貴族の決闘
闘技場の真ん中に間をおいて十三人のひとが立っていた。
一人は僕事、雨の魔法使いアリア・リキュールである。
その反対側には、雷の貴公子マゼロ・フノワールと十一人の従者たちが立っていた。
僕はいつも通りの、いかにも旅人言った風貌にリキュール家の家紋が入った青いマントを付けている。
マゼロは綺麗な装飾の入った銀色の鎧を付けており、腰には長剣を携えていた。
「アリア、お前は杖を使わないのか?」
僕の杖を持っていない風貌を見て、疑問に思ったのかマゼロが質問する。
「使いません。素手が僕の真骨頂です」
「なるほどな、それが全力というならば何も言うまい。ところでアリアは賭け屋に白金貨十枚を賭けたらしいな。今回は名のある魔法使いとの戦いという点でも期待している。失望させるなよ」
「任せてください。度肝を抜いて見せますよ」
「ほう、言うではないか」
ニヤリと笑みを浮かべるマゼロ、随分と楽しそうだ。
僕は観客席を見る、僕の目は普通なので観客席の人の顔までは見えない。でも黄金の双盾や紅蓮の虎の皆は来ると言っていたので、どこかにいるのだろう。
そもそも賭けをしているのかどうか知らないが、きっと雷の貴公子が勝つと高を括っているだろう。
皆の度肝も抜いてやろう、僕はそう思った。
今日のために色々策は用意してある。
今までに見たことない戦いを見せようじゃないか。
広い学校のグランドぐらいあう闘技場の上で僕はそんなことを思っていた。
そして決闘の時間がやって来た。
審判がやって来て、宣誓する。
宣誓の内容は貴族の誇りがどうたらとかそういう内容だ。
僕にはあんまり関係ない。
そして審判の人が、合図を下す。
後は審判の人が防御結界までいったら試合開始だ。
「俺は男として、先手を譲ろうじゃないか。アリア、失望させるなよ」
余裕綽々の態度でマゼロがそう言った。
「後悔しないでくださいね」
審判の人が防御結界の中に入ったのを見てから僕は龍を生み出す。
今日のは特別性だ、霧を集めて龍の形にした霧龍と雲を集めて龍の形にした雲龍を生み出す。大きさは三十メートルといったところか。
そして霧龍がいきなりマゼロ達に向かって霧のブレスを放った。
目くらましだと、相手は高を括っているらしい。まぁ、その通りなのだがマゼロ達は危険はないと立ち止まったままだ。
一瞬で闘技場の中が霧で包まれ、見えなくなる。
徐々に霧が晴れていき、観客は僕が霧で目くらまししている間に生み出した竜たちを見ることになる。
三十メートルを超える水龍、氷龍、灼龍、そして僕を包む、氷その物の龍である氷像龍。
僕は氷像龍の口の中に居り、氷像龍は空を飛んでいる。他の五匹の龍たちも自由自在に闘技場の空を飛ぶ。
そして雲龍が口から暗雲を作り出している。
「ほう、絶景じゃないか。これを見れただけで決闘した価値があるというものだ」
観客からも驚きの声が上がっている。僕がここまでするとは思っていなかったのだろう。番狂わせがあるかもと騒いでいる輩もいる。
まずは籠手試しとばかりに、僕は水龍、氷龍、灼龍をけしかける。
「さてどうするか」
水龍がマゼロに襲い掛かる。マゼロは魔剣を抜き、水龍を切りかかった。その瞬間紫電が舞い、水龍の頭が爆ぜて蒸発する。
雷を飛ばすだけでなく、爆裂させて水を水蒸気に変える手段を持っている様だ。
厄介だ。しかも、マゼロは紫電を近距離で浴びたにもかかわらず、ダメージを受けた様子がない。雷の魔法で自分に降りかかる雷は無効化しているのだろう。
頭を失った水龍をそのまま突っ込ませる。
マゼロは剣劇と雷撃を混ぜて、水龍全てを蒸発させた。
しかし十秒もすれば水龍は再生する。
その間に氷龍と灼龍が襲い掛かった。
従者の魔法使いと思わしき人が炎の竜巻を起こして、氷龍を蒸発させる。他の魔法使いと思わしき人は土魔法を使い、灼龍を土のドームで封印した。
そうしている間に水龍が水蒸気から集まって再生した。
「若様、これは厄介ですぞ。まさかこれほどの魔法使いとは」
レーテスがマゼロに声をかけた。
「分かっている。これは選ばないといけないな」
「そうですな。短期戦か長期戦。どちらかを選ばなければならないでしょう」
「選ぶのは当然長期戦だ。まず観客が俺たちを見ている。民衆を楽しませるのも貴族の役目だ。それにアリアはなるべく傷を付けずに手に入れたい。ならば魔力を尽きさせて降参させるのが吉だ。そう言う訳だ、分かったなお前たち」
「「「「「了解です、若様」」」」」
そこから長期戦が始まった。
水龍達が踊り、マゼロ達が舞う。
水を始めとして、雷、爆炎、土、風、ありとあらゆる魔法が闘技場内で放たれた。
その様子に観客たちは魅了されていた。
同じ人間なのかと思うほどの戦闘。
芸術の域に踏み込んだ水龍達とそれにあらがうマゼロたち。
それはさながら氷の龍に閉じ込められた姫を助けるために戦う勇者の様な図だ。
絵本の物語の様な戦いに誰もが息をのんだ。
百匹は水龍が蒸発させられたころ、レーテスが口を開いた。
「これだけ水龍を蒸発させたのに顔色一つ変えないとは、奴は化け物か何かですかな」
「おい、レーテス。人の妾相手に化け物とは失礼だな」
「これは失言でしたな、若様。しかし、若様も気づいていましょう。これはこちらが不利に立たされています。しかも手加減された状態で」
マゼロ達は迷宮の三十階で魔物に囲まれた時よりも窮地に立たされていることを実感していた。あの時はAランクの魔物に囲まれていたが、それよりも今は危機に陥っている。
「そうだな。水蒸気すら操れるんだ、俺たちに降りかかった水滴を使えば切り傷まみれにすることは出来たはず。それをしないという事はアリアも降参を待っているという事か。こうなれば、短期決戦で攻めるぞ。相手の魔力の底を尽かせるよりこっちの魔力が尽きそうだ」
そういってマゼロは従者たちを見る。従者たちの顔色は疲弊してよくない。もう残っている魔力は半分以下だろう。
そういうマゼロの魔力も半分を切り、四分の一以下になろうとしていた。
「お前たち、短期決戦で行く。陣営を固めろ!」
そうマゼロが指示した時である。
ぽつりと一粒の滴が空から落ちた。
それが合図だったかの様に、暗雲から雨が降り注いだ。
ザーザーと雨が降り注ぎ、氷像龍が口を開けた。
「聞こえますか。雨が降りました。マゼロ様、降参してくれませんか」
「ふっ、ほざけ。俺は最後までお前を諦めるつもりなどない」
「なるほど、ところで何ですけど、僕は昔から雨の日は魔力が疼くというかなんというか雨の日に魔法を使うと調子がいいんです。リミッターが外れたようなそんな感じなんですよ。ここからはさらに容赦なく攻めますよ。覚悟してください」
そう言って、氷像龍の口が閉じる。
次の瞬間、水龍がマゼロを襲った。
マゼロは当然魔剣で水龍に切りかかる。
紫電が飛び、水が蒸発するが瞬きしたその直後にはもう水龍は形を取り戻していた。
「何だと!?」
次々と従者たちが水龍に飲み込まれていく。
中は高速で流れる激流と化しており、外に逃げ込むことが出来ない。
(ここで負けるわけにはいかんのだ!)
魔力を魔剣にこめて、従者たちに雷が行くことを承知で魔剣の力を解き放つ。
紫電が巻き起こり、水龍の一部が蒸発した。
従者たちは感電して気絶している。
マゼロは蒸発した隙に、雷を纏い身体の力を大幅に強化した。
(この状態は十秒も持たん。力尽きる前に決着をつける)
水龍が元の形に戻る前に、脱出し、雷光を纏ったマゼロが防御結界の壁を駆けた。
そのまま上空へと昇って行き、水龍や氷龍、灼龍の攻撃を躱す。
あまりの速度に龍たちの反応が間に合わないのだ。
マゼロは天空にいた氷像龍に着々と近づいていた。
氷像龍が口を開きブレスを放つ。
つららを含んだ雪のブレスをマゼロは雷の魔剣の力で蒸発させる。
「死ぬなよ!」
そう言いつつ、マゼロは最後の力を魔剣に注ぎ込んだ。
魔剣は雷を纏い、まばゆく光る。
次の瞬間、雷の刃が氷像龍の頭を貫いた。
氷像龍の頭が崩壊し、そしてアリアの姿も砕け散った。
「何!?」
そして首がもげた氷像龍の奥でアリアが
「保険かけておいて良かった」
と呟くのだった。
砕けたアリアは氷像龍の中で鏡の様に反射させられた幻。
本物のアリアは頭ではなく首の奥に隠れていたのだった。
「ここまでか」
そう言い残し、マゼロは纏っていた雷を放電させ、空中から落下する。
それを水龍が受け止め、貴族の決闘は終了した。
アリア「度肝を抜いてやったのです!」




