弛緩する
どうも、緋絽と申します。
私の学校は17日までテストなのですが、他の学校はすでに春休みのところもあるとか。羨ましい限りです……。
唇が触れた瞬間、ぱちんと、何かが弾けたように思えた。
自分の意思で操れなかった肉体が、私の意思のもとに帰ってくる。
力のこもっていた指が弛緩する。私は棒を取り落した。気分的にはむしろ振り払うようにして放り出したかったが、体が思うように動かない。正確には、力が入らない。
レオンの顔が離れ、力の抜けた体を支えられた。
ドンドンと心臓が大きく鼓動し、手が震えているのがわかった。
今起こったことよりも、自分の動きが止まったことに私は心から安堵していた。
まだ、あの勢いを、体が覚えている。
私は、ノックスを殺そうと。私は。この、手で。
「ハルキ」
呼ばれてギクリと体が固まる。
そうだ。体が勝手に操られていたと言って、信じてもらえるだろうか。普通私なら信じない。だってあまりにも都合がよすぎる。
ごめんなさい、ごめんなさいレオン。私は、誰も傷付けるつもりはなかったんだ。あんたの邪魔を、しようなんて。
「ご、めんなさい、こんな、つもりじゃ、」
「ハルキ」
「ごめんなさい、許して、」
「黙れ」
低い声にビクッと体が跳ねる。
あぁ。私はこんなに、臆病だったっけ? レオンに嫌われるかもしれないと思っただけで、いてもたってもいられなくなる。
「だって」
レオン、あんたを助けたかったのに。嘘じゃないんだ。本当だ。これだけは信じてほしい。
顔を肩口に押し付けられる。それで口が塞がれたようになった。
「落ち着け。誰も、お前を疑ってない。俺が疑わせたりしない。大丈夫だ」
レオンの言葉と腕の力強さに、早かった呼吸が、普段の速度を取り戻す。
レオンの、香りがした。
───あぁ。この香りが、好きだ。
非常の安心感を私に与える。
「心配することなど何もないだろう。宣言通り、ちゃんと俺はお前を回収した。そうだな?」
私はうんうん必死になって頷いた。
回収だとか、物みたいな言い回しされてもいい。いつも通りがそばにあるだけで、なんて心強いんだ。
レオンが笑った気配がした。ふっと強ばっていた体がら力が抜ける。
今さらになって、体が震えていることに気付いた。安堵なのか恐怖なのか、理由はわからないが涙が滲む。
泣かない。絶対に泣かない。
唇を噛む。泣いたとしても、この痛みでだ。
「噛むなと言ったろう。忘れたのか」
離れたと思えば頬を撫でられ、上を向いたところで唇をレオンが撫でる。咄嗟に俯くと、レオンの指は私が噛むのをやめたのを確かめて離れた。
「ご、めんなさ」
「謝るな。…………謝るな」
ゆっくりとした動作で目元を拭われた。
ドン、と心臓が跳ねた。
慌てて自分でも涙を拭う。どうやら自分では涙はこらえられなかったらしい。
あ、れ? レオンって、こんなにかっこよかったっけ。いや、確かに顔はずば抜けてかっこよかったけど。
「自力で立てるか」
言われて、レオンから体を離そうと試みる。なんとか立てるものの、何故かふらついた。
見かねたレオンに腰を引き寄せられ、抱き上げられる。
「しっかり捕まれ。俺から離れるな」
耳元で囁かれた言葉に、私は返事もできずに、耳を赤くしながら頷いた。




