魔王はいつもやりすぎる
奴隷と社畜って、まあ似たようなもんだと思うけどね、そもそも人じゃない扱いの奴隷と、一応人権はあることになってる社畜ってだいぶ違うよなあ、て改めて思う。社畜だなんだ言われてても、辞めようと思えば辞められるし。たまに本当に辞められないブラックがあるけど、そこは本気で奴隷扱いしてるので、さっさと労基に駆け込むか、夜逃げするか、警察に保護してもらうしかない。現代日本で、いまだに本気で人を奴隷扱いする奴が居るっていまいち信じて貰えないから、証拠挙げるの大変なんだよね。
なんてことを、奴隷に落ちた元同僚を見ながら、多分奴隷だぜ高く売れるぜとか叫んでる筈の異世界人の衛兵達を眺めながら、考えている。あと、反撃したら殺しそうなので、手を出しにくい。
助けて魔王様。うまい具合に落としどころ見つけてって意味だよ。
「しかたありませんね」
全然仕方なくない口調の、魔王様の声が辺りに響いた途端、ジェムジャラムリンも他の衛兵も、這いつくばる奴隷の日本人も全員、突然白目を剥いてぶっ倒れた。
青い空の下、種まき前の畑の前の土の道で、バタンバタンと倒れる衛兵達だ。頭から倒れた奴はビクンビクンと痙攣しはじめたがどうしようもない。本上さんが自分の手を見つめながら、言い訳するように言った。
「私達の怪力でいきなり殺すわけにもいかないからね」
「三十年くらい目覚めない呪いが森と町全体に降りかかりましたが、仕方ないですね」
「え」
いやいや死ぬじゃん。駄目じゃん。一撃で街ごと滅びちゃったよ。上手い具合に落としてって言ったのに。
「そうは言っても、一番頑張って抑えてもこれなのです。仕方ないのです」
「覚悟決めて怪力で対処した方がよかったか」
「まあ初めての異世界出張ですし、多少の失敗は上司がフォローして当然です」
「出張て」
「休日デートはどこへ行ったのよ魔王様」
ダベリつつ、奴隷落ちした元同僚の頭を軽く叩く魔王様だった。元同僚が少し呻いた気がした。
「駄目ですね。精神が壊れきっています」
「流石にちょっと、引いたからな」
「言語チートも無く転移、訪れた街がゴブリン奴隷狩りの街で、新種のゴブリンとされ捕縛。教育を受けようにもゴブリン語すら知らず、使えないと殺されるところ、見た目だけは他のゴブリンよりましなので、かけ合わせたら見た目よく高値で売れるゴブリンが生まれるかも、と種ゴブリンにされ、毎晩雌ゴブリンと同じ房に入れられ、昼は人間、夜は雌ゴブリンに苛められて、ついに心が死んでしまったようです」
「ひどいな」
日本での行いは酷かったが、異世界の扱いはそれを上回る酷さだった。流石に同情する。
「治るのかな」
「おとなしく治療を受ければあるいは。独房とか一人部屋とか、トラウマを刺激すると壊れます」
「ほぼ治療不可ってことかよ」
「ご実家でゆっくり療養するしかないと思いますが、日本帰ると逮捕されるのでしたっけ」
「アウトだよね、やっぱり」
三人でどうしたもんかと悩むこと暫し。遠くの方から悲鳴が聞こえた、気がした。魔王様がはた、と手を叩く。
「ゴブリンって魔族じゃないですか」
「知らんけど、そうなん?」
「そうなのです。そして私ってば愛の女神を名乗っておりますが、実は魔王じゃありませんか」
「ちゃーりー的な浜さんか?」
「誰もボケてないよ佐藤くん」
「つまり、私の呪いにレジストできる個体、というか私に帰依することを選び呪われなかったゴブリンですね、居るんじゃないでしょうか」
「ああ、レジストしたゴブリンの悲鳴」
なのか、とまで言おうとしたところで、どかああん、と遠くで何かが爆発する音がした。なんだか黒煙が見える。
「街の全員が突然倒れたわけですから、何かしら危険物を扱ってたりすると」
「ああなるわけね」
「呪いからの終末事象の連続」
「魔王ですから」
とりあえず起きなさそうな元同僚はここに寝かせていくことにして、俺達は悲鳴と黒煙が上がった、爆発音がきこえる方に駆け出した。




