1、転生先は
ほんへ
お腹がぐうと鳴ると同時に俺は目を覚ました。頭痛も何も無い、清々しい朝だ。日の光はまだ見えないが、その洞窟から見える空は赤くなっていた。
「……腹減った」
立ち上がり、その洞窟の中にある樽のようなものから肉を取り出し、食べた。
生肉だが、今の体じゃあどうってことない。逆に焼いたらうまく感じなくなってしまう。
それが、ドラゴンってものだ。
「懐かしい夢を見た気がする。」
そう、俺はその懐かしい夢を夢としか認識できないほど、ドラゴンとしての生活を満喫してしまっていた。
俺は、どうやらドラゴンに転生したらしい。
それも、首が長いものではなく、腕と足が他のドラゴンよりも長い、立った犬のようなドラゴンであった。いわゆる、地竜だ。
*
時は冬に遡る。今は夏なので、たぶんちょうど半年後だろう。
「ん……んな、なんだ?」
俺は目が覚めると、暗く硬い何かの中に埋まっていた。
痛みも何もなく、ただ体育座りの姿勢でその硬い何かの中に収まっているのだ。窮屈すぎてお腹が潰れそうだ。少しでも足を動かすことができれば、と俺は頑張って足を伸ばす方向に力を入れた。するとどうだろう、硬いなにかにヒビが入り、そのまま足が前に勢いよく出た。
そのまま硬い何かに俺が通れるくらいの穴を作り、そこから飛び出し、尻もちをついた。
「うわぁっ!?っと……やっと出れた、あんなところに閉じ込められて、どうなることかとヴァっ……」
俺は安堵しておでこを触ろうと手を上げようとすると、俺の顎がそれを邪魔した。そのせいで舌を噛んでしまい、激しい痛みが走る。
再度顎に気をつけて遠回りをし正面に腕を回すと、その瞬間俺の手が見え、思わず止めてしまった。
その手の形は、明らかに人間のものではなく、なんと3本しか指のない尖った手であった。その手は自分のものではないと一瞬錯覚したが、試しに手を開け閉めすると、その尖った手が動いた。どうやら本当に自分の手らしい。
「えっ……え?」
戸惑いは収まらず、次に両手を出すと顔をペタペタと触った。
その触った顔は、ゴツゴツしている鱗で覆われていて、鼻も長いし口も大きく開くことができる。最大70度くらいまで開くことができ、口角にはなにか膜のようなものがついている。頭の上には大きな耳がついており、そこだけもふもふな毛で覆われていた。
つぎに体に手を回していくと、これまたゴツゴツな鱗で覆われていて、それが首から流れていっているようだった。そのまま足に繋がっていくと、それはまるで馬や犬のような2重に折れ曲がった足、いわゆる獣足になっていることに気がついてしまった。
折れてないか心配で触っても何も無い、つまりこれが正常だということだ。
早々に俺は地面に伏せ、丸くなり一旦現実を回避することにした。
「いったいこれは、俺……なのか?」
現実を見ても、現実とは信じられない。そんなもどかしさを感じて、一旦画面を閉じて整理しよう。
まず俺は、確か死亡したはずで、なぜかその後に俺はまた生きていて、気がついたらこの姿になっていたと。うむ良くわからん。まったく意味がわからん!
人間体と構造は似ているものの、なんでこんな身体になってしまったのだろうか?
せめて人から人に転生したかった。そうしたら生活も雰囲気も同じで色々と楽なのに。
考えれば考えるほど嫌気が刺しながらも、俺は仕方なく顔を上げまぶしい光の中、目を開けた。
しかもここは森の中、確実に俺は放置子であった。周りには驚く程静かな美しい森が広がっている。こんなのどかな自然を全身で感じたのは記憶上今まで何回あっただろうか。幼少期も含めても10回もなかった気がする。
後ろを振り返ると、俺がでてきたであろう卵の殻があった。
でかい。ダチョウの卵より3まわしほど大きいように見える。俺はそれをつまんで持ってみると、すぐに割れて欠片が取れた。煎餅みたいにパリッときれいに三角形に割れたそれは、ざらざらとしている。
とりあえずこれどうしようか……。
と俺は悩んだ。
悩みに悩んだ末、前世での記憶だが、自分の殻を食べて栄養を蓄える生物もいるので、それを真似してみようということになった。この世界じゃあ食料も狩りをしないとまともに生きていけないであろう。
それに見れば見るほど美味しそうに思えてくる。
俺はその手に持っていた破片を口に含んで転がし、噛んだ。
もちろん味はない。卵の殻そのままらしい、味のないガムのような質素な味だ。だがそれでも大切な栄養分なので、がんばって味のない殻を食べる。口の中には噛めば噛むほど水分が取られ、つばが出てくる。それに段々と苦くなって来ていて最悪の味がする。
「苦い……」
なんとかすべてを食べて、お腹がいっぱいになった。結構な量を食べたので腹がはち切れそうだ。俺はその場に座り込み、お腹をさすって消化を促した。ポンポンと叩くと胃の中のものが動き回り、それがまたお腹を刺激する。吐きそうになりながらもその後すぐに収まり、すぐお腹の下に入っていった。
「うぷ……こんなにあるとは……」
俺のお腹の容量も少ないのもあるのだろうが、まるで大盛りご飯を無理やり食べた気分だった。
だが消化されていく毎に、体の内側から熱くなってくる。そしてエネルギーが中から沸き出てくる。そのうち有り余るほどの元気が出てきた。今なら何でもできそうだ。
走りたい欲求が強くなり、俺はどこかへと走っていく。まるで熱のように体が熱くなっているが、だるさがないのがとても面白い。風を切るのが涼しく、とても楽しい。




