決闘の時も目立ちたくない⑧
ガイは目を覚ますとまず視界に入ったのは見覚えのない天井だった。
白を基調とした部屋のようで、天井も白ければ壁も白い。
どうやら何処かの部屋に運ばれベットに寝かされていたらしいと気づき、身体を起こし辺りを見回す。
薬品の置いてある棚が目に入り、ここは医務室だと確信する。
部屋の中には誰もおらず、自分だけが寝かされていたようだ。
額の辺りにズキズキとした痛みを感じ、さすりながら先ほどの決闘を思い出す。
白い壁が消え、マリスの姿を視認したと同時に魔力を練り始めた。
得意とする火属性魔法でまずは牽制しようと思い、両手に火を纏わせた所で意識を失った。
そして気づけばここ、ベットに寝かされている。
何が起きたか理解が出来なかった。
意識を手放す瞬間、マリスが俺に手を向けていたのは見えたがそこからの記憶がない。
なんとか思い出そうと唸っていると部屋の扉が開いた。
ベットの周りにはカーテンがされており、誰が入って来たかは分からない。
「誰だ?」
返答はない。
ただゆっくりこちらに近づいてくる足音だけが聞こえる。
「名を名乗ったらどうだ。流石に無礼が過ぎるぞ。」
言葉で威嚇するがやはり返事はない。
ガイの所まであと数歩といった所で、最後の警告を放つ。
「無視か?それ以上無言で近づいてみろ、魔法をぶっ放すぞ。」
魔力を練り、片手を足音が聞こえる方向に向ける。
しばらく待つとようやく返答があった。
「申し訳ございません、あまり身分を明かせる立場ではございませんので無言で近寄らせて頂きました。」
透き通ったような声の男性だ。
しかし自分の知り合いにそんな男はいないはず。
「誰だ、俺はお前の声を聞いたことはない。知り合いでは、ないようだが?」
「もちろん、今この場で言葉を交わしたのが初めてでございますガイ様。」
丁寧な口調だが、真意が読めない。
顔を見た方がよさそうだと判断し、カーテンを捲る。
そこにいたのは黒いタキシードを着た高身長の男だった。
やはり見たことがない。
もしかすると自分が忘れているだけかもと思ったガイだったが、それも違ったらしい。
「何者だ。」
念の為魔法をいつでも発動できる状態で、その男に手を向ける。
「私は、十悪が一人ハスターと申します。」
十悪、その言葉を聞いた瞬間魔力を高めた。
いつでも殺せると言わんばかりに。
「おっと、ガイ様落ち着いてください。貴方に危害を加える事はありませんよ。」
「落ち着いていられるか!何故ここに十悪がいる!!ここは学園内だぞ!?結界はどうした!門兵もいたはずだ!!」
矢継ぎ早にハスターと名乗った男に投げかける。
「まあ、とにかく落ち着いて下さいガイ様。」
ハスターが指を鳴らすと、ガイの手に纏っていた炎が消えた。
高めた魔力も霧散してしまった。
「なっ!何をした!」
「ちょっとした魔法ですよ。火は危険ですので消させていただきました。」
にこりと微笑みながら言うが、そんな簡単な事ではない。
魔法を消す魔法というものはあると聞いてはいたが、実際に使われると狐に摘ままれたような顔になる。
これ以上何かしようとすれば身の危険がありそうだと判断し、ガイはその男の話を聞くことにした。
「では本題に。ガイ様、負けたままでよろしいのですか?」
唐突に煽られたのかと思い、ガイは眉間にしわを寄せる。
「あのマリスという学生、恐らく何か秘密を隠していると思われますよ。」
「秘密だと?」
確かに色々噂が多い男だ。
マリスは強く多才であり何か秘密があるとは踏んでいたが、何を隠しているかまでは分かっていない。
「今のままでは勝てませんよ。」
「なんだと!俺があの男よりも劣っていると言いたいのか!!」
「いえいえ、そう言う訳ではありません。ただあの男に勝ちたいのならば今のままではどう足掻いても無理かと。」
「……何が言いたい。」
今のままでは勝てないだろうことは分かっている。
こちらが何をされたかも分からないほどだ。
普通の鍛錬を積むだけでは勝てない。
「十悪でその力、鍛えてみませんか?」
「……何?」
何となくそんな気はしていた。
意味なくこんな所に現れるような奴らではない。
「我々なら貴方をもっと強くすることができるのですよ。」
「どうやってだ。」
「それは、我々の仲間になってからでないと教える事は出来ませんね。」
強くなる方法があるというなら知りたい。
しかし、流石にガイと言えども十悪に身を寄せる事は愚かな事だと理解している。
「無理だ、見なかった事にしてやるからさっさと失せろ。」
「ほお、靡きませんか。仕方ありませんね、この手はあまり使いたくなかったのですが。」
そう言うとハスターはポケットから魔道具を取り出した。
嫌な予感がしたガイは即座に魔法を展開しようとしたが、また指を鳴らされかき消された。
「くっ!何をするつもりだ!!!」
「少し大人しくしていただけませんかね、この魔法は結構魔力を使うのであまり多用したくないのですよ。」
魔法を消されれば魔導師は何の役にも立たない。
せめてフェイルのように剣士として鍛えていれば、この場から逃げ出すこともできたが残念ながらガイには魔法以外の攻撃手段はなかった。
ハスターは魔道具と思われる紫色の玉を目の前に持ってくる。
「さあ、貴方の本性を見せてください。」
その玉を見ると、ガイは無性にムカムカしてきた。
マリスが憎い、自分より格下の者が皇族と親しいというのが許せない。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い!!!!
「うっ、ぐぅぅぅあぁぁ!」
「ふふふ、いい感じです。ああ、説明してませんでしたね。この玉は特殊な魔道具なんです。対象の感情を増幅させる物。今貴方はマリスが憎いと思っているでしょう?その憎しみを増幅させるのですよ。」
マリスが憎くてたまらない、殺したい……そんな感情に支配され他の事がどうでもよくなってきた。
ガイは頭を抱え、闇から聞こえてくる声に耳を傾ける。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺セ、殺セ、コロセ、コロセ……マリスヲコロセ……
「もうそろそろ大丈夫そうですね。」
ハスターはガイの目の前に持ってきた玉をポケットに入れる。
既にガイは頭を抱え、ブツブツと何やら呟く状態になっていた。
「こうなるから使いたくなかったのですけどね、まあこれでも三色魔導師。それなりに使える駒になるでしょう。」
医者がガイの様子を見に医務室に戻った時には、既に二人の姿は消えていた。
ブックマーク、評価お願いいたします!
誤字脱字等あればご報告お願いします。




