ヒーローもどきとヒーローの登場
幸いと言っては何だけども、犯人は直接リタ様に危害を加えているようだから、現場見つけて現行犯確保すればいいのよね。
頭の悪い犯人で助かるわ。
自分がやったことを気付かせないでネチネチやられたら……うん、それ私の孫がやってたわ。
堂々と嫌味も言ってたけど、裏でネチネチしてたわね。うん、アタマイイワネ。
そんなことを考えながら、リタ様の後をひっそりつけはじめた。
リタ様が「庭師に偶然水をかけられた」のは大体が昼休みか放課後。
昼休み前の授業が自習だったのを良いことに、私は授業が終わるちょっと前にクラスを抜けて、リタ様のクラス付近に向かう。
ウィリアム様のクラスは隣なんだけど、リタ様のクラスは階が違う。だから偶然会えることがあまりないのよね。
階段を降りると話し声がした。
反射的に影に隠れて様子を伺うと、女子生徒何人かが連れ立ってお手洗いに向かっていた。どうやらここの階のクラスでも自習のクラスがあったみたい。
前世でもこういう光景あったなーとかぼんやり思っていたらその集団の1人がリタ様だった。
……全然楽しそうには見えないのよね。
その集団がお手洗いに入ったのを確認し、ススス、と私もお手洗いの入り口に立つ。
中の話し声、ばっちり聞こえます!
えーと何々、「いい加減に生徒会辞めなさいよ!」ですって?はあ?
「貴方みたいなのがブルーノ様の近くにいるの、本当目障り。ブルーノ様の品が下がることを自覚しなさいよ!」
「いや、何度も申し上げている通り、ブルーノ様の近くにはあんまり居ないんですよ。大体アラベラ様かダビ様の近くで……。」
「屁理屈言ってんじゃないわよ!」
「流石"リナレス家"のご令嬢。親に似て恥知らずで頭も悪いようね。」
「そうですね。その通りですね。」
「何よ、馬鹿にしてるの?」
「また今日も水浴びしたいのかしら、この子。」
クスクスと笑い合う声が聞こえてくる。
ああ、もうステレオタイプのいじめっ子じゃない!
さっきチラ見しただけですけど、悪役令嬢にしては皆様目つきもそこまでキツくないし申し訳ないんですけど迫力がない。
本当の悪役令嬢(の祖母)は!こんなに目つきが悪いのよ!あんたたち(の顔なんて)怖くないわ!
そう思いながら、意を決して飛び込む。
「楽しそうですね、私はめちゃくちゃ不快ですけど。」
「アラベラ様!」
「リタ様、大丈夫ですか?」
「最近はいつものことなんで!」
あらぁ、慣れちゃってる。
ちょっと前の自虐リタ様は何処かに飛んでいったのか、全然です、という顔をしていた。
「私は、アラベラ様と……ダビ様が開いてくださった道のお陰で学園生活が楽しいです。まだ、自信のないこともありますが、前を見て過ごすだけで、なんと息の吸いやすいことか。」
私を見てにっこり笑う。あれ、これ私庇う必要なかった……?
「だから、毎日呼び出されても、こんな人たちに何を言われても怖くないんです!」
「何ですって?」
前言撤回。火に油を平然と注ぐリタ様は見ててハラハラする。
"こんな人たち"は私を見てフン!と鼻を鳴らす。
うーん、迫力がない顔なのが残念。
「アラベラって……あなた、コルソン家の子爵令嬢でしょ?たかが子爵家の娘がヒーローにでもなったつもり?」
「そういうあなた方も、悪役だということはご自覚があるようで安心したわ。」
ほほほ、と笑いながら誤魔化したけど、うん、ヒーロー気取りだったのは否めないし、そこは恥ずかしいから触れないで欲しいなぁ……。
あれ、というか、一部の"こんな人たち"見覚えあるなぁ。
あ、図書室でウィリアム様囲んでた人だ。声色が随分違うから気付くのに時間がかかった。
イケメンなら誰でもいいし、イケメンに近づく人はみんな排除したいのね。
そんなことを考えていたら、目の前から思いっきり水をかけられた。
水どこから出てきた?と思ったら"こんな人たち"の一人が水魔法を使ったらしい。
一年生は授業時間外に魔法使うの、駄目じゃなかった?
なのに、毎回毎回リタ様に規則を破って水をかけていたの?中々、健気なことをするじゃない。
「アラベラ様!すみません、私のせいで……。」
リタ様が久しぶりにあわあわしながら私に声をかける。自分だってびしょ濡れなのに。
「毎日靴がゴミ箱に入っていたり、びしょ濡れになるのも大変でしょ?私たちも毎日あなたと話しをするのもうんざりなの。」
「このままだと、コルソン子爵令嬢の靴も明日からゴミ箱に入るし、こんな風に毎日びしょ濡れになってしまうかもしれないわよ?貴方のせいで。」
リタ様がぎゅ、と手を強く握るのが見えた。
「私の、せいでアラベラ様が……。それなら……。」
「それはないな。」
「誰?!」
リタ様が何か言いかけると、入り口から声がする。
「はいはいどうも、生徒会役員です。」
「ダビ……!」
「ダビ様!」
「自己紹介どうも。これ以上入ると勘違いされてしまいそうなので、入り口から失礼します。」
そういうとダビは軽く頭を下げた。
ダビに抜け出したのバレてたのね、流石に……。
「な、何よ!」
「先程のお話、しっかりと"記録魔法"で抑えさせていただいております。」
「何ですって……?!」
「ですので、こちら、"生徒会役員一同"で確認をさせて頂きますね。」
ニヤッ、とダビが笑うと、"こんな人たち"は顔がサアア、と青くなる。
生徒会役員には勿論、ブルーノ様もいるわけで。
「それと、こちらのコルソン子爵令嬢、ご存知ないようですが、アーチボルド伯爵の長男の婚約者です。」
「「「ウィリアム様の?!」」」
「「「アーチボルド家?!?!」」」
何人かがそれぞれハモッてた。兄以外でハモる人をあまり見ないから、思わず笑いそうになってしまった。
「個人的にも俺は仲良くさせて頂いているので、こちらはお伝えさせていただきます。アーチボルド家がどのような家かは……ご存知ですよね?」
アーチボルド家は伯爵の中でも王家に近い家で、ウィリアム様のお父様は宮廷にもよく出入りをしているらしい。
そんな家の婚約者をいじめたら……後は分かりますよね?というダビの脅しだった。
それ以降、"こんな人たち"は言葉を失ってしまっていたので、ご理解いただけたと解釈をして、私たちはその場を去った。




