油断
どうも、緋絽と申します。
遅くなって申し訳ございません。すべては課題を〆切のギリギリまでやらなかった私が悪いのです。
目を覚ますと、ノラクルちゃんがいなかった。
「……………………ぬぁ」
なぜえええええ!
慌ててウィッグを脱ぎ捨てワンピースをズボンとシャツに着替えて部屋を飛び出す。
ど、どどどどうしよう。寝ている間に、あの子だけ先に連れ出されてたとしたら。私はギルが買うつもりらしいから見逃されたんだとしたら。
もしかして出口を今日になったら教えるといったのは、逃げる時間を稼ぐためだったのかもしれない。そもそもここを潰すのに協力すると言ったことすら嘘とか。
ノラクルちゃんに対して優しいところを見ていたけど、それでも人さらいを推奨する立場なのだ、あの男は。
私と同時に今回は見逃すとか、しないだろう。
くそ。少しでも信用した私が馬鹿だった!
────そう思った瞬間に誰かにぶつかる。
「ぶっ」
「わっ、おはようハルキ。そんなに慌ててどうしたの?」
さらりと月光のような銀髪が揺れる。
微笑んでみせたギルに私は問答無用で掴みかかった。
恐らく傍目から見ると異様なほど目がぎらついていたに違いない。
「てんめえええノラクルちゃんどこやったぁぁああ!」
叫びながら首の辺りを絞めると、ギルは苦しそうに顔を歪めた。それすら憂いを帯びた美しさを醸し出すのだから堪らない。怒り倍増だ。
「ま、待った! あの子ならここにいるから!」
はあん!?
ものすごい顔で睨め上げると、ギルはヘラっと笑って背中から子供を連れ出した。
真っ白の髪の女の子が困ったようにギルにしがみついている。
体から、力が抜けた。
「ノラクルちゃん……よかった……!」
溜め息をついてしゃがみこむ。
いやよかったマジで。
今更ながら全身に震えが来た。
おぉ。平和な国で生きてきた私になんて体験させるんだ。
「ごめ、んなさい」
おずおずと出てきたノラクルちゃんに笑いかける。
「気にしないで。君が無事でよかった」
微笑む私にノラクルちゃんがぱちぱちと目を瞬かせて、笑い返した。
あぁ、可愛い。やっぱり女の子はこうでなきゃ。
「でもなんでこいつと?」
「えっ、と」
言葉に詰まったようにしたノラクルちゃんの背中をぽんと叩いてギルが顎をしゃくる。
「そんなことより、早く部屋に戻ったほうがいいと思うよ。見張りが来るんじゃないかな?」
うわぁそれはまずい!
私は慌ててノラクルちゃんを抱き上げて部屋に戻った。
ノラクルちゃんがギルを見つめているのに、また私は気づかなかった。
「はい、これ。馬車に積みに行こうね」
語尾にハートマークが付きそうな甘い声と共に渡されたのは、昨日の鎖のついた手枷と足枷だった。
「え!? この仕事断ったんじゃないの?」
「だってボク返し忘れちゃったんだ。馬車のあるところは出口通りすぎたところだから、ついでに行こうよ」
勝手に行けばいいでしょうが。
そう思ったのがばれたらしく、「ついてきてくれなかったら教えない」と拗ねられた。
顔がいいとは羨ましいですなぁ。拗ねる顔もお手のものかい。
「はいはい」
首飾りを握って魔力を流す。
「こちらパシられ中の伝令役倉持であります。これより出口に向かう模様。歩きます」
この通信の向こうには、私が転がされていたあの部屋を中心にして絵のうまい者が中の地図を描いている。それをもとに突入の作戦を練るのだ。あくまで今回は参考にする程度だけど。ギルの言葉を信じきるわけにはいかないのだ。
「出て左へ……」
歩数を数えて教えていく。
二、三度曲がって、荷物が山積みになっている所に出た。
「ここだよ」
はい?
辺りを見回してみるが、出口らしきものはどこにもない。ただの荷物置き場だ。
ギルが一番壁際の荷物をどかし、床に敷いてある布をめくると、床に取っ手のついた扉が現れた。試しに他の荷物をどかしてみると、同じものが複数現れる。
隠し扉とか。ここ、ずいぶん手が込んでるなぁ。
「森の洞窟にまで繋がってるんだ。そこは川が近いから、船に乗られるとあっという間に逃げられるよ」
ニコニコと教えてくれたギルに呆れた目を向けて、首飾りの向こうに報告する。
「隠し扉発見。森の洞窟にまで繋がってるそうです」
『了解』
アルベルトの返事のあと、一人になるように指示された。
恐らく作戦の指示を受けるのだろう。
出口のある部屋からギルを追い出して一人になったことを告げる。
『クラモチ。これより二刻のち、突撃を開始する。お前は突撃の直前に、拐われた市民を救いだし、一足先に本部へ帰還しろ。わかったな?』
レオンの無機質な声が響く。
ノラクルちゃんを保護してからでないと、レオン達はあの子を人質にとられる不安を抱えての突撃しかできない。
しっかり、しなきゃ。
「了解!」
相手には見えないのに、敬礼をしてみる。仕事を全うするのだ。
────だが、そんな決意も虚しく。
「おわっ」
馬車に荷を置こうとした途端に突き飛ばされ、たたらを踏む。
両手を掬われ、頭の上で拘束された。
え!?
がしゃんと鎖が足元に貯まる。
気づけば、両手に頭の上で天井の柱を通して手枷が嵌められ、馬車の中に放り込まれていた。
首飾りをギルが再び引きちぎり、放り投げる。
「じゃ、大人しく待っててね」
神々しい微笑みを浮かべたギルが馬車の扉を閉めて遠ざかっていく。
ちょっと待って。
私、もしかして捕まった?




