残酷さと
どうも、緋絽と申します。
予定よりも少し遅めの投稿となりました、申し訳ありません
やっと話が進みました!
満足そうに私の頭を撫でていたギルが、ふとノラクルちゃんに目をやった。
くっと目を見開く。
「あ、あの……」
私とギルの仁義なき攻防を見て、顔を赤くしているノラクルちゃんを、これでもかというほど凝視した。
「ギル?」
全力で引き離そうとしていたギルの拘束が急に外れた。
「……君が、もう一人の女の子? 人狩りに、あった」
これまでとは打って変わって、少し固い声。
ノラクルちゃんの前にしゃがみこんで目線を合わせる。
こいつに、そんな芸当できたのかーーー!
正直、かなりの衝撃だった。
自分が子供のような性格をしておいて、何大人ぶってるんだと言いたい。私から見れば、子供が必死にお兄ちゃんぶっているようなものだ。
ノラクルちゃんは、首を傾げた。
「人、狩り?」
「……怖い顔したおじさんに、無理矢理連れてこられただろう?」
ギルがじっと見つめると、ノラクルちゃんは遠い目をした。遥か昔を見るような、そんな目。
「私は、お母さんに、赤い旗があるお店にご飯に連れていってもらって……」
私は顔を背けた。
それで、そこで、ノラクルちゃんは。………親に。
いつか、この子が年を重ねたとき。いつかは親が自分を売ったことに気付いてしまうのだろう。
それが、たまらなく、つらい。
「……ふうん」
ギルもそれで察したのだと、私は気がついた。
ギルが一瞬冷ややかな目をする。それが片目だけであることを今認識した。左目には眼帯が巻いてある。
あの時私がつけた傷は、どうやらこの男の目の機能を著しくなくしたらしかった。
う、なんか、申し訳ない。事故とはいえ、あれは絶対に私のせいなのだ。
「ねえ、ハルキ。ボクはさ、普通の人間が好きじゃないんだ。だから、こんなことをしても、何とも思わないんだけど」
ギルの言った「こんなこと」が一瞬なんのことかわからなかった。少ししてから人身売買のことだと気付く。
いったい、何を言い出すの?
「ボク、髪の色が薄い子は絶対に商品にするなって、言ってたんだよね。蜥蜴君達に」
床に転がっていた見張りの体に、黒い靄がかかった。段々靄の色が濃くなり、半円を帯びる。
私は、それをただじっと見ていた。
正確には、何もできなかった。ギルの、雰囲気に気圧されて。
唐突にくっと気絶していた見張りの目が見開かれた。
ビクリと体が跳ねる。
まるで、急速に水分を失ったようにみるみる見張りは萎んでいった。顔がしわしわになって、目が窪む。肌の色がカサカサになったように暗い色になった。
すんでのところで悲鳴を堪える。
なんだこれは。ホラー映画じゃないんだから! 私は、ホラーが一番嫌いなのに!
そう思うことでギルからの恐怖が薄まるように努める。
まるで知らない人のようだ。いや確かに私はたいしてギルのことを知らない。名前すらさっき知ったのだ。
そうだ。ギルは、仲間ですら、不要と見なせばその手で殺そうとするのだ。
あの、ポッテーリ子爵のように。
そしてもう骨と皮だけになった頃、ギルは、指を握り込んだ。
半円の靄が一度大きくなって完全に見張りの体を取り込んだあと、小さく収束し───弾けた。見張りの体ごと、靄は消え去った。
ゾッとした。
死体の処理すら、魔法なら簡単に行えるのだ。
「───約束を破ったら、それなりの始末をつけないと。ねえ?」
私に、聞くんじゃない!
笑みを浮かべるギルが、ノラクルちゃんを見て顔をしかめた。ように見えた。
「ハルキ。君、どうせ蜥蜴君達を引っ捕らえに来たんでしょ?」
私がギクリとしたのに、ギルは気付いた。
そして私の反応に、少し表情を和らげる。
「いいよ。代わりの服を用意してあげるから、中を自由に見ればいい。好きなだけ質問もして。なんでも答えてあげる。…………もう、いらないから、さ」
バラバラに、壊していいよ。
冷酷な表情とは、今のギルのような顔のことを言うのだろう。
そんな、オモチャを捨てるみたいに。
ついと伸びた手が、首飾りをつつく。
私ははっと我に返った。
「聞いてるんでしょ? 君のお仲間。しっかりやってね。じゃないと、ボクが、壊しちゃうよ」
気付かれてた。
少ししてから、低い声が帰ってきた。
『お前に言われずともわかっている』
私は強ばっていた肩から力が抜けるのがわかった。安心して息すら漏らしそうになった。
レオン。
アルベルトとノックスしか、向こう側にはいないのだと思っていたのに。
『クラモチ』
「っ……はいっ……」
かけられた声に、つい力のこもった返事をする。
『その男が自ら組織を差し出したんだ、遠慮なく叩き潰すぞ。心配せずともお前の身柄はすぐに俺が引き取りにいってやる。お前は、お前の仕事を全うしろ。───いいな? ハルキ』
レオンが心なしか柔らかな声で私の名前を呼んだ。
だから、だから私は。
「わかった」
しっかりと、答えた。
『いい子だ』
笑った気配がして通信が切れる。
面白くなさそうに私を見るギルの隣で、私は強く頬を打った。
「え」
「よし! ギル、早く服をちょうだい。とりあえず内部の把握をしないと」
少しヒリヒリする頬を擦ってギルを見ると、瞠目していたギルは面白いものを見たように吹き出した。
「いいよ。君が望むことは、なんでもしてあげる。おいで」
手招いたギルに促され、私は部屋を出た。
「…………危ないから、君はここにいなね?」
ギルが、ノラクルちゃんにそう言って、頭を撫でた。
次回、もしかすると遅くなるかもしれません
申し訳ございません




