2、知らぬが仏 兎
だがいつまでも走っていると、どこからか兎が森の奥から出てきて俺に警戒するようにシャーッ!と鳴いてきた。
「うわっ、わっ、わーっ!?」
俺は戦ったことがないため、出てきた瞬間走るのをやめようと減速した。
だが足が走るのに体が慣れてなく、なかなか止まらなくなってしまった。そのまま兎に突っ込むと、ぐしゃりと音がして血のような青い液体が俺の体全体に広くついてきてしまった。その血のおかげで摩擦が増えなんとか止まることができ、目の前にあった木にぶつからずに済んだ。
通過したときに硬くコリコリしたものを踏み潰した感触が強く記憶に残っている。きっとそれは兎の骨と肉を踏んだからだろう。
思っているより殺したという感触はなく、それよりも悪いものを潰したような快感のほうが強かった。内心自分のことを少し疑ったが、きっとこれがモンスターの心というやつなのだろうと思った。
「でもちょっとグロいな……」
さすがにぐちゃぐちゃな死体を見るのはほぼ初めてなため、吐き気が込み上げてきた。
俺はそのままその場から離れた。うさぎの死体は腐った臭いを放ち、ハエが飛んでいた。
ーーーーーー
うさぎはまた、考える。
僕は最強なのだ、と。
そう、僕は最強なのさ、群れの中でも軍を突出してイケメンで狩りも得意である僕は、最強なのだ!と思いながら鏡の前で自分の姿を舐め回すようにして見て、興奮していた。
「何してんだこのナルシスト」
「あ?なんだリーか」
彼、目にキズのついているパッと見歴戦の猛者のような風貌をしている白うさぎだが、心は豆腐メンタルで、すでにズタボロと同等であった。
かわいそうなやつだ。僕が保護していなければどうなっていたことか。
僕は彼にナルシストとしか呼ばれたことがないが、それが何かははっきりわかっていない。きっとイケメンの隠語だろう。
「俺は出かける。また人間に追突するなよ」
「は?何?僕が負けるわけないじゃない」
「逃げる技術だけはすごいと思う、うん」
「むっ……」
彼は僕のことをバカにしながらも、きっと心配してくれているのだ。
そうに決まっている。たぶん……おっと行けない、僕は最強だった。
「じゃあ行ってくる」
「今日は蛙がいいな」
「ん」
行く際に注文をすると、不機嫌そうに頷きながら去っていった。相変わらず愛想の悪いやつだ。
一方僕は今日は散歩をする日だ。
彼が人間に追突するなよと言ったのはそのためである。この間のは事故だったのに、まだ僕の不注意だと疑っているようだ。人間がぼくのオーラに気がつかなかったのが悪い!それまでの僕は人間はそういうのに敏感かと思っていた。
なにも身支度も毛繕いもしてないので、家から出るとボサボサの毛がだいぶ目立つ。それに今日は日差しがまぶしい。きっと春なのだろう。
「春~春~ピンクの春よ~」
鼻唄を歌い、ぴょんぴょんと跳び跳ねる。
春は僕にとって一番好きな季節だ。きれいなピンクの花が咲くし、他のモンスターもたくさんいて食べ物に恵まれやすい。
今回もまた、虫を見つけて食べた。口の中で噛むと栄養の味がする。まずいことはまずいが、美味しい虫は強いのだ。ハチとか刺されたら毒であっという間に死んでしまうだろう。
ふつうのうさぎならな。ただし僕は最強だから、毒がまわってもしなないけどな!
え?じゃあなんでハチの巣を襲撃にいかないかって?そりゃあ最強でも痛いものは痛いのだよピーターくん。って誰だよピーターって!
とか色々考えセルフ突っ込みをしながら木々を登る。木の上なら敵もそんなにいないし、そよ風が常に吹いていて心地よい。
だが、そこに天敵が現れた。
「ぴぃーっ!」という甲高い鳴き声が聞こえる。
「やっば!逃げないと!」
それは体長は僕の3倍ほどある、青い鱗が羽と頭についている水色の鳥だ。僕を見つけるないなや速攻飛びかかってきていた。
すでに目の前にいたその鳥を何とかしてかわして、地面に背中から落下してしまった。そのまま体をおもいっきり起こし、追いかけてくる鳥に取られないようジグザグに森の中を進んでいく。
「ぴぃーっ!」という鳥の鳴き声が近くで聞こえて、耳が破裂しそうな思いをしてもただ走る。
逃げなくちゃという本能に従い、ぴょんぴょん飛んでいく。だがいくら逃げてもこちらをついてくる。
今にも体をすくわれそうで、怖い。
僕はただ必死に逃げた。
そのせいか視界が狭くなっていた。
僕は疲れ果てて止まってしまうと、横から来た怪物にやられてしまった。




