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月の入江  作者: 緋絽
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眠り

どうも、緋絽と申します。

かなり空いてしまいました…すみません!




寝返りを打つ。

隣に中性的な美貌の寝顔がアホらしい表情を浮かべてあった。

寝てる顔は、ちゃんと女の人に見えるかもしれない。

ノラクルはそれを見上げて思った。

頭が痛くないようにと、ハルキという不思議な名前の騎士様は、ノラクルに腕枕をしてくれていた。

おかげで首が痛いということはない。

…………横になって、足を伸ばして寝るのは、ずいぶん久しぶりのことだった。狭い物置に押し込められ、小さい頃はよかったが、体が成長してからは足を曲げて寝ていたのだ。

ノラクルは起き上がって、自分がいた部屋を出た。見張りの人はいない。

近くに人がいると眠れないのだ。

この騎士様が、優しいことはわかっている。自分のスカートを破って手当てしてくれたし、頭を撫でてくれた。

………でも。

母も父も気まぐれだった。

だから、優しい騎士様は、今のところ自分を痛め付けることは無いらしいが、あの人も、もしかしたら気まぐれに眠っている間にノラクルを痛め付けるかもしれない。

「ごめん、なさい……」

誰の手も、怖くて。腕枕をしてくれた手すら、いつ自分を締め上げるかとビクビクしていた。腕枕は優しい行為だと、さっき知ったのだ。

ぎゅっと握りしめた自分の白髪を見て、ノラクルはハッとした。

きれいでキラキラした銀の髪の男の人。

頭を、撫でてくれた。笑ってくれたわけじゃないけれど、ノラクルが怖がらないほどゆっくりと触れてくれた。

……もう一度、あの人の髪が見たい。

それにそうだ、騎士様は、何かをまだあの男の人が隠していると言っていた。

怯えてしまったお詫びに、それを私が探し出そう。

ノラクルは中をさ迷った。

いろいろな道を曲がったため、すでに元いた場所もわからない。

隅っこに座り込んだノラクルは、情けなさでいっぱいになる。

やっぱり、あの部屋にいるべきだっただろうか。このままここにいたら、騎士様が目を覚ました時に驚くだろう。

…………怒るかな。

優しく頭を撫でてくれたあの手が、私をぶつかもしれない。

体が固くなった。

帰ろう。私があの銀の髪の男の人が隠しているものを持って帰れなくても、騎士様は知らないから怒らない。でも、いなかったら、怒られるかもしれない。

立ち上がって歩き出すと、石を蹴ってしまい音が鳴った。

「───誰だ!」

物騒な声が響く。怖い男の人達に、気付かれてしまったのだ。

ノラクルは身を固くした。声がもれないように口を手で塞ぐ。

どうしよう。

大きな怒鳴り声。近付いてくる足音。

逃げなきゃ。───でも、どこに? 

急がないと。───私がいなくなったことがばれたら、騎士様はきっと困ってしまう。

体が、動かないの。

近付いた足音に、思わずぎゅっと目をつむると、───抱き上げられた感触が、した。

「ボクだ。それ以上近寄らないでくれる? 今機嫌良くないんだよね」

「は……! し、失礼しました……!」

怯えたように返事をして、近付いてきた足音は、反対に遠ざかっていった。

そっと目を開けると、───目の前に、きれいな銀髪がさらりと落ちかかっていた。

「どうしてこんなところに? あの部屋からずいぶん遠いけど」

「あ……」

隠しているものを貰いに来たというのは嘘だ。

本当は、ただ会いたかった。ノラクルと同じのようで同じではない髪を持つ人。悪いやつだと騎士様は言っていたけれど、とてもそうは見えなかった。

ノラクルは聞いてみたかったのだ。



どうして、あの時悲しい顔をしたのですか、と。



けれど、実際に会ってみたら。

怖くなってしまった。もしかすると私の勘違いで、この人は悲しい顔なんてしてなかったかもしれない。自信が、ない。

「…………おいで」

連れてこられた場所は、銀の髪の人の部屋のようだった。

ベッドと机とソファー以外、何もない。

銀の髪の人はノラクルをベッドの縁に座らせると、その隣を陣取った。

「眠れなかったの?」

ドキッとした。

どうしてわかるのだろう。

まじまじと見つめ、それが怒られると気付いたノラクルは慌てて目をそむけた。

「…………そばに人がいると、怖くて落ち着かない?」

ノラクルは何故か涙が出てきた。

わかって、くれている。初めてだ。ノラクルの気持ちを、理解してくれた人に会ったことなんて、一度もなかった。

目を擦ると、銀の髪の人は真顔でその手を退けた。

「しかたないなぁ。一度きりだよ。ボクはほんとは、子供にはそんなに優しくないんだ」

そう言うと、ノラクルを抱き上げてベッドに寝かせた。その頭辺りに腰かけて、歌を歌い出す。

起き上がろうとしたノラクルの目元を手で覆い、歌い続ける。

…………悪い人なんて、嘘だよ。嘘だよ、騎士様。

ノラクルは、そばに人がいて初めて、深く眠りに落ちた。




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