でも、負けない
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「そっか、気を付けないとね」
「ああ……どうしたイストファ」
自分をじっと見てくるイストファにカイルが不思議そうな顔をすると、イストファは柔らかい笑みを見せる。
「……カイルは最初の目標をクリアしてるんだよな、って。そう思ったんだ」
「あ? 突然何を……って。あー」
俺の魔法が最低限の攻撃力を得るまで付き合ってくれ。そう言ってイストファを誘った事をカイルは思い出す。そういえば確かに大魔法士になるとは言ったが、そんな事も言っていたと、そう思い返す。
「言っとくが、お前とパーティ解消する気はねえぞ」
「分かってるよ。僕もそれは困る」
「おう、それならいい。少なくとも大魔法士になるまでは付き合ってもらうからな」
カイルの差し出した拳にイストファが拳を打ち合わせて。
「……どうでもいいんですが、私の存在忘れてませんかね」
「あ、ドーマ……その、ごめん」
「すまん、一瞬忘れた」
「いえ、いいですけどね。数日とはいえ私は新参ですし。ええ、いいですよ」
ちょっと拗ねた様子のドーマにイストファはオロオロとして、カイルは面倒くさそうに溜息をつく。
「別にいいじゃねえか。出会った日が違えば関係も多少は違うってだけだ。上下があるわけでもねえだろ」
「……ま、それはそうですが。ちょっと寂しいですよ」
「僕はカイルの事もドーマの事も友達だと思ってるよ?」
フォローするようなイストファの言葉は、ただのフォローではなく真実の重みを持っている。
それはイストファが裏表の一切ない性格であり、2人ともその事を分かっているからだが……今度はカイルが不満そうな顔になって、イストファの肩に手をのせる。
「お前に含むところがねえのは分かってるんだが、そろそろ俺は『親友』でもいいんじゃねえのか?」
「ちょっと、上下がないってのは何処にいったんですか」
「建前に決まってんだろが」
「まだ貴方は堂々とそういうことを!」
「ちょっと、ケンカしないでよ……」
仲裁しようとしたイストファだが、2人の喧嘩……ともいえないものは一瞬で収まってしまう。
「ま、それは冗談としてだ」
「ええ。ゴーストの実際のところを見れたのは大きいですね。ただ……」
「ただ?」
何かの懸念をみせるドーマにイストファが問うと、ドーマは気遣わしげな視線でイストファを見る。
「今の様子だとドロップどころか魔石を回収できるか分からないな……と」
「えっ」
言われてイストファはゴーストの消えたあたりを見て……その辺りの床に何かがキラリと光っているのを見る。
「あ、魔石落ちてる」
「ゴーストの場合はそうなるのか」
「案外、魔石の産出はこういう敵からなのかもしれませんね」
そんな事を言いながら3人は魔石へと近づいて。
「オオ、オオオオオオオ……」
「オオオオオオ……」
広い船室……いや、船倉に積まれた荷箱の陰から現れたゴースト達に気付き庇い合うように円陣を組む。
「見える限りじゃゴースト2、どうだ!?」
「同じくです!」
「……待って、何か聞こえる!」
響くのは、カタカタという音。ゴーストと同じように荷箱の陰から、片手斧を持ったスケルトンが現れる。
「スケルトンは僕がどうにかする。それでいい?」
「ああ」
「ええ」
たぶん、あの斧持ちのスケルトンは力が強い。となるとこの中で一番力の強い自分しかどうにか出来ないだろうと判断したイストファの提案に、2人は悩むことなく賛成する。
スケルトンには物理的な能力、ゴーストには魔法的な能力が必要とあれば反対する理由もない。
「ボルト!」
カイルの放った電撃魔法を合図に、イストファとドーマが飛び出す。
「でやああああああ!」
初手から頭を狙ったイストファの斬撃をスケルトンは回避し、お返しだとでもいうかのように強烈な斧の一撃を放つ。
「うわっ」
その場に留まれば真っ二つにされかねなかった一撃をイストファは前へと転ぶように倒れる事で回避し、追撃を受ける前に素早く立ち上がる。
強い。直感でそう感じ、イストファは気を引き締め直す。
武器が違うだけじゃない。力が強いだろうとは思っていたが、先程のカトラスのスケルトンと比べると明らかに力が強いことが分かる。油断すれば、先程のスケルトンのようになるのはイストファ自身だろう。
でも、とイストファは思う。
「……強い。でも、負けない!」
恐れずに、前へと出る。思い出すのは、あの銀級の剣士と戦った時の事。
振り抜かれる斧を短剣で受け流すように弾き、逸らす。
分かる。このスケルトンは先程のスケルトンに比べると大分力任せだ。
でも、力だけなら……あの銀級の剣士の方が強かった。
武器も、恐らくあの銀級の剣士の方がずっと上だった。
なら、負けない。負けられない。
イストファの小盾によるシールドバッシュがスケルトンを弾き飛ばし、それによって作られた僅かな隙を狙いイストファの足払いがきまる。
間抜けにも見える姿で倒れるスケルトンの斧持つ腕をイストファの短剣が斬り飛ばし、そのままイストファは小盾を突き出してスケルトンの後を追うように床へと飛び込み倒れる。
固い何かが砕け散る音が響いたのは、その直後。頭蓋骨を砕かれたスケルトンが機能停止したのは、その瞬間だった。





