揺らめく
どうも、緋絽と申します。
遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!
「おい、そこのチビ」
声をかけられてギクリとした。
しかし、誰がチビだこら! これでも女子の中じゃ高いほうだ!
「は、はい」
文句を面と向かって言うわけにはいかないので、俯いて返事をする。
今の私は、必死にかき回したボサボサ頭のひょろひょろした少年に見えるはずだ。私の髪質は剛毛だ。その上さらっさらしている。編み込んでも型がつかず、ほどけるほどだ。その情報だけでどれだけ私が頑張ったかがうかがい知れるだろう。
「これ、裏の馬車に投げとけ」
そういって投げ渡されたのは、重い鎖のついた手枷と足枷だった。
思わず固まった私に、男が不審な顔をする。
「なんだ? 早く行けよ」
「え、あ」
これは、もしや。私とノラクルちゃんに、はめる予定のもの?
こんなの付けられたら、ノラクルちゃんのトラウマになってしまう。
「───ボクの連れに、そんな小間使いにやらせるようなこと、させないでくれる?」
後ろから手枷と足枷を取り上げられる。
「…………ノールさん! す、すみません!」
「今回は許してあげるよ。次はないからね」
微笑むギルに、男が恐れをなしたようにさっさと引っ込んだ。
私はギルを目を細めて見上げる。
「………ノール?」
「ふふ、野暮だなぁ。偽名に決まってるでしょ?」
照れたようにギルが微笑む。
どうだか。私に教えた名前すら、偽名の可能性があるじゃないの。
疑わしい目線になっていたらしい。
ギルは慌てたように私を先に促した。
私は首飾りに魔力を流しながら歩く。
「ギル、ここに人は何人いるの?」
「そうだなぁ。ボクがざっと見た限りでは、三か四十人くらい? あ、右に曲がって。そこが出口だから」
ギルが積極的に仲間の情報を渡しているのを、果たして信じていいのかどうか。
仲間の集団戦闘の練度。撤退の方法。頭の逃走ルート。出口の数。隠し扉。部屋の数。
ギルに教えてもらうことで、恐ろしいほど早く把握ができている。
ギルの言っていることを丸々信じていいなら、私一人じゃ、きっとこんなに正確な情報は手に入れられなかった。
見上げた私に、ギルが目を細める。
「………なんであんたは、そんなにも俺を気に入ってるんだ?」
「……どうしてだろうね?」
首飾りを握っている手を、ほどかれる。私の手に指を絡ませ引き寄せると、ギルは口づけた。
ひいいいい!
ぞわっとしたので慌てて取り返す。
お、お前、この私にそんなことをしてなんのつもりだ!
少しパニックになっている私はギルを涙目で睨め上げた。
ギルは小さく吹き出し、体を折って笑う。
「あはっ、ははははっ。あー苦しい。ふふ、君が、ボクから目をそらさないからかもしれないね」
そういって私の額にキスを落とす。
やめい! スキンシップ過多なのよ、あんた!
「……この髪の色を、君はどう思う?」
「え? アルビノ? まぁ羨ましいけど。お綺麗で何よりだな!」
けっ。白銀の髪はキラキラしてやがる。長くて細くて、さらさらだ。
私だってさらさら具合じゃ負けない!
「もう、君って子は……」
ギルが顔を覆う。声がなんとなく呆れているような、嬉しそうな声だった。
「そういえば、アルビノといえば、ノラクルちゃんもだね。あれ……そういえばギルは、白なのに魔法が……」
「ハルキ」
ビクリと、体が跳ねた。
冷たい声音。肩を掴んだ指の力が、いつもより強い。
「な、何……」
「ノラクルって、あの子の名前?」
屈み込んで、深く下を向いたギルの顔は、私には見えなかった。
「そ、うだけど」
だから、なんなの?
肩を掴む力が一層込められる。
私は呻いた。
痛い痛い痛い! なんなの!
「ギ、ギル!」
腕を払うと、ギルはそれにすら気づかないようにゆらりと体を揺らした。
青い炎が、揺らめいているようだ。
「……気に入らないなぁ…」
弧を描いた唇が、血のように赤いのが。
私には、恐ろしく思えた。




