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月の入江  作者: 緋絽
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一呼吸

どうも。お久し振りです。

緋絽と申します。

大分期間が空いてしまい、大変申し訳ございません。




本部に帰還すると、ロイさんはすぐに医療棟で治療を施されることになった。入院のようなものだろう。

魔力の消費は私が補えたが、外部の傷はどうにもならない。

ロイさんは特に足からの出血が酷く、もしかすると元のように歩けなくなるかもしれないと聞いた。

それを知ったレオンは、それでも、ロイさんを副隊長の役から下ろさなかった。


事件から、1ヶ月ほど経った頃のこと。

「ご、ごきげんよう騎士様」

普段よりもざわめいている町の巡回中に、普段よりもおしゃれをした女の子に声をかけられた。どことなく上気した頬が、彼女を可愛らしく見せていた。

私は微笑んで返事をする。

「ええ、ごきげんようお嬢さん。素敵な髪飾りですね」

繊細なガラス細工の髪留めを褒めると、嬉しそうに照れたような笑みを見せる。

あー女の子って可愛い。

「騎士様も、今日はとても素敵です。ますます凛々しくお美しい」

今日は私達騎士も普段より立派な、いわゆる祭典用の団服を着ている。

いつも通りの黒の団服に、豪華な金の刺繍が入り、さらにチャラチャラした飾りがいくつかついたものだ。

私は目も髪も黒いので、全身真っ黒だ。

「ありがとうございます」

お美しいとか言ってくれるな。自分が男にしか見えないことは知っているよ。

「あの、これ。よかったらもらってください」

差し出されたお菓子を見て、内心首を傾げながら、表面では苦笑に変えて首を横に振る。

「申し訳ございません。大変嬉しいのですが、職務中ですので、受けとることができないのです」

朝礼的なもので、騎士全員に向けてレオンから、市民から差し出されたものはできる限り丁寧に断るように伝えられていた。

何のことやらと思っていたが、どうして今日に限ってお菓子を差し出されるんだ。

それも1度や2度じゃない。数えきれないほど差し出され、毎回断るのも忍びなく、そろそろ罪悪感で擦りきれそうだ。

悲しげな顔で女の子が俯く。

隣で胡乱な目をしたノックスがこちらを見ていることがわかる。

言わなくても伝わるよ。女なのに相変わらず女にモテるんだなとか言うつもりだな? うーん嫌じゃないけど、なんか許せんぞ。

私は微笑んでノックスの肩に腕を回した。

「どうしてそんなに俺を見るんだよノックス。妬いてるの?」

ふふふ。ちょっとした悪戯だ。

するりと頬に手を掛けてわざと意地悪く微笑む。

目の前のノックスの顔が驚いたように硬直している。

「お、ま……!」

「申し訳ございませんが、お嬢さん。彼がちょっとお話があるようで、これで失礼したく」

そのままの体勢で女の子に水を向けると、女の子が息を飲んだ音がして、何故か謝りながら慌てたように去っていった。いや、理由はわかってる。見てはいけないものを見た気がしたんだよね、ごめんね!

「いつまで引っ付いてんだこのバカ!」

全力で頭を叩かれ涙目になる。

「いっった! 酷くない!?」

「絶対勘違いされたろーがよ! お前ほんとバカ!」

半分わざとだからいいんだ! どう切り上げればいいかわかんなかったし!

「ね、男色の噂が流れるかもね?」

「お前のせいだろ!」

仰る通りだ。申し訳ないとは思ってる。反省はしてない。

「ったく、なんで髪下ろしてねーんだ。少しは女らしく見えるだろーに」

耳の下で1つに括っている髪を、恨めしげにノックスがつんと引っ張る。

「いいんだよ。今更女の子らしい格好なんてしてられないし。ほどいてると邪魔だし!」

「ふむ。元のように切ればいいんじゃないか? あれもなかなか似合っていたぞ」

いつの間にか合流したアルベルトが、背後から声をかけてくる。

「…………自分で切れないの! こっちの世界だと、髪切るの高いし、……高いしっ、これでいいんだってば」

くそう、言い訳が思い付かない。

いいんだ、本当にこれで。

髪が伸びれば、少しは女の子らしくなるかもなんてーーー安直なのは、わかってるけど。

少しの、期待がある。恥ずかしくて、誰にも言えないが。

「わかったわかった怒んなって。後で菓子やるから、機嫌直せって」

頭をガシガシとノックスにかき混ぜられ、私はふくれる。

別に怒ってないけど、ジャムののったパンが食べたい。

そう言うと、二人ともわかったわかったと苦笑した。


「お、祭り……? ですか……?」

休憩中に、街を歩いているキリカさんに出会い、今日はやけにいろんな人に物を渡される日だと世間話をしてみたところ、今日が祭りだからという返事が来た。

「はい。といっても、出店が出たりするわけじゃなくて、そうですねえ、伝統みたいなものなんです。自分の特別な人に特別な物を渡して、心を伝える、というのが大まかな概略です。この日なら、死者も現世に帰ってくることができるとか。今日だけは、どんな人とも心を通わすことができると言われています」

「へええー……」

なんだそりゃ?

お盆とバレンタインを一緒にしたみたいなイベントのようだ。

だから、街の皆がお洒落をしていたわけか。

騎士団が正装していたのも、今日が特別な日であるということを印象付けるためだろう。

「ふふ、色んな人から差し出されたということは、とても人気があるんですね」

「…………そうみたいですね、ありがたいことに……」

同性からのみですが……。

うっ、いやもう慣れたし、素直に嬉しいけど、でも辛い!

「…………その、キリカさんは、あのぅ……」

「はい」

「……………………ラ、ンセルに、何か、渡すんでしょうか……」

聞きづらい。元の世界でもこんな話したことないから、聞いていいことなのかわからない!

何よりちょっと照れ臭い!

顔が熱いのが、自分でもわかるぞ。

それに気付いたのだろうキリカさんが、微笑みを返してくれた。照れたような、優しい笑みを。

「ええ。お手紙と、お守りを。ハルキさんも、どなたかに差し上げては? そういう方は、いらっしゃらないんですか?」

そう言われて、思い浮かぶ顔は、一つしかなかった。

普段、生意気ばかり言っている私が、そんなイベントに乗ることができるだろうか。からかわれたり、笑われたりしたら、ーーー正直、立ち直れない。

不安な顔をしたのだろうか。

キリカさんは、困ったように笑って、腕を優しく叩いてくれた。

続きます。

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