後始末
決着は着いた。
審判により、雨の魔法使いの勝利という裁定が下され、その場はお開きとなった。
翌日、僕がギルド西支部でお昼ご飯を食べていると、マゼロとその一行がギルドにやってきた。
「率直に言おう。お抱えの魔法使いになる気はないか?」
出会った一言目がこれである。
「ありません」
「どうしてもか?」
「どうしてもです。僕は今の気軽な冒険者生活が気に入っているんです。今のところどこかのお抱えになるつもりはありません」
「そうか、だがこっちはいつでもお前を受け入れる準備が出来ていると伝えておこう。今回は妾に出来なかったが、次の機会には必ず妾にして見せるさ」
「マゼロ様、僕は男ですよ」
「俺は自分で見たものしか信じぬ」
「そうですか」
「では、さらばだ。雨の魔法使いよ」
こんなやり取りがあって、ギルド西支部は盛り上がった。
マゼロとのやり取りで僕は一つ思い出したことがある。
「そう言えば賭け金を受け取っていませんね。僕としたことが忘れていました」
いつもの受付のお姉さんにそのことを伝えると、二階に案内された。
そこで待っているとスキンヘッドのおじさんがやって来た。
あの時賭け屋の売り子をしていたおじさんである。
「おう、嬢ちゃん。まさか本当に勝っちまうとはな。予想外だよ」
「僕は男です。それで僕は白金貨十枚賭けたんで、白金貨百三十枚貰えるはずですよね」
「ああ、その通りだ。おかげでギルドは今回の事で儲けるどころか財政が傾きそうになったよ。マゼロ様が白金貨三十枚賭けてなきゃ危ないところだったな」
「へぇ、そんなことしてたんですね。マゼロ様」
「そうだな。それでこれが約束のぶつだ」
そう言ってスキンヘッドのおじさんは白金貨の入った皮袋をどんっと机の上に置いた。
「額が額だからな。ちゃんと百三十枚あるか、確認してくれよ」
「了解です。えっと、一枚、二枚、三枚……」
ちまちまと数え、僕は白金貨が百三十枚あることを確認した。
確認を終えるとアイテムボックスの腕輪に全部しまう。
「便利だな。その腕輪」
「そうでしょう。僕以外では物を取り出せないし、僕が思わない限り外れることもない。防犯にも便利ですし、単純に物を入れるのにも役立ちます。では僕はこれで」
「いやちょっとまて嬢……坊ちゃん。ギルドマスターに時間があれば面会するように言われてるんだ。いい機会だから、ギルドマスターにあってくれ」
「分かりました」
そう言ってギルドマスターの部屋がある三階に向かう。
ノックし、挨拶をしてから僕は中に入った。
「来たな、アリア。お前さんにあるようというのはランクの事だ」
「ランクですか?」
「そうだ本来なら試験がいるのじゃが、あの戦いぶりを見ればAランクに届くことはすぐに分かる。何せ十二人のAランク達であるマゼロ様一行を倒したのだからな。そこでアリアをAランクとする」
「ありがとうございます。ギルドマスター」
「それでじゃが……いや、この話はまだ早いか。さっきの事は聞かなかったことにしてくれ。以上じゃ」
「失礼します、ギルドマスター」
さっき言いかけたことは何だったのだろう。そう思いながら、僕はギルドマスターの部屋を出て一階に戻った。
「我こそは螺旋の槍使い、モギドである。貴殿の武勇伝は町中で噂になり、我の耳にも届いている。ブラックドラゴンを一人で狩り、あの雷の貴公子を退けたとか。そこで我との一騎打ちを願いたい」
賭け金も貰ったし、今日は町をぶらぶらしようかなと思っていた時である。
ギルドにモギドなる人物が現れ、僕に勝負を挑んできた。
断ろうと思ったが、彼は貴族の四男らしく、貴族の決闘という言葉を使ってきた。
貴族の決闘という言葉を使われては断ることは出来ない。
僕は手短に済ますべく、ギルドの訓練場を借りた。
螺旋の槍使いモギドとやらは、Cランクほどの実力しか持たず、僕と同じ大きさの水龍一匹にてこずっていた。
最後は激流と化した水龍の一撃により、槍を弾き飛ばされモギドは降参した。
僕に勝って箔を付けたかったんだろうが、そうはいかない。負けてやる義理もないので普通に勝った。
その後、ギルドを出て僕はぶらぶらと町を探索した。
忙しくなったのはその次の日からである。
「俺は炎の魔剣士、ハッケルス。お前に勝負を挑みに来た!」
「某は東の国の剣士、リュウガ。お主に戦いを挑みたい!」
「私は風来の魔法使い、ミルカ。あなたに勝負を挑むわ!」
僕が雷の貴公子に勝ったという噂は瞬く間に広まり、そして名声を求めて僕に挑んでくるものがあっという間に増えたのだ。
今日でもう五人目になる風の魔法使いミルカとやらを軽くあしらいギルドに居座る。
すると次の挑戦者が十分と待たずに名乗りを上げた。
そこから一か月間、百人以上の挑戦者を倒したところで僕に挑むものは少なくなっていった。それでも挑戦してくる人はいるし、そのたびにあしらっている。
もうギルドの訓練場がマイホームといえるほど入り浸る始末だ。
これも挑戦者が増えたゆえである。
最近では挑戦者を倒し過ぎて、挑戦者百人切りという新たな武勇伝が加わったほどだ。
「俺は黄金の双盾というパーティのリーダー、アッシュ。お前に戦いを挑む! 勝ったら夜を共にしていただきたい!」
「アッシュ君、何してんの?」
「いや、悪ふざけ?」
ギルドで休んでるとたまたま通りかかったアッシュに話しかけられた。
「冗談でもやめてください。ここんところ挑戦者だらけで困ってるんです」
「挑戦者ねぇ、だったら勝負してほしくば金貨一枚を差し出せー、とか言ってみれば?」
「それは言いアイデアです! 何故思いつかなかったのでしょう。そう言えば挑戦者も減りますね」
「だろ」
「アッシュにしてはいいアイデアです」
「その一言は余計だ」
アッシュのアイデアのおかげで挑戦者に勝負を挑まれることはかなり減った。金貨一枚はそれなりに高い額だ。挑む方も気軽に挑めなくなった。
武勇伝の方もひとまずは落ち着いたというところだろう。
こうして僕のマゼロ・フノワール妾事件は終わったのである。
アリア「アッシュ君もたまには良いこと言うのです」