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月の入江  作者: 緋絽
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戦慄の命令

明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いいたします!


緋絽と申します。かなり長い間開けてしまって申し訳ありませんでした!




ぼんやりと、視界が歪んだ。

水の中で目を開けたように、ギルとノラクル───どうやら奴と彼女の間ではルネという名に変わったらしい───の輪郭がはっきりしない。



ギルが、彼女に名を与えたとき。

私は驚愕していた。

そんなあっさり、ギルのもとに行くことを受け入れるだなんて。いや、そもそも行くことを望んだのは彼女の方だけども! あの無邪気装い男のどこがいいんだ。

冷酷に人を見下ろし、殺すことになんの躊躇も見せない。

人の世話など、ギルシュには無理。絶対無理。

それなのになんてことだ。名付け親にギルがなるだなんて。

嬉しそうに微笑んだルネに、それならいいかと納得した矢先のことだ。

ぽろぽろ泣くルネを、ギルが居心地悪そうに撫でる。

いやまあ、捕まえるけど。だからルネちゃんには、懲罰期間はやっぱりうちで保護されてもらうことになるけど。


そう、思って、言葉を発しようとした時。



「じゃあ、行こうか」



ギルシュが私を・・見て言った。

「え……───」

ふわりと頭を胸に抱き抱えられ、一瞬で体温が上がる。

な、ななななんだ!?

固まった私にクスリと笑みをこぼし、ギルは、顔を近づけて。

「───恋敵は、片付けないと。でしょ?」



額に、口付けた。



───視界が歪む。

ぼんやりと、考えがはっきりしない。

するりと頬を撫でたギルの手が、いい子いい子をするように頭を撫でた。

「可愛いなぁ。僕の言うことを、素直に聞いてくれるハルキは」



フラフラと、足が勝手に歩を進める。

ギルについていくのだ。ひとりでに。

騎士団員が、ギルと歩いている私を見て、なにか言ったのがわかった。

「ハルキ」

あまやかに微笑んだギルの言葉に、躊躇いなく私の手が上がり、放たれようとしていた捕縛系と思われる魔法を、無効化する。

その隙に、ルネちゃんを抱き上げたギルが、騎士団員に攻撃していく。

───やめて。

そう思うのに、体が止まらない。

目の前で、血が吹き出した。

あれは、命が、こぼれ落ちるほどの傷じゃないか? それを、負う手助けを、私は。

全身に、冷や水を浴びたように感じた。

放出され続ける私の魔力の効果を、知らない人は多い。珍しいのだ。箝口令が敷かれるほど。

だから、魔法を使うのをやめないのだ。

声が、出せない。魔法を使うなと、言えない。

やめろ、動くな、私の体。ギルを行かせるのは、私の本意じゃない。

───なのに、なんで、みんなを邪魔するのよ。

目でノックスやアルベルト達の姿を探す。

どうか来ないで。傷つけたくない。

怖いのだ。どうしようもなく。体が思い通りに動かないことも、誰かを傷つけてしまうかもしれないことも。

お願い、わかって。誰か止めて。

見覚えのあるグリーンの髪が、視界に入った。私は、絶望の片鱗を見た。

「ハルキ!? お前、そんな奴となんで…」

クスリとまた微笑んだギルに、私は戦慄した。いつもより、イタズラを心待ちにしているような、そんな顔だった。

「や、め……」

「殺して、ハルキ」

逃げて、ノックス。

ポロリと涙が、溢れた。

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