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月の入江  作者: 緋絽
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学び




「ぐっぬぬくぬぬぬくぬっ!」

手枷から手を外そうと引っ張り続けて早1時間ちょっと。

私の感覚でだから正確じゃないけど。だからもしかしたらもっとかかっているのかもしれない。

手首は引っ張りすぎて赤くなって、うっかり血が出てしまった部分もある。

やっぱりここは鎖を狙うべきか。いやでもなぁ、と天井の柱に掛けられている鎖をみる。

そこそこ太い鎖は、正直踏もうが蹴ろうがどうにもならない気がする。刃物があれば別なのかもしれないけど。

額を滑る汗を拭う。

私がノラクルちゃんと外に出ないと、みんなが中に突入できない。

あぁ私のバカ! なんで易々と背中を見せたりしたんだ! よりにもよってあいつに!

有害のくせに無害そうな笑みを浮かべるギルが頭のなかで「ごめんね? でも、ハルキはボクが買うって言ったでしょ?」とのたまった。

よし。あいつ、ここを出た暁にはこてんぱんのボッコボコだ。異論は認めない。変態ワガママボク様街道まっしぐらのあいつに遠慮することなんて何もない。そうだ私は自由だ!

意味のわからない叫びを始めてしまったので、深呼吸する。

落ち着け。まず、何をすべきかを考えないと。

私が脱出できないとしても、せめてこの状況を誰かに伝えないと。そうしたら、きっとレオンが作戦を変えるなりなんなりしてくれるはずだ。でもそのためには外に放り投げられた首飾りに、魔力を流さないといけない。

そのためには、閉じられてしまった扉を開けないと。

「くっ、あ、とっ、ちょっとなのにーー!」

私はできる限り手を伸ばして扉を開けようとする。ギリギリ足りない。

ギルがこれすら想定して、絶妙な長さの手枷を選んだような気がしてならない。

あぁ腹立つなぁ。なんだよあのしたり顔。あんなやつどこから湧いて出てくるんだ。

おお、殺意わくぜ。

私は天井を見上げる。ついでに手枷の鎖を引っ張って、柱の強度を見てみた。

いやまぁ……これで柱が壊れれば、私も馬車から逃げられるわけだし。

うん。


いっか、壊しても。


鎖の余っている部分を手に巻き付け短く持ち、馬車の奥まで下がる。

体を後ろに引いて、勢いよく走り出す。

イメージはジャングルの蔦を握ってぶらぶらして向こう側に行くあれだ。

「あーああーーーー!」

アホとでもなんとでも呼ぶがいいさ! 自棄っぱちという言葉を知っているかな?

限界まで前に伸ばした足がギリギリ扉に届く。その爪先で、持てる力をすべてぶちこみ扉を蹴った。

弱いながらもドアが開き、半身が入るほどの隙間を開けることに成功した。

「! やった! ………って、うおおおお超いてええええ!」

私は足をつった。

おおう涙が出るほど痛い。

こんなに足を伸ばそうとしたことがないから、急な動きについてこられなかったようだ。

涙目で外を見る。

運よく隙間から地面に転がった首飾りを見つけることができた。

ポイ捨てよくない。ちぎったなら最後まで片付ける努力をしなさいよ。

いや今回はそれのおかげで助かったわけだけど。

さて。うん。

ここからどうしようね?

私は触れることを介してしか魔力を流せない。

ノックスしかり、首飾りしかり。

結局のところ、やはりこの手枷をどうにかするしかない。

「ぐっぎぎぎぎぎ」

鎖に捕まってぶら下がってみても、多少軋むだけで壊れる兆しがない。

ぬう。

ちくしょうあの銀髪野郎め! つくづく嫌がらせとしか思えないことをするやつ! なんだあの眼帯は、いっそ両目揃えてこい!

そこまで考えて、はたと止まった。

───……いや………一度だけ。



私は、手を触れずに、魔力を使ったことがある。



ギルの、目を。私が傷つけた。

魔力の吸収と放出。それが私の能力だとレオンは言っていた。そしてそれを使いこなせるようになれと。

私は歯を食い縛った。

できるかどうかなんてわからない。そもそもやり方を知らない。

けど。それでも。

「やってやる……!」

よし思い出せ。

そうだ、確かあのときは、目の前にギルの目があって、私はそれを───それだけを、目に、映してて。

私は、首飾りだけに集中した。それだけを見つめる。



あとは、


魔力の


放出、を。



手のひらから温かいものが抜け出ていく感触がした。それが、馬車の外へ向かう。

ガガッと机が擦れ合うような音が、首飾りから聞こえた。

「───っ、こちら、伝令役クラモチ!!」





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