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N-162 欲しいもの?

 ユングさんからのメールを端末を操作して開くと、大陸の西に広がる大洋とその西の大陸までの地図が映し出された。

 その地図に悪魔の版図が赤く映し出される。

 少しずつその版図の色に、北極海を縁取る島々が染め上げられる。

 右下の数字は予想される経過年数のようだ。

 

 大陸の西に小さな赤い染みが浮かぶと、猛烈な速度で東へと広がる。

 大陸の東西に横たわった山脈を挟んで北側の広がりが遅くなり、やがて停止する。

 南側の広がりは当初はあっという間に広がったが、連合王国と西の王国の間に広がる荒野で侵攻は停止した。

 俺達のエイダス島にその色が浮かんだのは南側の侵攻が停止する少し前になる。

 慌てて経過年数を確認すると30年ほど先の出来事だ。

 エイダス島の西半分が悪魔の手に落ちた後に、少しずつ色が薄れていく。それでも三分の一は赤く染まっているが、その原因は何なんだろう?


 連合王国の西は全く動かない。たぶん堅固な阻止線が構築されているに違いない。

 だが、それなら南からではなく北からの進軍だって可能な筈だ。

 奴等が北の侵攻を途中で止める要因は何なのだろう? そう言えば、連合王国の東の戦いだって考えるところがあるぞ。

 何故に、途中で南に侵攻ルートを変えたのか? それと、更に南の大陸へと足を伸ばさない理由は何なんだろう?


 一旦、ファイルを閉じると連合王国の西の阻止線を見てみることにした。

 そこに映し出されたのは、大掛かりな土木工事だ。空掘りの横幅は数十mはあるし深さも10mはあるだろう。その土砂を使って連合王国側に俺達が築いている石壁の数倍の規模を持つ長城が造られている。

 万里の長城に近い構築物だ。荷馬車同士がすれ違える程の横幅を塀の上部が持っている。

 数kmおきに作られた望楼は100m四方の広場を塀の高さに持っている。たぶん、そこに大砲を据え付けるんだろう。なるほど十分に足止めが出来る筈だ。

 殆ど東の城壁と同じに見える。

 あちらはかなり昔に作ったようだが、西の防壁は現在進行形だな。たぶん1万人近い兵士があの防壁作りに携わっているに違いない。


 次に東に画像を移動する。

 防壁の最南端は海に達していた。その先2km程で南の大陸が広がっているが、そこにあるのは砂の海だ。

 南と西に300kmも続いているから、あれを越えるのは無理だろうな。その先には緑が広がっているのだが、そこに到達する為には10日以上は掛かる筈だ。それにどんな魔物が砂に潜んでいるか分ったものじゃない。


 後は、山脈の北側だが……。

 何も無い土地だな。かろうじて、連合王国の山脈を越えた反対側に大きな城壁都市が見えるが、ユングさん達は交易をしていないようだ。

 となると、敵対種族が住んでいるのだろうが、周囲はみすぼらしい畑が見えるだけだ。

 攻めるにしても移動距離がありすぎるのだろう。長い冬で兵力を減らすのが目に見えている。

 だが、連中はユーラシアに来る為にかなりの兵員を損耗している筈だ。北極海を渡る位なら、北のルートを使った進軍も可能だろうに……。


 タバコに火を点けて再度悪魔の進軍を見てみる。

 やはり、30年後にはやってくることになるんだな。先遣部隊はその数年前にはやってくるだろう。そうなると、腹を決めるのは20年後と言うところだろうか?

 美月さんのことだから、黙って迎撃するだけではなく、最後には逆襲に出るのだろうが、それは俺達の子孫の時代だろう。

 先ずは国力を充実させるのが先決になるんだろうな。俺から見てもだいぶ連合王国は進んでいるが、それでも100年後になっても反撃は開始出来ないようだ。


 安心してスクリーンを閉じようとした時、もう1つのファイルに気が着いた。

 そのファイルを開けると……。

 何だこれは! 侵攻速度がかなり速いぞ。

 連合王国の阻止線に到達するのが5年程度だ。そして、エイダス島付近に先行偵察艦隊が現れるのが3年後になっている。

 この2つのシュミレーションの前提は何なんだろう。

 ファイルに添付された条件書を2つ並べて表示すると、数値の比較を始める。


 どうやら、来襲する軍団の規模で変わっているようだ。

 規模が1.5倍になっただけで侵略速度が数倍に跳ね上がっている。

 この辺の計算は色々とあるのだろうが、ユングさんがこの2つのデータを開示したという事は……早くて数年、遅くとも30年後ってことになるんだろうな。

 幅がありすぎて参考にならないような気がするけど、ユングさん達はこの値を元に行動してるんだろうか?

 それとも、更にデータを持っているということなのか?


 一服しながら、そんな思いに捕らわれていると警備兵が来客を連れて来た。

 

 「アルトス将軍とエクレム将軍です」


 警備兵が知らせてくれるけど、一目見れば分かる事なんだよな。


 「王都の迷宮に行ったそうだな?」

 「ええ、行ってきました。俺達も少しはレベルを上げませんと……。何時までも白では、ルミナスやレイクの笑いものです」


 そんな俺の言葉に2人が笑いながら、テーブルを回って暖炉傍のソファーに腰を下ろす。


 「あの2人は俺のところで貰うことにした。人間族だがハンターとしての仲間の反応は良いぞ。今は小隊を率いているが、将来は俺の代理になって貰うつもりだ」

 「ハンターですよ。軍の指揮命令系統を理解しているとは思えませんが?」


 「お前としばらく狩りをした実績を持っている。そしてお前が気兼ねなく命令できる相手でもあるからな」

 「確かにそれが大事だな。今は南の偵察を仕切っている。出来れば俺の後任になって欲しいところだ」

 

 そんな事を言ってるけど、彼らはエクレムさんの部隊にいるって事だな。

 そんな2人に、ユングさんから届いた情報を再度スクリーンに映し出して解説する。

 だが、2人ともあまり驚いていないようだ。


 「侵攻期間が大きく異なるが、侵攻ルートは同じって事か」

 「アキト殿がエイダス島に重きを置く理由もこれにあるな」


 「侵攻は必然のようです。ですが、これほど侵攻時期に幅があると、作戦の立てようもありません」

 「それは準備期間であって、作戦には影響せぬと思うぞ。いずれ来るなら、その作戦はあるべきだ。問題はこの襲来時期にエイダスの他の国がどうなっているかによる」


 それもそうだ。

 基本的な作戦は立てておくべきだろうな。その変数は敵の侵攻時期のエイダス島の状況と敵の侵攻勢力で変わると思えば良いだろう。

 だが、エイダス島の情勢は流動的だ。どこまで考えれば良いのか判断に困るな。

 敵の侵攻時期は最悪を想定すれば良いだろう。つまり、3年後に最初の接触が始まるという事だな。


 3年後の情勢は現在の状況から類推出来るだろう。それを元に10年後を想定しておけば良いのだろうが、俺達の版図に築いた防壁を評価することになりそうだな。

 防衛部隊の展開もそれに合わせて行なえば良い筈だ。


 「閃いたのか?」

 「閃いたというよりは、確かにエイダスの状況を常時確認する事が大事なようです。速ければ3年後に悪魔の連中が現れるなら、その時に接触するのは侵攻勢力でしょう。となれば、レムナム王国がそのチャンスを見逃すとは思えません。レムナムが動けばサンドミナスが動きます」


 「防壁の完成には、まだ1年は掛かるだろう。ラクトー山の峠に作った航空基地は完成したようだが、連合王国からの進駐はまだだ。東の隠匿港の状況は分らんが、港からの地下道は順調に湖に伸びているぞ」

 「ヘイムダルは仕上げに入っている。まさかあの地下に砦があるとは思えん筈だ。バンカーも完成して、鉄の扉が入口を閉じている。強いて言えば、パリム湖までの地下道が工事中だが、これも先が見えてきたな。そして、2個小隊を援軍としてこの地に残してくれるらしい。そのまま、ヘイムダルと峠の航空基地『ガルトス』に駐屯させるとユング殿が話してくれた」


 明人さんが育てた戦闘工兵を2個小隊か……。ありがたい話だ。

 武器の操作に精通しているし、士気も高いと聞いている。ガルパスを使った機動攻撃を得意とすると言っていたからな。

 

 「となると、ガルトスを補給基地とした猟兵部隊の運用も楽になりますね」

 「レムナスという人間族のハンターがその任を引き受けてくれた。レムナム王国や旧ボルテム王国から脱出したハンターを纏めている。総勢で50人程の部隊だ」

 

 破壊されたラクト村には昔から住んでいた農民達が戻っているそうだ。

 レムナスさん達はラクト村を拠点に、ハンター達を入れ替えながら山麓からの侵攻を監視しているみたいだな。


 「イザとなれば、増援可能なハンターを用意しておく事も大事ですよ。1個小隊ほどでは抜かれる恐れがあります」

 「それは考えている。ネコ族のハンターが常時迷宮にいるわけではない」


 やはり、敵の侵攻は3年後に最初の接触と想定しておくべきだろう。

 このファイルがあったという事は、かなり信憑性が高いという事だろう。連合王国が西の阻止線をあれ程急いで作るのも、このシュミレーションの結果を重視しているに違いない。


 「それで、正規軍をどう配置するのだ?」

 「今のままで良いでしょう。先ずは阻止線になる石の城壁を作るのが先行です。それが終れば、近くの村の開拓に励みながら敵を待つことになります。速ければ3年、遅くとも俺達が存命中に何らかの接触がある筈です」


 2人が頷いたところで、通信兵にお茶を出して貰う。

 2人が揃ってやってきたのは、今後に不安を覚えたんだろう。敵が何時頃やってくるかがおおよそ判れば安心できるものだ。


 お茶を飲みながら、タバコに火を点ける。そんな俺を見て2人もパイプに火を点けた。

 

 「話は変わるが、だいぶ王都の準備も出来てきたぞ。まぁ、準備と言っても王宮の飾り付けぐらいなものだがな」

 「あまり派手なのも……」


 「派手ではない。至って簡素だ。式に参列するのは長老と、仕官そして連合王国からの客人のみだ。この状態ではエイダスの他の王国は参列出来まい。それに、暗殺の可能性もある」

 

 前例もあるからな。ここは身内でやるのが良いのかも知れない。

 パラム王国連中に祝って貰えれば十分だからな。


 「まあ、これでパラム王国も安泰だ。他国からの侵略を跳ね返すだけの城壁も出来つつある。そこに1個大隊が十分だろう」

 「現在はそうですが、将来的には増やさねばなりません。西に2個大隊南に1個大隊そして屯田兵が2個中隊は欲しいです。出来れば即応部隊を王都に2個中隊……」


 とはいえ、国力が伴わない。農業はこれからだし、畜産も少し目途が立ってきたところだ。魔石貿易で食料と武器を調達しているが、それが何時まで続くかも問題だな。

 いずれは魔石を必要としない時代が来る筈だ。それがどんなタイミングで訪れるかは予想できないが、早めに脱却しておく方が良いんじゃないかな。

 先ずは一次産業から初めて二次産業に移行することを考えよう。ネコ族ならではの加工技術を探せれば良いんだけどね。

 

 「連合王国からの移住者に屯田兵が多いのが助かる話だ。北の守りは屯田兵に頑張って貰うつもりだ。だが、2個中隊の即応部隊はこれからだな。新たに募集して訓練せねばなるまい」

 「俺達の部隊から1個小隊ずつ抜き出して訓練に当れば良いだろうが、1年以上掛かるぞ」


 「それでも、その部隊がいるのといないのでは作戦に差が出ます。王都の守りは例の部隊に任せられますし」

 「そうだな。ユング殿が作ってくれた部隊だ。確か、正規軍ではない部隊との戦闘を想定していると言ってたな」


 カウンターテロお目的とした部隊だからな。平時は王都の治安維持をしてもらおう。

 

 「ああ、その辺は任せておけ。それでだ。今日俺達が来た目的だが……。レムルなにが欲しい?」

 「欲しい物って?」


 「祝いだ。俺もエクレムも世話になっている。今すぐでなくとも良いが、言ってくれればそれを贈るぞ」


 急に言われてもなぁ……。

 ここは、エルちゃんと良く相談してみるか。

 

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