第2話:深夜相談部、始動
昼休みの教室は、いつも通りの騒がしさだった。机の上に置いた弁当の蓋を開けると、箸が止まる。麻衣は昨日の夜、チャットで見たリスナーの叫びと、学校での如月なつきの様子を思い出していた。あの“共鳴”は偶然じゃない。確かに、麻衣の声が、誰かの心をほんの少し揺らしていた。
「ねえ、麻衣さん?」
声をかけてきたのは、クラスメイトの田中瑠衣。ギターを抱えたまま、弾むように話す。
「昨日、なつきさん、ちょっと変だったよね……」
麻衣はうなずく。昼間のなつきの沈んだ表情、手元で小さく震える紙屑。
「……私、見てしまったの。私の配信が、少しだけ現実に影響してる」
瑠衣は目を丸くした。
「え、配信って……あの夜の声のこと?」
麻衣はうなずき、スマホを取り出す。画面には、昨夜のチャットログと、共鳴現象の目撃メモをまとめた簡単な記録が映っていた。
「誰かの心の叫びが、現実に小さく影響を与えているの。昨日のなつきさんも、そのせいかもしれない」
瑠衣は黙ってスマホを覗き込んだ。次の瞬間、教室のドアが開き、三浦理沙が入ってきた。論理的な視線で二人を見渡す。
「また変な噂?」
「いや……変な現象、かも」麻衣は小さく答えた。
放課後、三人は校舎裏の小さなベンチに集まった。
「まず、事実を整理しよう」理沙が言った。「感情が他人に影響を与える現象を“共鳴”と呼ぶとして、僕たちは何を知り、何をできるかを考える必要がある」
麻衣はうなずきながら、自分の心の中を整理する。
――私は、この力で誰かを救えるかもしれない。
――でも間違えたら、傷つけてしまうかもしれない。
瑠衣はギターケースを抱えながら、元気に言った。
「よし、じゃあチーム名決めようよ!“深夜相談部”とかどう?」
「……深夜?」麻衣がつぶやくと、瑠衣はにっこり笑った。
「そう、夜だけ開く相談室。配信もするし、直接会っても相談できる。私たちの“声”で、誰かを助けよう」
麻衣は一瞬迷った。けれど、胸の奥で何かが軽く弾んだ。
「……いいかも」
こうして、三人の小さな部活動は動き出した。名前はまだ非公式。けれど、誰かの声に耳を傾け、夜を共にする“深夜相談部”は、確かに始まったのだった。
その夜、麻衣はヘッドホンをつけ、いつものように配信を始める。
「こんばんは、深夜の声です――」
チャットに文字が流れる。今夜も、誰かが呼んでいる。
そして麻衣は、少しだけ自信を持って答えることができた。
――あなたの声、届いてるよ。




