決闘の時も目立ちたくない⑦
「先程の決闘、どう思われますか?」
「面白そうな子が入学したのね。入学早々決闘なんて、血の気の多い子が入ってきたと思ったら……フフフ、あの子の事調べておきなさい。」
金髪ロールの髪型が目立つ女性は、近くに居た別の男子学生にそう指示する。
言動からして人の上に立つような人物であるが、マリスはそんな者にすら目を付けられていた。
「今の所わかっているのは、一級クラスに所属している事だけです。」
「ふぅん、あのルーザー殿下とエリザ殿下のおられるクラスね。あまり派手に動くのもよろしくないわね、上手く動きなさいな。」
「畏まりました。」
それだけ言うと男はその場から姿を消した。
「出来れば手に入れたいわね……」
金髪の女性は誰も居なくなった部屋で呟く。
マリスの目指す、目立たない平穏な生活は徐々に脅かされてきていた。
教室に戻ったマリスは同じクラスの者から歓待を受けていた。
「やったなマリス!」
「凄いわ!あのガイを倒すなんて!」
「マリス君、私にもあの魔法どうやったか教えてよ!」
誰もがマリスを認めていた。
圧倒的とも言える決着を見れば、認めない者などいない。
マリスは一躍時の人となっていた。
「ああ、ありがとうございます。」
誰が誰か分からずとりあえず敬語でお礼をする。
僕の周りに集まっている人達は多分ほとんどがウチより格上の家庭で育った者達ばかりだろうから。
「おいおい!マリス!敬語なんて使うなよ!同じクラスの仲だろ!」
「そうよマリス君!別に貴方が男爵家の者だなんて気にしないわ!」
ははあ、なるほど。
そう言って僕に無礼な態度を取らせて、後から許して欲しければ先程の魔法の秘密を教えろとでも言うのだろう。
騙されないぞ。
「いえ、皆様に失礼な態度は取れませんので。」
「気にするなって!」
肩をバンバン叩いてくるが、今は我慢だ。
貴族というのは汚い生き物だからな、気を付けないと。
「マリス!お疲れ様。流石だね。」
僕の周りに集まっていた学生を割って近付いて来たのはルーザーだった。
皇子が近付いて来たとなれば、自然と騒いでいた皆の口は閉じられる。
「ルーザー、ガイはどうなった?」
「ガイは医務室に運ばれたよ。気を失ってたから多分まだ目が覚めてないだろうね。」
「そうか、まあ死んでないならいいや。」
一応決闘相手のガイについて聞いたが、命に別状はないらしい。
それは良かった。
当たりどころが悪くて死にました、なんて事になればどうしようと思っていたがその心配はなくなった。
「皇子殿下にはタメ口なのに俺等には敬語なのかよ……。」
誰かの小さな呟きが耳に入ってくるが、聞こえなかった事にしておこう。
「それよりルーザー、あれで良かったかな。」
「あれで良かったとは?」
「いやほら、僕ってアレじゃん?目立たない戦いが出来たかなーと思って。」
ルーザーは目を見開く。
「マ、マリス……まさかあれが目立たない最良の行動だとでも言うのかい?」
何をそんな驚くんだ、どう見てもさっさと決闘を終わらせて観衆の目に晒される時間を短くした僕の行動は目立たない最良の行動だろう。
「そ、そうか。いや、まあ、目立たないかどうかで言えば目立ったよ。」
「ええ!そんなはずはないだろ。だって2秒で終わらせたんだぞ。」
「だからだよ。」
僕は首をひねるが、ルーザーも首をひねる。
「正直に言ってやっていいんですよ皇子。」
そんな言葉を投げ掛けながら、近付いて来たのはレイさんだった。
「君は、レイさんだったね。正直に言うって、まあその。」
煮え切らない返事をするルーザー。
「2秒で片を付けたんです、あれで目立たないなんてあり得ませんから。」
「いやまあそうなんだけど。」
なんだ、二人して。
一体何が言いたいのか。
「マリス、あの行動が目立たないと思ったら大間違いよ。」
「え、でも2秒で終わらせましたよ。」
「それよ。一体誰が三色魔導師でもあるガイを2秒で倒すっていうの?少なくとも私には出来ないわ。」
「まあ人には向き不向きがありますし、幸い僕には速攻が向いてたんじゃないですかね。」
レイさんは呆れた顔を見せ、僕の耳に口を近づける。
「貴方本当に隠すつもりあるの?」
小さく僕にしか聞こえない声量でそう問い掛けてくる。
当たり前だと目で訴えると、もう一度耳に口を近づけ小さく呟く。
「ならば今後大胆な行動は控えるべきね。恐らく今貴方はあの決闘を見ていた有力者から目を付けられているわ。」
なんて恐ろしい。
やっぱり今後は何かする前にレイさんに相談しよう。
僕が考えて行動するとろくな事にならないらしい。
「流石にこれ以上はフォローしきれないわ。人の噂も75日と言うし、ほとぼりが冷めるまで大人しくしていなさい。」
「はい、すみません……。」
レイさんに怒られてしまった。
というよりレイさんはとても真面目な人だと分かった。
他人でもある僕の為に色々考えてくれているし、アドバイスもくれる。
頼りになる人が味方で良かった。
「いやあそれにしてもやはり俺の親友は強かったのだな!!初めて会った時から何か不思議な力を感じていたがこういう事だったとはな!!」
フェイルは意気揚々と近付き満面の笑みで僕の勝利を喜んでいた。
しかし初めて会った時から不思議な力を感じていたってフェイルの勘もあなどれないな。
「やるじゃない、マリス。ガイは結構嫌われてたからまあ良かったんじゃない?マリスの温情で生かされたって結果には憤慨してそうだけど。」
「嫌な事言うなよ。」
ロゼッタは、ガイが別の意味でマリスを憎むのではないかと心配しているようだ。
「ま、気を付けておくことね。特に夜道なんかは。流石にアンタでも不意打ちは無理でしょ?」
言葉に気を付けねば。
ホントの所を言うと、不意打ちだろうが何だろうが常に体に薄く結界を張り巡らせている為怪我を負う事など絶対ないのだがそんな事言えばまた面倒な事になる。
よし、ここはこれでいこう。
「ああ、確かに夜道は怖いな。不意打ちなんてされたら反撃が遅れるし。」
どうだ、これならガイすら瞬殺できる力を持っていても不意打ちには弱いって印象を与えられる。
ふふふ、我ながら素晴らしい返しじゃないか。
「え?不意打ちされて反撃できるんだ……、夜道で不意打ちされたらいくらなんでも致命傷は避けられないって意味だったんだけど。アンタは大丈夫そうね……。」
ロゼッタの顔を少し引き攣っている。
なるほど、返答を間違えたらしい。
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