決闘
僕はギルドの訓練場に立っていた。なぜならば些細な口喧嘩からアッシュと決闘することになったからだ。
他のメンバーは訓練場の隅っこで僕たちの方を見ている。
そこにはAランクパーティの黄昏の竜たちも居て、審判をネルシーがやってくれた。
「それじゃあ、始めるわよー。よーい、始めー!」
ネルシーの合図で、決闘が始まった。
片手に剣をもう片方に盾を持っているアッシュはその場で静観している。
「ほら、待っててやるから可能な限り龍を出してみろよ」
「じゃあ遠慮なく」
本当に遠慮なく僕は水龍、氷龍、灼龍を続々と足元から生み出していく。
その数はどんどん増えていき、訓練場の空を優雅に飛んでいる。
あっと言う間に五十を超えた。
「おいおい、まじかよ」
アッシュが焦ったような表情を見せる。
これ以上は増やすと勝ち目がなくなると判断したのか、
「悪いが俺にもプライドがあるんでね。負けるわけにはいかない」
そう言うと僕の方へ剣を掲げて向かって来る。
その前に水龍が立ちふさがる。
「邪魔だ!」
一閃、アッシュの剣が水龍を切り裂いた。
「甘いですよ」
だが水龍はすぐに傷がふさがり、あっという間に元通りになる。
雨粒一つ一つをコントロールする精度があるのだ。切り裂かれた水龍を元に戻すぐらい簡単な事だった。
元に戻った水龍が再びアッシュの前に立ちはだかった。
それを見たアッシュは再び剣を振るう。
しかし今度はやすやすと切り裂かせるわけにはいかない。
水龍の中に高速で流れる水流を作る。
アッシュの剣は激流と化した水龍にあっさりとはじかれた。
「なっ!?」
アッシュが驚きの表情を浮かべ、焦っている間にも水龍達は増えていく。
もう百匹を超えそうだ。
その時だ。
アッシュの前に立ちふさがっていた水龍があっさりと切り伏せられた。
「どうやらお前じゃ相手にならないようだな。面白そうだ。代われ」
水龍を切り裂いたのは僕の身の丈を超えるほどの大剣。
Aランクパーティ黄昏の竜のリーダー、バルサスの剣だった。
「アッシュの代わりに俺が相手だ」
「僕はバルサスさんと戦う理由がないんですけど? もう水龍達は百匹生み出しましたし」
「そういうな。お前が俺に一つでも傷を付けれたら今日の晩飯おごってやる」
「軽い決闘理由ですね。まぁ、いいですけど」
せっかく水龍達を百匹も生み出したんだパフォーマンスと行こうじゃないか。
なぁなぁでバルサスとの決闘になってしまったが、アッシュはすごすごと退散した。
悔しそうな目で僕を見ている。うむ、僕の言葉が嘘じゃないという事を認めさせる当初の目的は達成できたようだな。
「じゃあ、行きますよ」
籠手試しとばかりに水龍、氷龍、灼龍の三匹をバルサスに向けて襲わせる。
剣の間合いに入った瞬間、全匹がぶつ切りに切り裂かれた。
何とも素早い剣だ。僕の身の丈を超えるほどの大剣なのにどこからあんなスピードがでているのだろう。
だがぶつ切り程度じゃ簡単に水龍達は再生する。
「厄介だな。剣だと相性最悪って所か。まぁ、ただの剣ならな」
そう言った瞬間、バルサスの大剣がごうっという音ともに炎を纏った。
「ちょっとバルサス! Cランクの子相手に魔剣の能力使うつもり!?」
ネルシーが見かねた様子で声を上げた。
「分かってんだろ。こいつはCランクだが、実力はAランクに匹敵する。それに手加減するから問題ねぇよ。……たぶん」
最後はぼそっと呟いただけだったが、結構危ないこと言ってません?
でもそうすごすごと負けるわけにはいかない。僕にもプライドっていうものがある。
手加減してくれるのなら勝負位は勝たせてもらう。
三匹の龍をもう一回バルサスに向かわせる。
バルサスが炎纏った大剣を振るうとあっという間に三匹の竜は蒸発した。
だが、無意味だ。少し時間はかかるが、水蒸気レベルになっても再生は出来る。
十秒もすると目の前に三匹の竜が再生した。
それを見てバルサスは、ほうと声を上げる。
「蒸発させても再生すんのか、超厄介だな。だが再生すんのに十秒もかかるんだったら問題ねぇな」
十秒あったら問題ないと言うあたり、このバルサスという剣士はよっぽど強いらしい。あまり悠長なことをやってると、水龍達を全部切り裂いて十秒以内に僕の喉元に剣を突き立てそうだ。
一気に勝負を付ける。
僕は水龍、氷龍、灼龍を、二十匹づつ集める。
「いけっ! ブレスだ!」
まずは水龍のブレスをお見舞いする。ただの水のブレスだが、一点集中で発射される水は岩に穴を開ける。それが二十本だ。
バルサスは最低限のブレスを剣で切り裂くと、他は体術で回避した。そのまま前進してくる。
次は氷龍の氷のブレスだ。さすがに剣で切れるとは思っていないのか、魔剣の能力を使ってきた。
氷のブレスと纏った炎が相殺される。その隙にバルサスは前進してこっちに向かってきた。
そして灼龍の水蒸気ブレスだ。百度を超える水蒸気のブレスをさらに高温の炎でバルサスは防ぐ。
炎で切り裂き、ブレスの合間を縫ってバルサスがのしのしとこちらに来る。
ブレスじゃ歯が立たない。炎と水の相性は最悪だ。
どんな水も蒸発させられる。あっちが消せないほどの膨大な水を出してもいいが、ここは訓練所なのでそんなことは出来ない。
訓練所に影響を及ぼさないレベルの水では、まさに焼け石に水。すべて蒸発させられる。
「なら……」
全方位から水龍達を襲わせる。
逃げ場はない。
それをバルサスは地面に剣を突き立て、炎の竜巻を生み出すことですべて蒸発させた。
うむ、さらには炎の竜巻をこちらに向けて放ってきた。
さすがにこれは水龍達ではどうしようもできない。
僕は同じ規模の水の竜巻を発生させて、炎と水を相殺させる。
大量の水が蒸発し、辺りが蒸し風呂状態になった。
そして竜巻の隙を突いてバルサスが目の前まで来ていた。
バルサスが僕の喉に向かって剣を振りかぶる。
しかし、バルサスは剣を振りかぶったところでその剣を止める。
「ふう、何とか間に合った」
「やられたな。まさか俺の汗を操るとは」
そう僕は何度も炎を使い、蒸し風呂状態で汗をかいたバルサスさんの頬を使っていた汗を操り、かすり傷を済んでのところで負わせた。
傷とも言えないような、小さな傷だが、傷は傷だ。
バルサスさんは素直に負けを認めた。
「まさか条件付きとはいえ、バルサスが負けるなんてねー。驚きだわ」
審判をしていたネルシーが言う。
「まったくだ、よくあのバトルジャンキーに勝てたな」
レガントはバトルジャンキーと言ったが僕も同じ印象を受けた。
普段は仏頂面なバルサスが、僕と戦っている間は獣の様な笑みを浮かべていたからだ。
本気で戦ってたらどうなっていたんだろう。
僕だって負けるつもりはないが、状況によってはやばいかもしれない。
アッシュやフォンス達の驚愕の表情を尻目に、決闘は終わった。
最初は水龍達を百匹見せるだけのつもりだったのに、どうしてこうなった。
まぁ、晩御飯が代が浮いたから良しとしよう。
その夜。
なぜか、黄昏の竜がギルドにいた全員の晩御飯を驕っていた。
「今日は俺の驕りだ。好きなだけ、食って飲め!」
なんてバルサスが言っていた。
僕もその恩恵にあずかり、普段は頼まない高めのご飯をギルドの食堂で食べる。
そしてなぜか戦いの後に懐いたアッシュに僕は絡み酒をされていた。
「おうおう、主役のアリアは酒を飲まねぇのか。こんなに飲める機会なんてそうそうないぞ」
「僕はお酒の飲んだことないんですよね。大丈夫でしょうか」
「大丈夫大丈夫、慣れれば何てことないぜ」
そう言って葡萄酒を飲むアッシュはやけに僕に絡んでくる。
僕は前世でもお酒を飲んだことはない。今日初めてお酒を飲むわけだ。
初めて飲んだ葡萄酒はフルーティーで美味しかった。
その後、アッシュに一緒に寝ようぜ、なんて夜の営みを誘われた。
僕はアッシュをしばき倒し、僕は男だと宣言しておいた。
アリア「アッシュ君ではかませにもならなかったのです」