医官
お久しぶりです! 緋絽と申します。
長らくお待たせしました。そして、先にお詫びしておきます。
こらから先、学業面とも鑑みて、だいたい二週間毎の更新となりそうです。このような拙い作品を読んでくださっている皆様、本当に申し訳ありません!
しかし見捨てず、どうか暇潰しにでもしてやってください……!
目を覚ますと、私は宿舎の自分のベッドで寝ていた。
向かい側の端にあるノックスのベッドが空っぽだ。ノックスは助かったんだよね?
体を起こして記憶を遡る。
うん。確かに、ノックスは目を覚ましたはず。夢じゃないはず。
さらに前に遡って、銀の男を思い出した。
「───っ」
目をきつく瞑って唇を噛み、私は前へ少し体を屈めて腕を握りしめる。
まだだ。まだ、その時じゃない。
そこで、初めて頬にチリッとした痛みを感じた。
なんだろう?
頬を触ると布のようなものに当たった。
そうだ。ポッテーリ子爵に殴られて、怪我したんだ。
子爵め。仮にも女子を殴るとは、男の風上にも置けない。ていうか! 男だと思ってる時点でどうなのよ!
ムクムクと怒りが湧いてきた。
八つ当たり気味に掛け布を殴り付けると肩が軋むように痛んだ。
クッソウ。肩を掴まれたまま倒れ込んだのがまずかった。
襟元から手を突っ込んで肩を触ってみる。湿布がベタリと貼ってあるのが感触でわかった。
よくわからないけど、ものすごく丁寧に手当てされている。肘や脚などの細かな傷にも薬が塗られているのを見れば一目瞭然だ。
なんだか少しだけ心が落ち着いた。
目覚めて誰かが自分を放っておかなかったという事実があるだけで、まだ私の心は救われる。レオンの言った通り、意識のない私にすら、無条件に心配をくれたとわかるから。
ガチャリとドアが開く。そこから覗いた真っ赤な髪の持ち主と目があった。そしてニッカと笑う。
「よぉハルキ。目ぇ覚めたんだな」
「ランセル……」
降りようとした私にランセルが掌を見せて制止する。
え? 何?
「あぁ、ちょっと待った。まだ起きんなよ。ブラン、ハルキが目を覚ましたぞ」
廊下に向かってランセルが声を掛ける。
ブラン? 誰?
「わーほんとですか? よかったですー」
わりと高い男の子の声が聞こえて首を傾げる。うーん、知らない声だ。
そして中に入ってきたのは、男の子の中では小柄の、栗色のフワフワした髪を持つ少年だった。
日だまりのような笑みを浮かべて私の額に手を当てる。
「あ、熱も引いてますー。お元気になられてよかったですね」
「え、あ、はい」
誰! ま、まさか、私、気を失ってる間にスコーンと記憶を失ってたりするのかな!
「もう動いても大丈夫ですよ。でも、しばらくは重たい物食べないでくださいねー。急に食べると胃がもたれちゃいますからー」
「あ、うん、いや、はい」
私の戸惑ったような様子を見て、ブラン君が微笑んだ。
いやずっと微笑んでるんだけど。
「あ、ぼくに敬語は要らないですー。ぼくはしがないただの医官ですからー」
「医官!?」
医官って、日本で言う医者ってことでしょ!? いやいや待って! この子、何歳!?
「し、失礼ですけど、年齢って……」
「ぼくですか? ええと、……十五ですー」
十五!?
私より若いじゃん!
「すごいな!」
「え……」
ブラン君が目をゆっくりと見開き、ランセルに目を向ける。
ランセルはニッとブラン君に笑い返した。
そしてブラン君は、本当に嬉しそうにとろけるような笑みを浮かべて私を見た。
ぎゃああああ! 可愛い!
ブラン君は普通の見た目だが、笑うと非常に優しさや温かさが滲む。それが堪らなく可愛い。
「ありがとうございますー。でも、あなたの方がすごいですよね」
「え?」
「なんでもカエンベルク隊長に回し蹴りをかましたとか、隊長の腕を叩き落として無傷で帰ったとか。すごいですー」
「レオン……あんた一体どんな風に見られてんの……」
「え?」
キョトンとしたブラン君が目を瞬かせた。
まるでレオンが魔王のような脅威力だ。
「ハルキ、目を覚ましたらレオンのとこに連れてこいって言われてんだ」
「あ、そうなんすか。じゃあ、行きます」
ベッドから降りて脇にあった机に畳んであった上着を羽織る。
来いってことは、説明しろってことよね。あの時、最後まで目を開けていたのは私だ。
フウと息を吐いた。肩を押さえてみる。
……ここに、何か大きな重みがある。それは、まだ、形にしてはいけない。だって、ここではもう、私しかそれを思う者はいないから。
肩を押さえたのを、ブラン君は痛むのだと思ったらしい。
「あのー、どうしても痛むようでしたら、治療所に来てくださいね。痛み止めを渡しますからー」
「あ、わかった。えーと、じゃあ名前を教えといてくれる?」
その時。少しだけブラン君の笑みが強ばったことに、私は気付かなかった。
「………はい。ブラン・ガルセクと言います」
「わかった。ブラン・ガルセク君ね。治療してくれてありがとう。嬉しかった」
私の言葉に何度目かの瞬きをし、ブラン君は微笑んだ。
「いいえ。とんでもないですー」
ドア越しに見えたブラン君の顔は、本当に嬉しそうな笑顔だった。




