帰りたい……けど
どうも、緋絽と申します!
なんとか一話書くことができたのでアップします!
わーい!
あれから一週間後。
私はあの能力を使ってなんとか戦えるレベルにまで達した。……のだろう。ランセルが「まぁ見れるようになった」って言ってたし、うん。
言葉のニュアンスから読み取れるだろうが、ランセルは鬼だったとだけ伝えておこう。
「これよりクラモチは通常業務に移れ。……なんだ、その顔は」
「通常業務って、あれですよね? あんたの机回り綺麗にするやつだろ?」
私の言葉にレオンは唇を歪めた。
「実にやりがいがあるだろう」
「へーへー! 汗水かいて書類整理しますよ!」
腕捲りをして作業をしようとして止められる。
「と、言いたいところだが。お前は、有事の際以外はやはりランセル班に所属させることにした。経験を積ませてやるからしっかり働け」
偉そうだな!
「はいはい!」
「なお、今日、お前はノックス・アークライト、アルベルト・グリーンと共に護送時の警備に当たってもらう」
なんと、いきなり任務がくるとは。
「俺、警備の経験ありませんけど……」
「構わん。お前はいつも通り魔力を垂れ流していろ」
だから制御できるようになったんだってば!
「常に護送対象者に対して発動しておけ」
「え? なんで?」
首を傾げるとレオンがフンと鼻を鳴らした。
あっ、今ばかにしやがりましたね!?
なんて小バカにした表情が似合うのだろう。ぶん殴ってやりたい。
「対象者に魔法を使われたら面倒だろう。逃げられたらどうする」
おぉ、なるほど!
「それに……対象者を守ることにも繋がる」
「守る?」
傾げた首をさらに傾けると、レオンが苦々しげな顔をした。
「今回護送するのは、お前の奴隷売買の時のアホ貴族だ。調査していくうちに、後ろにでかい組織があることがわかってな。……尻尾切りが、あるかもしれない」
「え」
あの時のことが思い出されて私も顔をしかめる。
当然ながら、あまりいい記憶ではない。殺されそうになるわ、こいつには疑われるわ。散々だった。
私の恨めしそうな顔を見てレオンが呆れたような顔をする。
「まだ根に持ってるのか」
「べぇっつにぃー」
「執念深いな」
「怒ってませんよ。思い出すとちょっと泣きそうになるだけです」
私を見てレオンがパチパチと目を瞬かせた。
私はというと、自分の迂闊さに顔から火が出そうだった。
しまった。こいつの前では、弱気な発言をしないように気を付けていたのに。
あれだけ反抗していたくせにとか、ばかにされる。
「ほう? 随分素直なんだな」
覚悟していた私に、予想していなかった言葉がかけられた。
レオンが唇の端を歪めているので、からかっていることに違いはないのだが、もっと相手を扱き下ろすようなからかいだと思っていた。
「まぁ、当然か。見知らぬ地にあんな場面を見せられた上、共犯の疑惑をかけられれば誰だって傷つく。改めて詫びる」
うって変わって笑みを消し、頭を下げたレオンに困惑が広がる。
こいつ、こんなに殊勝だったっけ?
混乱していると、レオンが頭を上げて首を傾げた。
「まだ怒ってるのか」
「え、いや、だから、怒ってないです」
私の言葉にレオンは満足げに頷いた。
「じゃあ、もう泣くなよ」
「は」
…………は!?
もう一度顔に熱が集中する。
「は……っ、えっ……!?」
「なんだ。泣くのか?」
レオンが眉根を寄せた。
確かにあの日、私はレオンの前で泣いたのだ。その後も、あの時のことが思い出されてはこっそり泣いていた。
問題は、なぜそれを知っているのかということだ。
「なっ、なんで?」
「お前は泣くとき、声を堪えようとして唇を噛むだろう。いつ噛みきるかとハラハラする上、子供が泣いてるかと思うと妙に落ち着かん」
そうじゃないし、子供だからって何よ! なんかむかつく!
「泣かねっ……、泣きません!」
「ならいい」
フシャーと毛を逆立てるとレオンはいつもの仏頂面に戻ってヒラヒラと手を振った。
いってよし、という意味らしい。
頬を膨らませて抗議の視線でレオンを見つめていたが、もう話す気はないらしい。
諦めて退出しようとしてレオンに呼び止められる。
「ハルキ」
ピタリと足を止めた。
私は、こいつに下の名前で呼ばれることに弱い。
それは、泣き顔を見られたからなのか、傷つけられもしたけど、初めに優しさをくれもしたからなのか。
「………はい」
憮然な表情で振り返った私に、レオンが唇を歪めて笑った後、真面目な顔に戻って近付いてきた。
「家に帰りたいとは言わないんだな」
目の前で立ち止まったレオンの言葉に私は今更ながら驚いた。
確かに、私はその感情を見ないようにしていた。
帰りたいけど、帰れない。
そんな意識が、私を絡めとる。
「だって……―――」
何かを言おうとして、頭の中に靄がかかった。
「なんだ?」
「いや、なんでもないです」
会釈して部屋を出ようとして、今度は腕を掴まれて引き留められる。
「何――」
「お前が敬語だとやりづらい。戻せ」
「はあ!?」
人が敬ってやろうとしてるのに!
文句を言おうとして顎を掬われた。
レオンの前髪が顔にかかる。
「……隈が酷いぞ。寝てないのか」
近い近い近い!
グルグル色んな感情が頭の中で回っている私の頭を、何を思ったかレオンがよしよしと撫でてきた。
顔が熱くなっていく。
「ほっ」
「ほ?」
首を傾げたレオンに渾身の頭突きをかます。
「っ!」
「ほっとけ変態! 近づくなぁぁああああ!」
ドアを蹴破る勢いで開け放ち、走り去っていく私に、レオンが意味ありげな目線を向けているのを、私は知らなかった。
次回からようやく話が動く予定です!