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雨の魔法使い  作者: あめふらし
15/24

前触れ

『雷の貴公子』マゼロ・フノワール。

 その名前は十日後に瞬く間に広まった。

 前人未到のザビエンスの迷宮の三十階に彼とその従者のパーティが足を踏み入れたからだ。

 豊富なアーティファクトと新種の魔物の素材を持って帰り、マゼロの名前には箔が付いた。

 街中は次期当主マゼロの噂でいっぱいである。イケメンで財力があり、地位も持っていてさらにはこの世界で不可欠な強さまで持っている。

 これでモテないはずがない。

 さらにはこの後に、雨の魔法使いとの決闘という大イベントが開かれるのである。町が盛り上がらないはずがなかった。


「どうしてこうなった」


 僕は西ギルドの食堂でぼやいていた。

 目の前には愚痴を聞く役としてアッシュを用意してある。

 今日は僕の愚痴をたくさん聞いて帰ってくれアッシュ君!


「アリアが可愛いすぎるのがダメなんじゃないか。俺だって寝床を共にしたいものだし」


「まだいうかアッシュ君、僕は男と寝る趣味はないんだ諦めてくれ」


「それで、用事ってなんだよ」


「僕の愚痴を聞いてほしいのと、次期当主様の戦力の話しかな。貴族の決闘って本来兵を使って行われるもの何でしょ」


 僕はアッシュが準男爵家の五男だという事を知っている。貴族間の話しをするならば、相手もそれなりに帰属に精通しているものがいいだろうと思い、僕はアッシュを呼んだのだった。

 

「そうだな、その貴族の持ちうる全力での戦いが貴族の決闘だな。今回はアリア一人と、三十階に辿り着いたマゼロとその従者たちってことになると思うけど。傍から見ると勝ち目ないなこれ」

 

 傍から見るとBランクの水魔法使いと迷宮三十階層に辿り着いた確実にAランクの実力はある従者たちとマゼロだ。勝ち目は一切ない様に見える。


「でもバルサスさんといい勝負したんだし、少しは勝ち目が……いや、ないか。残念だが妾になるしかないようだな」


「そこは嘘でも倒せるように頑張れとか言ってくださいよ」


「でもなぁ、倒せる確率ないと思うけどな。トップの次期当主様は雷の貴公子の二つ名だろ、相性最悪だろ」


 水と雷では雷が圧倒的に有利だ。雷の貴公子マゼロは火と風の混合魔法である雷を使いこなす。さらには雷の魔剣を持っており、今回の迷宮探索で手に入れたアーティファクトで戦力を強化しているとの噂だ。

 うん、どうしようこれ、切り札使っても勝てるかな?

 対策を考えておいた方がよさそうだ。


「何とかして見せますよ。僕は妾になるつもり何て一切ないですし」


 そこからは僕の愚痴がアッシュを襲った。アッシュは適当に相槌をうって受け流していた。

 

「とにかく僕は女の子に間違われることが多すぎます。そんなに女っぽいですかね僕」


「そうだな、夜を共にしたいぐらいには」


「まだいいますか、懲りないですねアッシュ君」


「まぁな、アリアが男だってこと半信半疑だし」


「何ですと!? 僕は男です。信じてください」


「はいはい、ソウデスネー」


 こんな感じである。他にも水魔法を使った雷の対策を一緒に考えて貰った。

 そして時は過ぎ、あっという間にマゼロ次期当主との戦いの日がやって来た。

 『雨の魔法使い』VS『雷の貴公子』と宣伝された貴族の決闘は大いに盛り上がっていた。

 町で一番の闘技場を一日貸し切りにされた舞台で決闘は行われる。

 町で一番の闘技場、名をそのままにザビエンス大闘技場はアーティファクトにより、防御結界が観客席と闘技場に張られる。

 これは観客から微量の魔力を徴収し、防御結界に反映する機能で、観客が大勢いればいるほど、強固な防御結界が貼られる。

 満員ともなればSランクの攻撃も防ぐと言われるものだ。

 そして当日の観客席のチケットは満員であった。これは存分に戦えるというものだ。

 試合の時間に間に合うようにと、朝から僕はザビエンス大闘技場に向かっていた。

 ザビエンス大闘技場の周りには屋台が並び、『雨の魔法使い』VS『雷の貴公子』と書かれた旗が立てられていた。

 こうも堂々と宣伝されると気恥ずかしい。

 そう思っていると、面白いものを発見した。

 

「雨の魔法使いと雷の貴公子どっちが勝つか、賭けをしないかい? オッズは、雷の貴公子が1.01で雨の魔法使いが13.0だよ。さあ、買った買った!」


 スキンヘッドにしたおじさんがギルド公認という文字とマークが書かれた旗の元、賭けの大本をやっているようだった。

 周りの人たちは、無難といった感じで雷の貴公子のチケットを買っていく。

 記念といった感じなのだろう、みんな安い銅貨一枚のチケットを買っていった。

 雨の魔法使いのチケットを買っていくものは、皆無だ。

 うん、オッズを見れば当然と言えば当然だが、うーむ、微妙な気分だ。

 せめて誰か一人は僕のチケットを買ってくれ。

 そう思っていると偶然通りかかったクリストファーさんたち銀の剣を見つけた。

 こっちには気づいていないようだ。

 クリストファーさんたちは、賭け屋を見ると賭けていくようで、寄っていった。

 買ったチケットは……雷の貴公子の方だ。

 むむむ、僕が勝つと思っているのは僕だけなのか……。

 僕は少し、思うところがあって、クリストファーさんに声を掛けた。


「あれ、アリアか。もしかしてチケット買うとこ見てた?」


 そういうクリストファーさんの手には銀貨一枚分のチケットが握られている。


「見てましたよ!」


「いやー何か悪いことした気分になるな。でも俺は部の悪い賭けはしない主義なんだ悪いな」


「むぅ、クリストファーさんはギャンブルというものを分かってないですね。ギャンブルってのはこうやるんですよ」


 そう言って僕はアイテムボックスの腕輪から無造作に白金貨十枚を取り出し、ドンっと賭け屋のスキンヘッドのおじさんに押し付けた。

 周りから歓声が上がる。

 スキンヘッドのおじさんはまさに驚愕といった表情を見せており、それだけでも白金貨十枚を出した価値があるものだ。


「お、お嬢ちゃん。賭けるのは雨の魔法使いの方か……ってもしかして雨の魔法使い本人か!?」


「その通りです! そして当然僕がこの白金貨十枚を掛けるのは僕自身です!」


 さらに歓声が上がった。僕が噂の雨の魔法使いと知って周りから声が上がる。


「ふふん、どうですか。賭けはこうするんですよ」


「おいおい、ギルドにそんなに寄付していいのか」


「誰が寄付ですか! 当然十三倍にして返してもらいますよ」


 スキンヘッドのおじさんに儲けさせてもらいますよと言って僕は闘技場の方へ駆けていった。

 その後に残されたスキンヘッドのおじさんと銀の剣は賭けられた金額を見て変な笑いをしていたのだった。

 しかしそこにさらに、余剰な事件が起こる。

 

「面白いことをやっているな」


 雷の貴公子、マゼロとその従者たち十一名の登場である。

 周りの女子からは黄色い声援が飛んでくる。

 その中をマゼロとその従者は悠々とやって来たのであった。


「さっきの一部始終は遠目に見ていた。まさか白金貨十枚を自分に賭けるとはな」


 そういってマゼロはレーテス、と声を掛けた。

 声を掛けられたレーテスは、はっと一言呟くとどこからか白金貨三十枚を取り出した。


「俺自身に白金貨三十枚だ」


「ま、毎度」


 引きつった笑みを浮かべながら答えるスキンヘッドのおじさん。

 

「あっちが自分に白金貨十枚も賭けたんだ、それぐらいかけないとフノワール公爵家の名が廃る」


 机の上に乗った合計四十枚の白金貨を見て、スキンヘッドのおじさんは変な笑みを浮かべていた。


「行くぞ、お前たち。余興としては面白かった。ますますアリアが欲しくなったというものだ」


 そう言うとマゼロ達も闘技場に向かって歩いていく。

 周りはこれは面白いことになりそうだと、より一層熱狂的な声を上げていた。


アリア「アッシュ君よ、僕の愚痴を聞けえ!」

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