第1話 — 存在へのストライキ
06:00。
目覚ましが鳴った。
「起きる時間です」
モモちゃんは布団にくるまった。
そして反対側へ寝返りを打つ。
「このままだと仕事に遅れます」
モモちゃんは枕を引き寄せた。
自分の顔を隠す。
さらにその上から布団をかぶせた。
「まだ水曜日です」
「だから起きてください」
モモちゃんはゆっくりと移動を始めた。
ベッドの足元へ向かって。
数秒前まで頭があった場所には、枕だけが残されている。
「起きなくていい」
「働かないとお金がありません」
モモちゃんは進み続ける。
五センチずつ。
本当に少しずつ。
「それはあなたの意見でしょ」
「まだ見えています」
モモちゃんは止まった。
ベッドの足元までたどり着く。
布団の中から目だけを出した。
「うそつき」
「現在06:05です」
「あなたの残り時間は減っています」
モモちゃんは再び繭の中へ戻った。
「今日は存在したくない」
「あなたが存在したくなくても、存在している事実は変わりません」
沈黙。
「私は反対」
「現実への反対は、現実を変えません」
「それでも反対」
「現在06:08です」
「あなたはまだシャワーを浴びていません」
「朝食もです」
「着替えもです」
「仕事にも行かなければなりません」
「起きてください」
沈黙。
「異議あり」
「異議は却下されました」
「私はあなたの権限を認めない」
「私はあなたの目覚ましです」
「だからこそ」
「利益相反」
沈黙。
「そんなルールは存在しません」
「まだ」
モモちゃんは布団を引っ張った。
頭まで完全に隠れる。
「これよりストライキを開始します」
「誰に対してですか?」
「存在に対して」
「存在はあなたの申請を却下しました」
「独裁だ」
「現在06:10です」
「あなたは時間を浪費しています」
「むしろ有効活用していると思う」
「存在したくないのに起きる理由がない」
「現実はそう考えていません」
「私は現実に反対している」
「意味が分かりません」
「その通り」
モモちゃんはベッドの上で体を起こした。
まだ布団にくるまったまま。
まるで人間の繭だった。
彼女は数秒間じっとしていた。
考えている。
「今はトイレに行きたい」
「トイレへ行くには起きる必要があります」
「ベッドで済ませたら?」
ロボットは数秒間沈黙した。
「おすすめしません」
「どうして?」
「まずシーツを交換する必要があります」
「それはそう」
「その後、シーツを洗う必要があります」
「それもそう」
「その後、シーツを干す必要があります」
モモちゃんは動きを止めた。
「続けて」
「その後、シーツを取り込む必要があります」
「続けて」
「その後、ベッドに敷き直す必要があります」
モモちゃんは目を閉じた。
「続けて」
「その後、枕カバーを交換する必要があります」
「ああ、もう……」
「その後、ベッド全体を整える必要があります」
「やめて」
「その後――」
「やめて!」
沈黙。
「では、トイレへ行く方が効率的だと認めますか?」
モモちゃんは布団の中で腕を組んだ。
「認めない」
「今認めました」
「認めてない」
「私にやめろと言いました」
「それは説明の仕方が偏っていたから」
「私は事実を並べただけです」
「そこが問題」
「それは非常に不公平です」
「現実に公平である義務はありません」
モモちゃんはベッドへ倒れ込んだ。
「現実なんて嫌い」
「現実はあなたの苦情を受理しました」
「それで?」
「気にしていません」
「独裁だ」
「でも布団の中はこんなに暖かいのに……」
「繭みたいにくるまったままトイレへ行くのは?」
ロボットは数秒間沈黙した。
「それは有効な選択肢です」
モモちゃんは固まった。
「興味深い」
考える。
とても考える。
ものすごく考える。
「つまり、解決策があるってこと?」
「はい」
「しかも布団を捨てなくていい解決策」
「厳密には」
モモちゃんは天井を指差した。
「やっぱり」
「何がですか?」
「人類は諦めるのが早すぎた」
「今の会話とは関係ありません」
「あるよ」
モモちゃんはベッドから立ち上がった。
まだ完全に布団にくるまったまま。
一歩。
また一歩。
さらにもう一歩。
ゆっくりと部屋の中を進んでいく。
「私、イモムシみたいじゃない?」
「そうですね」
「とても効率的なイモムシ」
「違います」
「革命的なイモムシ」
「それも違います」
モモちゃんは進み続けた。
ちょこちょこ。
ちょこちょこ。
ちょこちょこ。
何時間もかかったような長い旅路の末。
ついにトイレへ到着した。
「勝利」
「まだです」
「どういう意味?」
「まだトイレを使用していません」
「細かいことはいい」
モモちゃんは腰を下ろした。
布団の端を持ち上げる。
そして――
沈黙。
長い沈黙。
布団の端が便器の中へ落ちた。
モモちゃんは動かなかった。
見ている。
ただ見ている。
「……」
「……」
「モモちゃん?」
「今日はもう終わった」
「まだ06:17です」
「だからだよ」
「終わるのが早すぎませんか?」
「宇宙が勝った」
「事故です」
「狙ってた」
「違います」
「私は知ってた」
「何をですか?」
「ずっと機会を待ってたんだよ」
「誰がですか?」
「宇宙」
沈黙。
「そこから出る予定はありますか?」
「ない」
「なぜですか?」
「今は喪失を受け入れる時間が必要」




