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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第44話

 朝になり、身支度を終え朝食を食べた後、俺は家を収納して出発した。守衛になるゴーレムをあとひとつかふたつ作ろうかとも思ったが、シンダリンタルの鉱脈を採掘したときに河原の石をほぼ使い切ってしまった。まずは手ごろな石の補給から始めなければならなかった。


 石と一口に言っても好みの大きさや強度にこだわると、ありそうでいて実際にはなかなかない。

 川を山へ向かって飛び続けていると細かい砂地のあるゆるい流れの川が趣を変え、ごつごつした岩が両岸に見られる景色に変わってきた。少しずつ流れも速くなってきており、川幅も少し狭くなってきた。


「この辺り、いい石が転がっている」

 俺が探していた理想の河原にたどり着いた。人や品物を載せた舟は川の中央を行き来しており、浅瀬になった河原周辺には誰もいない。


 念のため、隠密モードで河原に降りる。目についた石を収納していくが時々出来ないことがある。そういう時はたいてい小さなカニや石に張り付くタイプの生き物が邪魔をしている。

 ごっそり、一気に収納できないもどかしさを感じつつ、根気よく石を収納していく。


 ふと、意識を川へやるとちょうど運搬船が通り過ぎていくところだった。遠目スキルを使うことで積み荷や乗っている人の顔を判別することが出来る。


 …あ。どこかで見たことのある顔だと思って、思い出した。

 【フクロウの止まり木】の食堂で、相席をしてくれた冒険者さんたちだ。確か名前は…あれ、出てこない。漫才をしているみたいに会話が楽しい人達だったんだけど……


 うーん…ウーンと記憶を探っていると、3人組のうちの一人が川に向かってウォーターボールやアイスバレットの魔法を放った。

 勢いよく水飛沫が上がる。何しているんだろう? と思ったところで舟の周囲に赤い光点があることに気が付いた。水棲の魔物に取り囲まれているのか。


 3人の男たちは前方、左右それぞれに陣取り、次々と水魔法を放つ。全員が水魔法を使えるらしい。やがて赤い光点が散り散りに広がり、魔物は逃げていった。討伐したというより、脅して脅威を取り除いたという感じだな。

 冒険者といっても毎回討伐するとは限らないのか。それとも、相手が水の中だから追い払うしかできないとか?


「どうなんだろ」

 魔物に囲まれるのは慣れているのか、舟は全く速度を変えずに進んでいく。完全に舟の姿が見えなくなってから、俺はフローティングボードで現場の水面1メートル上まで近寄ってみた。


「来た…」

 フローティングボードの影が水面に落ちていることに気が付いたのか、魔物が反応した。川の中から、小さかった影が次第に大きくなって近寄ってくる。


「ワニ、かな?」

 頭の形や体のシルエットからそうと予測した。すぐ近くの赤い光点がぐわっと大きく膨らんだ。俺はびっくりすると同時に慌てて浮上した。


「………」

 ばくっと足に噛り付かれる寸前だった。間一髪で難を逃れた俺は、地図スキルさんに心の中でお礼を言った。


<ありがとうね、助かったよ>


 ワニってすごいジャンプをするんだな。まさか水の中から空中高く飛び出してくるとは思わなかった。


 高度を上げると、水面に影が落ちなくなったのか、水の上に顔の一部を出したワニもどきは俺に気が付かずに静かに泳いでいる。


 確か、ワニの肉って鶏肉みたいで美味しいって聞いたけど…


 陰竜と比べるのもおかしな話だが、超小型の恐竜みたいと思えばそんな感じがしてくるから不思議だ。ワニで解体の練習でもしてみるか。サーベルタイガーやダイアウルフ、大鹿でもちょっとしり込みしてしまうが、なぜかワニだと解体できる気がしてきた。


 地図スキルで確認すると五キロ圏内に1艘、三キロ圏内に2艘の舟がいる。魔法を使うかどうか少し迷ってから、いつもの石落下で仕留めることにした。


 無警戒で頭を出して泳ぐワニ。ステルスモードで追跡し、フローティングボードの上から狙いをつける。タイミングを計り石を落としてみれば、思いがけないほど巨大な体がぷかりと浮かんできて驚いた。

 アイテムボックスに収納出来ないから気絶しているだけらしい。仕方なく水魔法で肺に水を入れると、回収できた。急いで現場から離れる。


「そろそろ解体を覚えなきゃなー」

 長旅をしていて、食料を現地調達できない…というのは不思議がられる気がする。30ではなく120のマジックバック待ちだとばらしても大丈夫な状況なら、街から街への移動中を賄う食料を持ち歩いていても不思議ではないだろうけど…。


 それに、今後冒険者ギルドにも登録してみようと思っている。その時に解体できないと困らないだろうか。

 ひとりでいる時なら毎回出来立ての料理をマジックバッグから取り出せばいいだけなんだけど…生きていくスキル、というのかな。解体を余裕でこなせるようになった方が、ここで生きていく覚悟が出来た、という気がする。



  *



 俺はレルナ領へは向かわないことにした。セルネージュ川から離れ、エントローペ山を超えることもなくリーエルへと向かう東側へ向かう。

 

 そしてエントローペ山に連なる山々のうちの大きな森の中に、錬金術師さんの家を設置した。

 森の中に偶然開けた場所があったのだ。雷でも落ちたのか、焼け焦げた木々が何本も周囲に積み重なっている。中心から百メートルほど…つまり端から端までだと2百メートルほどの地面が草しか茂っていないのだ。これはもう、理想の空間だ。


 空き地に生い茂っていた草はアイスカッターで刈り取り、将来のための堆肥にする。一部炭化した状態で燃え残っていた木々は薪にして、家の裏手の薪置き場に積んだ。この薪にする時もアイスカッターが活躍した。斧で地道にカットすることも選択肢にあった。斧を振って体を動かすか、魔力の鍛錬の一環でアイスカッターを使うか。迷った結果俺が選んだのは魔法の方だ。なぜなら炭化した木を手で触りたくなかったから。洗浄スキルがあっても、わざわざ手を汚すことはしたくなかったのだ。


 土魔法があれば庭の一部を耕して簡単に畑に出来そうだったが、どうやれば習得できるか分からない。仕方なく庭作りは諦めた。他にもやりたいことはいっぱいあるから、手が回らなさそうだと思ったことも確かだ。


 大きな森を抜けた先には村もある。だが、村人がこの森の奥まで来ることは多分、ない。なぜなら途中に深い谷があるし、その谷を超えるために崖を上るような危険なことをする者はまずいないだろうとのことだ。地図スキルさんが教えてくれた。


 ハイセイの街で買いこんできた食材で料理をしたり、発掘した銀でアクセサリーを作ったり、採取した花や木などから香油を作ったり、ポーションを作ったりと…作りたいものはいっぱいあったし、錬金術師さんの本もまだまだ読んでいないものが多い。しばらくは自分の好きなように好きなペースでのんびりすることにした。


 山の中の生活で心配なのは、山に隠れ住む山賊と魔物や獣たちのことだ。だが山賊や魔物はどこの山にもいると思った方がいい…と思う。


 錬金術師さんの家には防犯機能が備わっていて、離れたところからは家があるようには見えない。そして近づいたことによって存在を知られても、結界のように家周辺が守られていて中には入れないようになっている。


 これでもう充分な気もするが、念には念を入れてミストウォールの魔道具を設置した。家周辺5キロ以内に足を踏み入れると、ところどころに設置した魔道具が霧を発生させる。

 これで方向を見失い迷いやすくなる。家から離れるように風の流れを作る魔道具も設置してあるから、無意識に霧の薄い方へ誘導されるはずだ。


 俺自身が家から遠くまで離れた後戻ってきても、霧は発生する。でも俺には地図スキルがあるから絶対に迷うことはない。


 …そうそう。山賊対策になっているかどうか分からないが、毎日4回使える召喚スキルの使い道として【召】を2、3回使うようにしている。


 ただでモノを奪ってしまうスキルだと気がついてからは遠慮しようという気になっていたのだが、世界基本知識さんにアドバイスされた逆転の発想に目からうろこが落ちた。


 悪い山賊が隠し持っている武器を10本、【召】! と願えば、剣やら斧やらが10本奪える。


 そう、奪うのだ。悪いことに使えないように奪ってしまうのは悪いことじゃないのではないかと、奪う目的でスキルを使った。


 10本と数を限定したのは、いきなり大量に表れたらこちらも困るからだ。奪って手に入れた武器は、安物はすぐに溶かして材料に変えた。そこそこ良さそうなものは売る伝手が出来たら売ってお金に変え、いいことに使いたいと思っている。


 今まさに悪いことをしようとしている山族から、武器を20本、【召】!


 そう言ったすぐ後に現れた武器のうち半分くらいに血糊がついていてゾッとしたこともある。だが、今まさに命の危険があった人を守れたかもしれないと気がついてからは、毎日最低1回は山賊や海賊から武器を取り上げることを続けている。


 泥棒はいけないと思うけど、悪いことをする人が困ればいいと俺は思ってる。




 森での生活はのんびり過ぎていく。


 守衛ゴーレムのマモルは4体に増えた。マモル以外の名前を付けてやろうかとも思ったが、見分けがつかなかったのでやめた。デザインを変えればいいのだろうが、侵入者対策としては4体ではなく1体しかいないように思わせて混乱させる方がいいかなと思ってやめた。


 代わりに、というか…飛行機タイプのゴーレムに名前を付けた。カケルだ。漢字で書くと『翔る』だ。空を飛ぶタイプは1体だけだ。スプリガンの追加補給のめどが立たない現状では、無駄遣いは出来ない。


 ところで…ワニは無事解体できた。解体スキルがうまく働いてくれたのか、それとも忌避感が少なそうだと思ったのがアタリだったのか…思ったより難しくなかった。

 ワニの肉もアタリで、串焼きにして食べてみたら美味しかった。フローティングボードで追加の狩りに行き、ワニ肉のストックも増やしてある。


 この世界では鰐皮の財布はないから、ただの在庫として保管している。カバンにするには派手すぎるし、靴はウサギ、カエル、牛、山羊などで作り冬用ブーツの内側は羊を内張りするらしいから使えない。


 そうそう、靴職人さんのところに残されていた道具で試してみたら、皮製品作成スキルが手に入ったから、自分でも靴が作れるようになった。

 このスキルを使うと皮の鞣し加工までできるようになったから制作作業のひとつに含まれていたと思う。


 多分…作ろうと思えば、スニーカーっぽいデザインの革靴も作れると思う。でもそんな変わったデザインの靴は一般向けに販売出来ないから、当分作る予定はない。せいぜい売り物にするのはベルトや手袋などの革製の小物ぐらいだと思う。


「食料にも困っていないし、買い物したいものも特にはない。だけど、そろそろどこかの街へ行ってみようかな」


 ハイセイの街でにぎやかに過ごした毎日が人恋しさを忘れさせてくれたのは3週間ほどだった。

 心の赴くままにモノづくりをしたり、読書をしたり、森の中で採集を楽しんだり…充実した日々だとは思うのだが、一人になるとまた独り言が増えた。


<この近くにある一番大きな街は?>


※セルセラという10万人街になります。鍛冶職人が多く集まると同時に冒険者も多い街とも言われています。


 鍛冶と冒険者の街! いいね。すごく異世界っぽいよ!


※スリナローペ山をはじめとするこの一帯の大山脈周辺は鉱山が多く銅、錫、鉄、銀が今も採掘されています。険しい山脈が三方を取り囲む盆地にセルセラの街はあり、盆地中央を貫く大河のクリナード川は海まで続き、河口にある港町リノアドは周辺港の中継地として栄えています。


 港町リノアドはハイセイの領主様も言ってた港町だな。この港からなら王都への定期航路便があるらしい。


※セルセラの街周辺にも5万人が住む街が2つ、3万人が住む町が3つ、1万人が住む町は5つあります。


 そんなにいっぱい街があるんだ。それ全部セルセラの街の衛星都市?


※いえ、違います。男爵家2つと子爵家3つ、伯爵家1つがそれぞれ分割支配しています。鉱山の山を含む利権がこの地の支配地域を複雑化しているようです。


「あーなるほど…」

 銀山を男爵が所有していて、銅山を伯爵が所有しているなんてありえないものな。銀山は伯爵の所領になっているだろう。そうでないと不自然だ。


 地図スキルさんにざっくりとした全体図を見せてもらい、大体の位置関係などを理解する。境界線がややこしいところもある。


 あー。戦国時代なら。この辺が合戦場になっていても不思議はない。甲斐の虎、越後の竜とか…宿命の名武将といわれる人がいたりして…。


 さて、どうするか。どの街へ行こうか。


えーと…ここから一番近いのは…と、地図スキルを見ながら考える。

「一万人が住むミィセーレ、か。この町にしかないものってある? あるいは見どころとか…」


※ハロセン男爵の領地のひとつですが…特にありません。お勧めはカディルナ伯爵の領都であるセルセラの街です。最も多くの鍛冶職人が住み、冒険者ギルドも大きいです。


「なるほど…。やっぱ、最大都市を見にいくかな」


 となると、そこで冒険者登録するか…。それともセルセラでは鍛冶スキルを利用して商売をしてみてもいい。鍛冶ギルドという組織があればそこも見ておきたい。


※鍛冶ギルドはありませんが、鍛冶師組合はあります。商業ギルドや冒険者ギルドのような広域的な組合運営はされておらず、活動範囲は限定的ではありますが組合自体の歴史は古く、勢力的には無視できない組織です。


 なるほど…鍛冶師組合に入るのに難しい資格とか、ある?


※ありません。ただ、地域によって一定の審査基準はあるようです。


 審査というと…作った製品を品評されたりするのかな?


「…………」

 世界基本知識さんの返事がないという事は、審査基準の詳細は分からないという事なのだろう。知識は知識として保有していても、その地に住む人によって時代とともに変化する事象は多い。


「行ってみるか、セルセラの街に」


 ちょうど、商材にしようと思って作ったあれこれもある。まずは街の中をあちこち観察して、それからセルセラの街にどのぐらい滞在するかと、街にいる間どうするかを決めよう。現地に行ってみないと分からないからこそ、旅は楽しい。楽しめる。




 第1部 完

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