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第一章・二篇「退屈な御伽話」

 「………」


ドアを開けてロディスは何度か部屋を見渡したが、幸いなことに血は一滴も流されてはいなかった。


ただ、死体はある。


驚愕に目を見開いたまま、胴体を横薙ぎに両断されて転がる男が二人。


「…………」


何故か出血は無い。


よく見れば傷口の部分が焦げている。


「ふん…」


なるほど、と感心しつつ自分のデスクに向かう為に死体を跨ぐ。


「お帰りなさいませ」


ロディスが革張りの椅子に深々と腰を下ろした瞬間、卓上に置かれる紅茶。


チラリと脇を見ると何時の間にか傍らに佇む、給仕服の上から軍服の上着を羽織った眉目秀麗な女性。


腰まである透き通った青い髪、鮮やかな紫色の瞳、容姿や佇まいの全てが御伽噺の住人を思わせるこの女性はシェニス・アルバートン。


ロディスの補佐から身の回りの世話までを一手に引き受ける給仕兼部下である。


「この二人はどうしたんだ?」


客人用のソファーと長机との間に横たわる二人を細めた目で見つめる。


「一人は私が、もう一人はヴァルク様が処分されました」


「ほう…お前が?」


少々驚きの混じった目でシェニスを見上げる。


「珍しいな?」


「無理に迫ってこられたので」


平然と口にするシェニスの目に感情の色は無い。


「なるほどな…部屋が汚れてない訳だ」


先程と同じ意味合いで呟く。


「あの馬鹿に切断面を焼き切るよう言ってくれたのだろう?」


「はい。以前、デスクが汚れたと嘆いておられたので」


書類に手を伸ばしながら「いい判断だ」と簡単に賛辞を送っておく。


「恐れ入ります」


軽く頭を下げ、いつでも主人の世話を焼く事が出来るように一歩引いた所で待機するシェニス。


「………」


「…………」


しばらくはお互いに無言。


何も言わなければ人形のように何時までも直立不動で佇んでいる。


実際シェニスには感情が無いのだから当然の事であって、今さら気にすることでもない。


静寂に満たされた部屋に書類を捲る乾いた音だけが響く。


最初はこの静寂に居心地の悪さを感じていた。


戦場にいた時期は常に聴覚を刺激する物が存在し、その上で耳を澄まさなければ危険な時もあった。


そして何時の間にか常に鼓膜を音が震わせる毎日が日常になっていた。


今の地位に半ば無理矢理座らされてからしばらくは、気が狂いそうだったのを覚えている。


聞こえるのは自分とシェニスの呼吸音だけ。


「はぁ…」


だが、もう慣れた。


戦場が懐かしくないと言えば嘘になる。


しかし、今の静かな日常も悪くはない。


「ロディス様?」


感傷に浸る主人にシェニスは怪訝そうな声を掛ける。


「…あの馬鹿は…何処へ?」


問いかけを無視し、当然のように問いかけを重ねる。


そしてシェニスも当然のようにその問いに答えた。


「民間からの依頼を受けてくると…」


「そうか。」


最後まで聞かずに返事を返す。


珍しく感傷に浸ってしまった事への一種の照れ隠しでもあった。


「明日には戻るそうです。」


返事は無いと分かっていながら付け加え、期待に沿うかのようにロディスも返事を返さない。


「紅茶、もう一杯頼む。」


代わりにと空になったカップを脇に置く。


「かしこまりました。」


流れるような動作で給湯室に入っていくシェニスを眺めながら呟いた。


「ヴァルク…さっさと済ませろよ…」


シェニスが嫌いな訳ではないが、退屈なのに変わりはない。


「…………」


どうやって暇を潰そうか考えながら、受話器を取る。


そして死体処理の為の人手を寄越すよう、ジェンスに連絡を入れるのだった。


______________続く


各話が短い…な

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