勇者の称号とアイリスの実力。
俺は十数人の受験生を見たが、中々筋がいい者が6、7人いた。
もちろん選抜クラスへ招待した。
「さて、次は誰だ?」
「自分、ですね」
「ああ、お前は」
最初に質問をしてきた男だ。
見た目は優しそうで静かな雰囲気があるが、〈ステータス〉を見れば一目瞭然。
この中でもトップクラスの実力がある。
先ほど言っていたジェネシス、つまり創造神の加護Lv.7と...
「称号、【勇者】か」
「一応、勇者ですね」
勇者、と言えばあれだろう?物語の主人公だったり、世界最強と言われたりするあれだろう?
あまりゲームやライトノベルを読まない俺でも知っているほどだ。ただ者ではあるまい。
「しかし、あまり有名でも無いようだな?」
「ははは、そう言われても仕方ありませんよ。まだ力のコントロールがままならない状態でして」
「そうか、それは学院でも鍛えがいがあるな」
「そういってもらえれば楽になりますね」
喋りながらも、彼は右手と左手に聖属性のオーラを放つ剣を創り出した。
「エル・ガングラムです。どうかお手柔らかに」
にこやかに笑顔を見せたと思えば、剣を持つ手に力を入れ、先ほどとは比べ物にならないような殺気のようなものを放つ。
エルは二本の剣を構えて重心を前に押し出す。
その瞬間、エルは消えた。
否、消えたように見えた。
「ハァッ!!!」
「ほう、速いな」
一瞬で俺の後ろに回り込んだエルは、その二本の剣で俺に斬りかかるが、ギリギリで俺は剣を抜き阻止する。
エルは瞬時に下がり、先ほどとは違う形で剣を構える。
「光桜二刀流・壱ノ型〈飛光〉!!」
彼の二本の剣から、飛ぶ光の斬撃が撃たれる。
それを俺は正面から斬り伏せる。
「さすがだな、勇者」
「はは、あの光速の斬撃を所見で斬るとは。さすがは英雄ですね」
ある程度実戦経験があるだけだと思っていたが、大間違いだった。
エルは元々勇者という称号がある故か、昔から鍛錬を積んできたのだろう。
「ふむ。では俺も少し本気を出そう。死ぬなよ」
「ええ、多分」
俺は一度剣を鞘に戻し、収納空間から魔導書を取り出す。
「何ですか...?そのヤバそうな本は。どこかのアーティファクトですか?」
今までも魔法は少し使ったりしていたが、所詮俺が魔法陣を覚えている範囲の魔法。
魔導書に記録している量とは比にならない。
「〈火弾〉七連」
「こ...これ本当に〈火弾〉ですか...?」
七つの巨大な青い炎の弾がエルを襲う。
「光桜二刀流・壱ノ型〈飛光〉四連ッ!」
「ほう。剣技を連続使用できるとはな」
エルは二刀流の特徴である繋げる攻撃を生かし、七つの弾を斬りきる。
そして、あまった一つの斬撃が俺の方に向かってくる。
「〈創造〉ボラゾン」
ジェネシスの加護からくるスキル、〈創造〉。
俺が創り出したのは、『ボラゾン』という物質でできた盾。前の世界では、ダイヤモンドに次ぐ強度を持っており、ホウ素と窒素を1800度以上で加熱することでできる、人口の物質だ。
普通に作ろうとすれば、1800度以上で加熱する際に時間がかかるので、スキルを使った。
「創造のスキル...ですか。あなたも創造神の加護をお持ちでしたか」
「まぁ、成り行きでな」
「いえ、創造神の加護は成り行きで手に入るものではありません。あなたも、この世界に必要不可欠な人間ということですよ」
「そんな意味があったのか。俺はそういう事には詳しく無くてな」
「そうでしたか。すみません、余計な詮索はマナー違反でしたね、すみません」
「いや、別に気にしなくて良い。お前はこの戦いに集中しろ」
そうだな。一度落ち着いたら教会へ行ってジェネシスに聞いてみるか。
「〈光桜二刀流・肆ノ型〈光突〉」
今度は剣の切っ先を俺の方へ向ける。
名前からして、一点突撃だろうか。
しかし、それでは二刀流の利点を潰してしまう。二刀流の流派がそのような技を作るだろうか。
「〈破〉ッ!!!」
「な...!?」
エルの声と同時に、剣の切っ先から光線が俺に向かって一直線に放たれる。
「自分が使う『光桜二刀流』は、世界で見ても珍しい遠距離系の流派。そしてその技で使う光属性の適性はLv.6。あなたにも引けを取らないと思いますが...どうでしょうか?」
「さっき一発喰らっていたとはいえ、ボラゾンの盾を突き破るのは至難の業。それも離れた位置から。お前は間違いなく選抜クラスに入れる。しかし、ここで終わらせるのは味気ないだろう?」
「まぁ、そうですね(今どうやって〈光突〉を防いだんだ?あの盾で勢いを削られていたとはいえ、ノーモーションで止めることは出来ないはずなのに...)」
「では、俺が終わらせよう。お前の強さに見合う技で」
「ははは...殺さないでくださいよ...?」
俺は別段負けず嫌いな訳では無いが、相手につまらない思いをさせるのはこちらも面白くない。
相応の技をお返しせねばな。
「お前が得意な光属性の技だ。お前もこの学院を卒業する頃には使えるようになるだろう」
——〈時光の檻〉——
「...!?」
「どうだ?動けないだろう?」
俺はエルの周りに時を断絶した球を創り出し、彼を時の檻に閉じ込めた。
今は時の流れを約5倍ほどに感じているはずだ。
少しした後、俺は魔法を解いた。
「ひ...ひどいですね。すぐ解いてくれればよかったのに」
「いやな、魔法の威力を身を持って体験してもらいたくてな」
「というか、何ですか?あの魔法。見たことも聞いたこともありませんよ」
「ま、俺が創ったからな」
「んな...常識はずれな」
原理としては、魔力で範囲内で光速以上の速度を出し、時の進みを調節しているという事だ。
光速より速く動けば時間を遡れるというのは有名な話だが、それを調節すれば好きなだけ時間を弄れるという事だ。
もちろん代償はある。
範囲内で光速以上を出しているため、空間に歪みができる。それにより自分が少なからずダメージを負うのだ。しかし、慣れればその歪みも魔力で消すことが出来る。もちろんその魔力も少なくないが。
「ひとまずエル、お前を選抜クラスに招待する。剣に纏わせていたのは聖属性の魔力だな?聖属性が使える者は魔族に対抗するには必要な人材だ。これからよろしく頼むぞ」
「はい。あの魔法、教えてくださいね」
「時が来たらな」
これで8人目の選抜入りだ。今までの確率としては三分の一程だろうか。
〈ステータス〉が良いからと言って強いかと言えばそれは違う。
まぁ、鍛錬すれば強くはなるが、それは〈ステータス〉が良くない人間も同じだ。
成長率が同じとは限らない。難しい世界だな。
「次の者...って、アイリスか」
「は、はい!よろしくお願いします!」
俺は今もアイリスと同居しているが、彼女が練習をしているところを今まで見たことはない。
別にアイリスに見るなと言われた訳でもなく、俺が敢えて見なかった訳でもない。
丁度時間があっていなかったのだ。
暇があればアイリスの練習に付き合おうと思っていたのだが、それは他の受験生と不平等になる、と断られてしまった。
王女という事もあって、さきほど待機している場所では目立っていたが、彼女は緊張のせいか、気が付いていない様子だった。
今もあまりリラックスできていないようだ。
「アイリス、緊張する必要はない。〈ステータス〉を見させてもらったが、基礎レベルがしっかり上がっている。それに、魔法行使のLv.8はこのAグループ内でも断トツで一位だ。落ち着いて来い」
「ソウタさん...はい!頑張ってみます!」
「よし、その勢いだ。それと、ここでは先生だぞ?」
「あ...すみません、ソウタ先生」
「まぁいい。始めるぞ」
俺はアイリスから10メートルほど離れた場所に立つ。
まだ剣も魔導書も出していない。
アイリスの方は、腰にしまっていた杖を出し、俺に向かって構える。
「行きます。〈水砲爆〉!」
アイリスは大きな水の球を創り出し、俺に放つ。
「ふむ。速度はあるが、この程度では斬れば済むも..の.....!?」
俺は瞬く間に剣を抜き、その水球を斬ったが、それだけでは無かった。
中に忍ばせてあったのは起爆装置。俺は気づかずに真っ二つにすると、中心部にあったそれが物凄い勢いで爆発する。
「巧い。アイリス、これは誰に教わったんだ?」
「昔、メイシュさんに稽古をつけてもらっていた時期があったんです。そこで教えてもらった魔法です」
「なるほど、メイシュか。それなら分からなくないな」
しかし、これはアイリスの腕があったこその魔法だ。
あの起爆装置は衝撃に反応して爆発するもの。それをあの水の球の中に隠した上で、衝撃を最小限に抑えながら俺に向かって放ち、自分が被爆しないギリギリの強さにしてある。
俺が言うのもなんだが、素晴らしい才能だ。
「よし、ではこちらから行くぞ。〈炎波〉」
俺は文字通り炎の波をアイリスに向けて流す。
先ほどのアイリスの攻撃程速度は無いが、広い範囲がある。これには安定した防ぐ力が必要だ。
「くっ...〈土輪壁〉!!」
アイリスは自分の周りに土でできた壁を創る。
もちろんそれならば炎の波を防げる。しかし、
「しかし、それでは俺に攻撃しろと言わんばかりだぞ?」
「・・・」
アイリスはまだ壁を壊さない。どういう狙いだろうか。
「では、遠慮なく行かせてもらおう。この程度では到底選抜には入れないぞ」
俺は自分の筋力で高く飛び、輪の形をした壁の真上に行く。
中は暗くなっており、アイリスの姿がよく見えない。
「しっかり防御しろよっ!」
俺はそのまま重力に任せて剣を振り下ろす。
しかし、そこにアイリスはいなかった。
「ほう。そういう事か」
「そういう事ですよ!」
壁の外からアイリスの声がする。
恐らく、壁を創った後にすぐに抜け出し、俺をおびき寄せたのだろう。
俺はまんまとアイリスの策に乗せられてしまったという訳か。
「〈風切〉!!」
アイリスは壁を崩しながらこちらに魔法を放つ。
俺は壁のせいで魔法が見えず、タイミングが見計らえない。
「アイリス...思ったよりセンスがあるな」
「ありがとうございます、ソウタ先生!」
「ま、俺には効かんがな」
俺は先ほども創ったボラゾンの盾をもう一度〈創造〉し、危なげなく防いだ。
「!?...傷すら付かないなんて...」
「ダイヤモンドの代用品としても使われるくらいだからな。しかし、アイリス、今の策は良かったぞ。改良を重ねていけば通用していくだろう」
「本当ですか!?」
「ああ、本当だ。これによりアイリス、お前を選抜クラスに招待する。これからも鍛錬に励め」
「・・・は、はい!よろしくお願いします!」
感極まったようで、アイリスの目には光る物があった。
「しかし、ここまで強いならなぜあの時森で戦わなかったんだ?そこらの下っ端兵よりも強いだろうに」
「いえ、それはそうなんでしょうけど、何故かあの時魔法が使えなかったんです。私の調子が悪かったんですかね」
いや、調子が悪い程度で魔法が使えなくなるようなことは無いはずだが...
謎が深まるばかりだな。
その後も20人以上の試験を行い、夕方になる頃には、俺は精神的に疲れ果てていた。
Aグループ試験、無事終了。結果選抜クラスの人数は、15人となった。




