと繋がる階段を降りていく。

 第6階層、追憶の幻影都市。

 1つの出会いと別れを経て……イストファ達は、この階層を後にした。

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