第10話 — 風邪の陰謀
06:00。
モモちゃんはゆっくり目を開けた。
ゆっくりと。
ロボちゃんの方へ顔を向ける。
「おはよう、モモちゃん」
ぐでぇぇぇ……
「今日は土曜日です」
「もう少し寝ていても大丈夫ですよ」
モモちゃんはゆっくり瞬きをした。
両腕を伸ばす。
起き上がろうとする。
しかし。
失敗した。
そのまま枕へ倒れ込む。
「ろ、ロボちゃん……」
ハクション!
「私……
毒を盛られたかもしれない……」
ハクション!
「どうしてそう思うのですか?」
モモちゃんは鼻をすすった。
鼻水が止まらない。
目には涙まで浮かんでいる。
「だって……
ハクション!」
「どうして目が潤んでて……」
「鼻水まで止まらないの?」
沈黙。
モモちゃんは目を細めた。
「寝てる間に部屋へ催涙ガスを撒かれたんだね」
「風邪です、モモちゃん」
「違うよ」
モモちゃんはゆっくり首を横に振った。
「それこそ」
「最初から用意してた言い訳だね」
「『彼ら』なんて存在しません」
「つまり……」
ハクション!
モモちゃんは大げさにロボちゃんを指差した。
「陰謀があるって認めたね」
「認めていません」
「私はそんなことは言っていません」
「ギャハハハ……」
ハクション!
モモちゃんは苦しそうに笑った。
「ほらね……」
「これが工作活動の証拠だよ」
「私は何もしていません」
ぐでぇぇぇ……
「それはこれから確かめるよ」
モモちゃんは大きく息を吐いた。
ようやく体を起こす。
布団の足元で丸くなって眠っていた。
ボールちゃんをそっと抱き上げた。
目の前まで持ち上げる。
「ボールちゃん……」
「ロボちゃんのことどう思う?」
「絶対に私たちへ嘘をついてるよね?」
「ニャー」
モモちゃんの目が輝いた。
勢いよくロボちゃんを指差す。
「やっぱり!」
ハクション!
「ボールちゃんが水平同盟の仲間に嘘をつくわけないよ」
「猫は話せません」
「話を逸らそうとしてるね」
「違います」
「君に都合のいい偶然が多すぎるよ」
「怪しすぎると思わない?」
ロボちゃんは数秒間沈黙した。
「はい」
「偶然が多すぎるなら」
「確かに不自然です」
その瞬間。
モモちゃんは勢いよくベッドの上へ立ち上がった。
片手を腰へ。
もう片方の手で。
大げさにロボちゃんを指差す。
「ギャハハハハ!」
ハクション!
「自白を取ったよ!」
「この事件は水平裁判所へ持ち込むからね!」
「そんな場所は存在しません」
「水平革命での私の権限を」
「君はまだ知らないみたいだね」
「意味が分かりません」
「その通り!」
「全部否定しようとしてるね」
「証拠は全部」
「君を指してるのにね」
「証拠なんてありません」
ぐでぇぇぇ……
ハクション!
モモちゃんは目を細めた。
「つまり……」
「証拠を全部消したってこと?」
沈黙。
「ますます怪しいね」
「私は何も消していません」
モモちゃんは再び布団へ潜り込んだ。
芋虫みたいに。
鼻を思い切りすすった。
息が切れるまで。
「はぁぁぁ……」
ハクション!
「この毒……
思ったより強敵だね……」
「毒ではありません、モモちゃん」
「じゃあ……」
ハクション!
「君は何だと思う?」
「ただの風邪です」
沈黙。
モモちゃんは目を見開いた。
「縦エージェント……
なんて卑怯なんだね……」
「今週ずっと濡れた靴下を履いていました」
「あはぁ……」
ハクション!
モモちゃんは勢いよくロボちゃんを指差した。
「やっぱり!」
「濡れた靴下こそ」
「事件最大の証拠だったんだね!」
「その点には同意します」
モモちゃんは満面の笑みを浮かべた。
とても誇らしそうに。
「ありがとう、ロボちゃん……」
ハクション!
「何のお礼ですか?」
「毒殺事件を解決する手伝いをしてくれたからだよ」
ロボちゃんは数秒間沈黙した。
「私は手伝っていません」
チッ。チッ。チッ……
「ロボちゃん……」
ハクション!
「君の言う通りだね」
「それは大きな声で言えないよ」
ロボちゃんは黙っていた。
「トイレットペーパー取ってくるね」
「鼻水が止まらないよ……」
モモちゃんはベッドの端へ座った。
深呼吸する。
覚悟を決める。
そして。
ようやく立ち上がった。
部屋を一歩出た瞬間。
ぴちゃっ。
カァァァン!!
モモちゃんは固まった。
ゆっくり足元を見る。
靴下がびしょ濡れになっていた。
「任務中止!」
「任務中止だよ!」
「どうしましたか、モモちゃん?」
ぐでぇぇぇ……
モモちゃんは床を大げさに指差した。
「やっぱり!」
ハクション!
「濡れた靴下事件は偶然じゃなかったね!」
「事件が繰り返されてる!」
ロボちゃんは数秒間沈黙した。
「浴室のドアを閉めたままにしました」
「ボールちゃんのトイレは中にあります」
チッ。チッ。チッ……
モモちゃんは腕を組んだ。
とても真剣な表情だった。
「奴ら……」
ハクション!
「私を待ち伏せしてたんだね」
濡れた靴下を見る。
それから。
ゆっくりロボちゃんを見た。
「私は今」
「毒まで盛られて」
「靴下も濡れて」
「しかも……」
ハクション!
大げさに人差し指を立てる。
「新たな謎まで抱えちゃったね」




