ダンジョン
迷宮都市ザビエンスは迷宮を中心に発展した都市である。
ザビエンスの迷宮と名付けられた迷宮は、地下二十五階まで確認されており、三十階以上はあると予想が付けられている。
毎日冒険者が闊歩し、利益を上げている迷宮は、都市の宝だ。
なくてはならない存在と言えるだろう。
迷宮を囲むメリットは迷宮で手に入る魔物の素材や宝箱から見つかるアーティファクトだが、もちろんデメリットもある。
それは氾濫と呼ばれる現象で、迷宮の中に大量の魔物が生み出され、外に出てくるといった現象だ。
ザビエンスの迷宮の入り口は街中にあるため、もし氾濫が起きれば、街中に魔物が現れると言った緊急事態になる。
そのため、氾濫の予兆である魔物の大量発生がでた暁には、緊急依頼として冒険者たちに迷宮狩りと呼ばれる依頼が出る。
迷宮狩りとは、迷宮に発生した魔物を無造作に退治することで、とにかく数を倒すことを目的とする。
と、そんな説明を僕は朝のギルドで聞かされていた。
何でも、氾濫の予兆があったらしい。迷宮内の魔物の数がここ数日で増加している様だ。
氾濫を起こさないために、一か月は緊急依頼として迷宮狩りが行われるそうだ。
そして緊急依頼は、何事よりも優先させられる。依頼料が少ないのがネックだが、迷宮都市に魔物が出現するよりはマシだろう。
僕は緊急クエスト迷宮狩りに参加することに決めた。
ギルドの受付のお姉さんに緊急クエストを受けることを伝え、僕は早速迷宮へと繰り出した。
迷宮に入る準備をした後、迷宮の入口へとたどり着く。
そこには緊急依頼を受けたのか、大勢の冒険者がたむろしていた。
そこに見知った顔があったので、挨拶をしに行った。
「フォンスさん、あなたも迷宮狩りに参加するんですか?」
「ああ、アリアか。そうだよ、俺達も迷宮狩りに参加するんだ。氾濫期にはアーティファクトが出やすいって言うからな」
「へぇー、知りませんでした」
「そうだ、アリア。もしよかったら俺達紅蓮の虎と一緒に迷宮に潜るか? アリアが居れば心強い」
フォンスの提案に僕は迷ったが、受けることにした。
一人じゃアーティファクトが出るような奥深くには潜れないし、渡りに船といったところだろう。
フォンスの話では十階を目指すそうだ。
十階は普通に進んでいけば二十時間ほどで付くことが出来る。
フォンスは三日間の狩りを計画しているそうだ。
僕もそれに便乗することにした。
金貨十枚の大きな魔法袋に買い替えた僕は、魔法袋の中に大量の日持ちする食料を入れている。
三日間くらいなら何とかなりそうだ。
「じゃあ決まりだな。三日間、頼むぜ、アリア」
「こちらこそ頼みますよ、フォンスさん」
と言う訳で僕らは迷宮に潜った。
一階にはゴブリンやスライムといった雑魚が出現し、階層が深まるごとにオークやコボルトといった強力な魔物が出現するようになった。
まぁ、それでもDランクの魔物なので、紅蓮の虎のコンビネーションや僕の魔法にかなわず、命を散らしていった。
ここまでが七階層の出来事だ。
ここからはCランクの魔物が出現するとの情報があるので、紅蓮の虎たちはよりいっそう気合を入れているようだ。
「ちっ、オーガか。アリア頼めるか?」
「了解」
迷宮を進んでいると体長三メートルはあろうかという赤い鬼に遭遇した。
Cランクの魔物オーガだ。単純なる戦闘力だけでCランクに選ばれているオーガの戦闘力はへたなCランクパーティを壊滅させる力を持っている。
それを危険だと判断したのか、フォンスは僕にオーガの始末を任せる様だ。
僕はいつも通りの三匹の龍を生み出すと、オーガにけしかける。
オーガが手を振るって、水龍達を攻撃するが、潰された次の瞬間には元に戻っている。
それどころか、氷龍に当たったところは凍り、灼龍に当たったところは焼けただれていた。
決定打は激流と化した水龍の牙だった。胸をえぐり、心臓を噛み潰す。
オーガは胸から血液を放出させながら、絶命した。
こちらの被害はゼロだ。
「さすがアリアだな。オーガがまるでゴブリンの様な扱いだ」
紅蓮の虎の一人に褒められた。やはり褒められるとうれしい。
オーガの魔石を剥ぎ取り、討伐の印の右耳も剥ぎ取る。
魔法の袋にしまった後、十階層を目指す。
そこからも、厄介な敵は僕が処理し、一日以上を掛けて十階に着いた。
「大部屋だな」
またの名をボス部屋と呼ばれる場所の前に僕たちは立っていた。
そこは大きな扉の前で匠の意匠が扉には付けられている。
五階以上ではボス部屋と呼ばれる大きな部屋がたまに出現し中には、ボスと呼ばれる強力な魔物が出現する。
強力な魔物は、討伐すればいい魔石や部位が手に入るのは勿論の事、たまに宝箱が出現しアーティファクトと呼ばれるお宝が手に入る。
戦力に余裕があれば、だれもが中に入るだろう。
「今回はアリアもいるし、中に入ろうか」
フォンスの提案は皆に受理された。
どんなボスが待っているか分からないが十階ならば、そう強いのは出現しないだろう。
そう高を括って皆はボス部屋の中に入った。
しかしその予想は裏切られる。
「ド、ドラゴン!?」
中にいたのは体長五メートルは超えそうな西洋の竜がいた。
体表は黒く、その顔は凶悪そのものだ。
ブラックドラゴン、大きさからして幼体だろう。
しかしドラゴンの中でも上位に換算されるブラックドラゴンは幼体でもAランクの実力が狩るのに必要だったはずだ。
なぜこんな化け物が出現したのか、恐らくだが氾濫期のせいだと思われる。
氾濫期はアーティファクトが出やすかったりといいこともあるがその反面、強力なボスが出現するというデメリットがあるのかも知れない。
出現したものは仕方がない、倒すしかないだろう。
たぶん、倒せる。倒せるがどうやって倒そう。
そう思考を巡らせていると紅蓮の虎の面々が目に付く。
その顔は真っ青でまさにこの世の終わりを見ているかのようだ。
いや、彼らにとってブラックドラゴンの幼体はまさに死を体現しているのだろう。
真っ青な表情になるのも無理はない。
しかし逃げるという選択肢は取れない。
ボス部屋は一度入るとボスとの真剣勝負が始まりどちらかが全滅するまで、戦いは終わらない。
戦っている間はボス部屋の扉は絶対に開かず、どうやっても外に出ることは出来ない。
「くそっ、こんなところで人生終わってたまるか!」
震える手で剣を構え、ブラックドラゴンが動き出そうとする前に突撃しようとするフォンス。
「待ってください! 死ぬつもりですか」
それを僕は声で止める。
「だが、どうすればいい! アリアが倒してくれるとでもいうのか」
「そうですね、その通りです」
その返事にフォンスは、
「出来るのか?」
「僕を舐めないでくださいよ、敵はドラゴンですが幼体でAランクですよね。やって見せます。フォンスさんたちは下がっていてください」
「そうだな。アリアなら行けるかもしれねぇ。お前ら俺たちは足手まといだ。すみに移動するぞ」
フォンスの一声で紅蓮の虎が部屋の隅に移動する。
そこまでしてようやくブラックドラゴンが動き出そうとしていた。
呑気なものだ。そういう僕も呑気だが。
「あっ、フォンスさん。ドラゴンって素材にしたらとっても上等ですよね」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「いえ、傷つけずに倒さないといけないなと思って」
ドラゴンの素材はどれも高級品ばかりだ。幼体とはいえそれは変わらないだろう。だったらなるべく鱗や牙に傷を付けずに狩りたい。
「おい、そんな余裕あるのか?」
「任せてください」
ブラックドラゴンの幼体との戦いが始まる。
アリア「ドラゴンも異世界の代名詞の一つですよね」