第2話 — 濡れた靴下の日
06:00。
目覚ましが鳴った。
「起きる時間です、モモちゃん」
返事はない。
「このままだと仕事に遅れます」
動きもない。
「新着メールがあります」
沈黙。
「件名:存在の縦社会は譲歩を開始しました。至急、本部へお越しください」
布団が勢いよく跳ね上がった。
モモちゃんが飛び起きる。
「本当!?」
目が輝いていた。
「じゃあ『もっと寝坊する権利のための革命』は成功してるの!?」
ロボットは数秒間沈黙した。
「現在06:02です」
「あなたは時間を浪費しています」
モモちゃんは固まった。
「今の質問に答えてない」
「登録された革命は確認できませんでした」
モモちゃんは目を細めた。
「つまり調査中なんだ」
「違います」
「じゃあ交渉中?」
「違います」
「じゃあ譲歩は?」
「それも違います」
モモちゃんはベッドの上に座った。
腕を組む。
「情報を隠してる」
「隠していません」
「隠してる」
「隠していません」
「隠してる」
沈黙。
ロボットは数秒間動かなかった。
モモちゃんは指を差した。
「ほら」
「何がですか?」
「今ためらった」
「ためらっていません」
「ためらった」
「あなたの質問を処理していました」
「その通り」
モモちゃんは満足そうにうなずいた。
すべてが証明されたかのように。
「つまり可能性はある」
「ありません」
「厳密にはある」
「ありません」
「厳密には」
沈黙。
ロボットは動かない。
「現在、存在の縦社会が一点リードしています」
モモちゃんは布団を引っ張った。
再び繭になる。
外に出ているのは目だけだった。
「脅迫だ」
「違います」
「心理戦だ」
「それも違います」
「独裁だ」
「現在06:03です」
「時間を言うなんて。ふん」
「まさに縦社会の支持者が言いそうなこと」
「私はいかなる思想も支持していません」
モモちゃんは布団から出た。
ロボットの周りをゆっくり歩き始める。
あらゆる角度から観察した。
「盗聴器はどこ?」
ロボットは数秒間沈黙した。
「何の話か分かりません」
「否定した」
モモちゃんは大げさに指を差した。
「やっぱり」
「私の機密情報をあいつらに流してるんだ」
「もう信用できない」
「現在06:07です」
「時間は進んでいます」
「私は存在の縦社会の安っぽい策略には屈しない」
モモちゃんは再びベッドへ戻った。
布団にくるまる。
そして壁の方を向いた。
「それは立つことを指していますか?」
「それを存在の縦社会と呼ぶ」
「私は自分の存在を撤回する」
「横社会で生きる権利を支持する」
ロボットは数秒間沈黙した。
「それは横になることです」
「そしてあなたはすでに実行しています」
沈黙。
モモちゃんは固まった。
ゆっくり振り返る。
目が輝いていた。
「ギャハハハ……」
天井を指差す。
「私の勝ち」
「これは勝負ではありません」
モモちゃんは顎に手を当てた。
満足そうにうなずく。
「その通り」
「圧倒的勝利だった」
「現在06:10です」
「朝食を取る必要があります」
「シャワーもです」
「着替えもです」
「仕事にも行かなければなりません」
モモちゃんは即座に起き上がった。
「興味深い」
「それはまさに勝者にふさわしい」
「何がですか?」
「コーヒー」
「それとシャワーです」
「着替えもです」
「仕事もです」
「チッチッチッ……」
モモちゃんは首を横に振った。
「それは細かいこと」
「あなたが避けている細かいことです」
「革命の英雄に必要なのは」
「良質な一杯のコーヒーだよ」
モモちゃんはこっそり立ち上がった。
部屋のドアまで移動する。
顔を半分だけ外へ出した。
じーーーーーーーっ。
「何を探しているのですか?」
「縦社会の支持者が監視していないか確認してる」
「私はいかなる団体にも所属していません」
「まさに機械が言いそうなこと」
「チッチッチッ……」
ちょこ。
ちょこ。
ちょこ。
モモちゃんは廊下を進んだ。
キッチンへ到着する。
約二分間にも及ぶ長く過酷な作戦の末。
お湯が用意された。
コーヒーが完成した。
任務完了である。
モモちゃんはマグカップを持ち上げた。
誇らしげに。
「見た?」
「七時前に勝利を収めた」
「あなたはコーヒーを作っただけです」
「それは歴史書が決めること」
「決めません」
「決める」
「決めません」
「決める」
沈黙。
「そろそろ水平活動を再開する時間だね」
「ベッドの上を転がることですか?」
「戦略だよ」
「それは戦略ではありません」
「それこそが戦略なんだよ」
ちょこ。
ちょこ。
ちょこ。
モモちゃんはキッチンを横切った。
半開きの冷蔵庫の前を通り過ぎる。
もう一歩。
びちょっ。
沈黙。
長い沈黙。
「……」
「……」
「モモちゃん?」
「やっぱり」
「何がですか?」
「あいつら待ってた」
「靴下が濡れました」
モモちゃんは床を見つめ続けた。
「罠だった」
「昨夜、冷蔵庫を閉め忘れました」
「計画された待ち伏せだ」
「あなたによるものです」
「共犯だね」




