閑話11 青葉昴・誕生日LINE③【青葉昴・朝陽志乃】
六月二十日。午前零時二十分頃にて。
朝陽志乃
『昴さん!』
青葉
『あれ、志乃ちゃん? 珍しいねこんな時間まで起きてるの』
朝陽志乃
『ごめんなさい』
青葉
『え、なんの話? どしたの』
朝陽志乃
『昴さん今日誕生日じゃないですか』
青葉
『あ、うんそうだな。実はそうなんだよ』
朝陽志乃
『だからごめんなさい』
青葉
『なんで俺謝られてるの? ひょっとして十七歳の誕生日と同時にヤバい真実でも聞かされるの?』
青葉
『ってのはまぁ冗談で。ホントにどしたの志乃ちゃん』
朝陽志乃
『本当は日付が変わった瞬間に昴さんに連絡しようと思ってて』
青葉
『うんうん』
朝陽志乃
『ベッドの上でスマホ握りしめて待機してたんです。すぐ送るぞ~って』
青葉
『なにそれ可愛い』
朝陽志乃
『でも気付いたら寝ちゃってました……もう私なにしてるの……!!!』
青葉
『あー志乃ちゃん普段は寝るの早いもんね。仕方ないよ。気持ちだけでも嬉しいからさ』
青葉
『それにその話聞いてほっこりしたわ』
朝陽志乃
『仕方なしじゃ許されないんですよー! も~!』
青葉
『お、おう? そうなの? なんか日向みたいなテンションになってるな志乃ちゃん』
青葉
『これは寝惚けてる可能性が大』
朝陽志乃
『まずですね!』
青葉
『あ、はい』
朝陽志乃
『当たり前ですけど誕生日って一年に一回なわけですよね?』
青葉
『うむうむ。そうだね』
朝陽志乃
『昴さんお友達が多いから連絡たくさん来るじゃないですか』
青葉
『たくさん来てないぞ。それこそ司たちとか会長さんとかだけで』
朝陽志乃
『でも来てるんですよね?』
青葉
『うむ。嬉しいことにな』
朝陽志乃
『悔しいです』
青葉
『ははーん?』
青葉
『さては志乃ちゃん、そこまで一番早く俺に連絡したかったんだな?』
青葉
『だけど寝落ちしちゃったうえにみんなに先を越されて悔しいと。ははーん?』
青葉
『なにそれ可愛い(二回目)』
朝陽志乃
『そうに決まってるから悔しいんです!』
青葉
『決まってた。ホントにそうだった』
朝陽志乃
『なんで起こしてくれなかったんですか昴さん~!』
青葉
『あれこれ俺のせいなの? やっぱ志乃ちゃん絶対テンションおかしくなってるよね?』
朝陽志乃
『ねむいです』
青葉
『知ってる。もう寝なよ。わざわざ起きててくれてありがとね』
朝陽志乃
『もうちょっとお話してたいです』
朝陽志乃
『みなさんばっかりお話できてずるいです』
青葉
『ちょっと司くんー? 妹さん寝かしてあげて~!?』
朝陽志乃
『なんでそういうこと言うんですか』
青葉
『これなに言っても文句言われるじゃん』
青葉
『あーそうだ志乃ちゃん。逆に考えてみなよ』
朝陽志乃
『と言いますと?』
青葉
『たしかに司たちや会長さんとは話したけど、今は志乃ちゃんとしか話してないのよ』
朝陽志乃
『はい』
青葉
『どうせ日向のヤツは寝てるだろうし。つまり!』
朝陽志乃
『つまり?』
青葉
『俺と最後に話したのは志乃ちゃんってわけ。つまりトーク画面の一番上は志乃ちゃんってわけだ!』
朝陽志乃
『!』
青葉
『つまり志乃ちゃんがナンバーワンだ。志乃ちゃんの勝ちってことだぜ』
朝陽志乃
『なるほど。じゃあ私はとくべつってことですか?』
青葉
『なにを意味する特別かは知らんけど、まぁそんな感じ。だから安心して寝なさいお嬢ちゃん』
朝陽志乃
『えへへ。とくべつ』
青葉
『なにこの可愛い生き物。でも朝起きて見返したら絶対頭抱えそう』
朝陽志乃
『?』
青葉
『いいのいいの。明日分かるから。ほらほら、よいこは寝る時間よ』
朝陽志乃
『はいねます』
青葉
『うむ。ありがとな、志乃ちゃん』
朝陽志乃
『おたんじょう日おめでとうございます』
朝陽志乃
『いちばんだいじなことを言うのわすれてました』
青葉
『サンキュ。おやすみ志乃ちゃん』
朝陽志乃
『おやすみなさい』
× × ×
いやーみんなわざわざ連絡を寄越してくれるなんて……優しいヤツらだねぇ。
司たちは……まぁちょっと違うけど。
とはいえ司の性格を考えたら、俺がなにも言わずともあのグループでさり気無く『おめでとう』と言ってくるに違いない。
……にしてもさっきの志乃ちゃん、可愛かったな。
眠気のせいで明らかにテンションおかしかったもんな。
絶対明日『私なに言ってるのおお!!』ってなるやつ。
その志乃ちゃん見てみたいぜ。
あとは……まぁ、日向くらいか。
アイツは部活で大変だから今頃爆睡してるんだろうなぁ。
……どうしよう。
いきなり電話かけて叩き起こしてやろうかな。
『おら! 誕生日だぞ祝え!』って起こしてやろうかな。
でもそんなことしたら一週間は口きいてくれないな。間違いなく。
――まぁ、とりあえず。
「おめーら、ありがとさんっと」
おかげでいい誕生日になったよ。
本当に。
俺にはもったいない。