『始まり』の訪れ
「アサちゃん、今回も千間君の手がかりはなし………?」
「そうね………今回は思い切って山奥の方へ探しに行ったんだけどね………」
グラディウスから直々に作戦の指示があったあと、アサヒとヒカリはいつもの応接間にてタイガ、茶羽、加藤と各々の近況を共有していた。
「あと、さがしてないところは………?」
「………帝国領のほとんどはもう探した。あと探していないのは―――」
窓から差す陽が漂う雲に覆われて陰りを見せる。
そんな外の景色を一瞥して、アサヒはその長く伸びた黒髪を揺らした。
「「「………」」」
不自然に言い淀むアサヒに口を出す者はいなかった。
―――なぜなら、その言葉の先は容易に想像がつくからだ。
つまりは―――魔族領。
しかし、人間であったヨミヤが魔族領にいるとするならば、不法入国で魔族に殺されているか、あるいは―――
「………っ」
アサヒはそこで、最後に見た彼の頭部に生えた漆黒の角を思い出し―――かぶりを振る。
「そ、それより………みんなは? タイガとか、よく偵察任務に同行させられてたでしょ?」
「ん………あぁ………」
無理やり話題を変える彼女の様子に、タイガは少し息を吐いて………それでもアサヒの言葉に渋々言葉をつづけた。
「やっぱり帝国は、ヨヴル・ヘイムのすぐそばにある国境沿いの町を拠点にするみてーだな」
「………だろうな。あそこが帝都と一番近い」
「………」
その後も続く話に、アサヒは全く集中できていなかった。
―――嫌な想像が、頭の片隅にこびりついて離れないのだ。
―――考えなかったワケじゃない。
この数年間、ずっと見ないようにしていた―――逃げていた推測へ………目を向ける。
―――ヨミの頭に生えた『角』………あれがどういう原因で現れたのかはわからない。けど、原因がどうであれ、あの姿はもう………悪魔族そのもの。
これだけ帝国領を探しても見つからない以上、彼の行方は魔族領。―――そして、あんな姿のヨミヤが魔族領に行けば、自然と受け入れられるはず。
―――仮に魔族として受け入れられたとして、彼は平穏な生活を望むのか?
その問いが浮かび上がると同時に、『カナンの村』であった事件で仲間を亡くしたヨミヤの姿を思い出す。
―――そして、魔族への態度を崩さない皇帝の姿をみて憤る彼の姿を思い出す。
―――ヨミは………きっと………もう一度戦いの中へ向かう………
その時だった。
「疲れてるね、アサヒ」
聞き覚えのある声が、耳朶を揺らした。
「ぇ………?」
肩に置かれた手の大きさに―――慣れ親しんだ、もう随分と触れることのなかった手に、瞳が揺れる。
「………………ヨミ………?」
振り返れば………少し背の伸びた青年が―――千間ヨミヤがそこにいた。
「久しぶりだねアサヒ」
穏やかな目を向けるヨミヤは、しばらくしてその場にいた者達にも目を向けた。
「久しぶり、みんな」
その頭部に、漆黒の角はなかった。
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