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7. 「ここははじまりの村です」

「ここははじまりの村です」

「え?」

「ああ、ここは開拓村なんで、ここからみんなの本当の人生がはじまるんですよ、という意味で村議会でつけたんだよ」

「あ、そうなんですか、素敵な名前ですね」


 髭モジャの門番さんらしき人は、ほっこりと笑ってくれた。


「ところで、あのどでかいものはなにかね?」

「最近、王都で流行っている箱馬車よ。すごい魔法で動いているの」


 オッドちゃんが口からでまかせを言うと門番さんは、なるほどなるほどという感じでキルコタンクを眺めた。


「すごいもんだね。村に入るのは宿泊かね、補給ほきゅうかね」

「両方よ、はい」


 オッドちゃんはそう言うとふところからなにやら白色にピカピカ輝くカードを出して門番に見せた。

 あれは、噂のギルドカードなのか?


「おわっ、神銀ミスリルのギルドカードなんてはじめて見たよ。このクラスだと、お貴族さまじゃあないのかい?」

「似たような物だけど、ちゃんと授爵じゅしゃくはしてないわ、平民扱いでかまわないわよ」

「後ろの二人は従者だね、なるほど、凄い馬車に、綺麗な着物、野遊びの帰りというところかね」

「まあ、そんなところよ、入るわね」

「ようこそ、はじまりの村に」


 門番さんは合図して、木でできた大きな門を開けてくれた。



「おほー、中世の村みたいなんだよ、げんきくん」

「そうだね、あ、手押しポンプだ、すごいなあ。スイカを冷やしたいなあ」

「私の内政無双の種がどんどん無くなっていって悲しいよ、げんきくん」

「意外に異世界人って沢山来てるの? オッドちゃん」

「年に二三人ってところかしら、いろいろな技術や文化が流れ込んでいるわよ」


 パンゲリアには、意外と沢山の僕たちの世界の人がきているようだ。内政Tueeの余地はなさそうだなあ。

 村の人はフレンドリーにニコニコして、目が合うと小さく手をふってくれる。

 外見はほとんど西洋人っぽい感じ、たまに獣の耳が生えているひとが混じる。ワニの頭の人とかも居る。

 ドワーフやエルフ、ハーフリンクとかの人は居ないっぽい。

 地域がちがうのかな。


 なんだかすごくファンタジーっぽくて、僕はワクワクしてしまう。

 はじまりの村で僕は、たびびとのふくとひのきぼうを買って装備しよう、そうしよう。

 あとの残金はやくそうだ。あたりのスライムを狩ってお金を集め、やくそうを使い果たしたら宿に泊まるんだ。

 ああ、すごくワクワクする。


「まずは領主の人にインペリアルクロスを教えてもらい、覚えるのはまずパリィだよ……」


 あやめちゃんがつぶやく声を拾うと、彼女はなんだか別のゲームの中にいるようだ。きっと永久皇帝になるんだな。


 村の真ん中には大きめの建物がならび、雑貨店とか肉屋とかが並んでいた。

 馬車が何台も止まってる場所は馬車駅かな?

 とてもファンタジーで、そして、その、臭い。

 なんだかオトイレとどぶが混じった匂いがする。

 僕はその匂いを胸一杯にすいこむ。

 良いんだ、これが本当のファンタジーなんだっ。

 ひゅうう、……くさいっ、げほごほ。


「じゃあ最初に冒険者ギルドに行くわよ」

「冒険者ギルドに登録して各都市の身分証明になるギルドカードを発行してもらうんだね」

「よ、よくわかってるわね」

「定番ですから」


 テンプレとも言うね。

 実在の西洋の中世でも、各職業ギルドから証明書が出て、腕をみがく旅に役立っていたそうな。

 WEB小説とかのギルドカードってそういう物から来ているんだろうね。

 それを、異世界からの客がパンゲリアに伝えたんだろう。

 なかなか複雑だ。



 というわけで僕たちは村の中心部にある大きな建物にやってきた。

 ここが冒険者ギルドらしい。


「冒険者ギルドと村役場と酒場と集会場を兼ねた所よ」


 総合村役場だね。

 ギルドの入り口は両開きのスイングドアになっていて、なんだか西部劇っぽい。

 中に入ると左が酒場で右がギルドカウンターっぽい。

 ギルドの方にはメガネをかけたお姉さんが暇そうに座っていた。

 左側の壁には沢山のメモが貼ってあった。


「依頼書だよ、きっと、げんきくん」

「そうだね依頼書だよ、あやめちゃん」


 そんな事を言っていたら酒場の方から、赤ら顔の、禿げマッチョがふらふらと寄ってきた。

 酒くさっ。


「おうおう、ここは子供の遊び場じゃあねえんだぞ」


 うおお、凄いテンプレ。


「すごいよ、ギルドの不良冒険者だよ、本当にいたんだね、げんきくん!」

「昼間からお酒を飲んで、子供にからむだなんて、国宝級の駄目冒険者だね、あやめちゃん」

「なんだとお、このガキッ、大人をなめ……」


 禿げマッチョは僕らの後ろから来たオッドちゃんを見て、固まった。

 お、これはオッドちゃんTueeeフラグかな。


「ほわぃふへっほっ」


 え?

 なんだか、禿げマッチョが意味不明の発声をして固まった。

 ヘッドバッティングをするがごとくにガックガックと上半身を激しく、ゆらしている。

 な、なにごとっ。


「ほんひるはったったっ」


 何語!?


 禿げマッチョは、目をぐわっと見開くと、どばどば涙をながしはじめた。

 泣く、泣く、無言で泣く。

 ガンと音を立てて床に両膝を落とす。そしてそのまま額を床に打ち付けた。


 土下座。

 土下座だこれは。


「お”ゆ”る”じく”だ”しゃい”っっっっ!!!」


 しん、とギルドの中が静まりかえった。

 オッドちゃんは、な、なに? というばかりにおどおどしている。

 禿げマッチョは身動き一つしない土下座。

 な、なんだ、これ、いったい。

 ど、どんだけオッドちゃん怖がられているわけ? 

 君は世紀末覇王せいきまつはおうなの?


 ぼええええんと牛が鳴くような音がして、禿げマッチョの頭の所から床に水たまりが広がる。

 涙?

 人はそんな大量の涙をだせるものなの?

 涙スキル?


 こ、困った、困った。どうしたら、いいんだ。

 なんだかよく分からないし、どうしたらいいのかわからないので、オッドちゃんと禿げマッチョとあやめちゃんの顔を順繰りに見る機械に、僕はなった。


「お、オッドだ、狂乱の城塞崩し……」

「はひいい、オッドだ、不可触アンタッチャブルの魔女、オッドが来た、この村はもうおしまいだ……」


 酒場にいた冒険者たちが口々に小声でつぶやいた。

 オッドちゃんは超笑顔だ。

 だがひたいに青筋がビッキビキに立っていて、その内心の激怒げきどさ加減が解る。


訂正ていせいしなさ……」


 オッドちゃんが一声つぶやく前に、酒場にいた冒険者は脱兎だっとのごとく外へ逃げ出していった。


「は、はやくするんだっ! だいじょうぶ?!」


 イケメン冒険者が、禿げマッチョに肩を貸して逃げ出していた。

 禿げマッチョは、まだぼろぼろ泣いている。

 どんだけー。


 しんっと、静かになった酒場には誰も居ない。

 ギルドカウンターにお姉さんが一人引きつって座ってプルプルとふるえていた。


「い、田舎の人は、シャイだから、こ、こまるわね……」


 違うから、オッドちゃん! それはぜったい違うからっ!


 とりあえず、なんだか気まずい沈黙を保ったまま、僕たちはギルドカウンターに行った。


「あの、この二人の冒険者登録を」

「はいぃっ!! よろこんでぇっ!!」


 なんか飲み屋さんみたいな返事をして、ギルドのお姉さんはきびきびと書類を用意した。

 ギルドカードは名前を書いたら、即時そくじ発行であった。

 ちなみに赤銅色。カッパーのカードなのかな?

 裏面には名前と職業が書いてある。

 僕とあやめちゃんの職業は旅人だ。


「あ、あのカードの説明とかは?」

「いいです……」

「え、いいってその」

「説明とかは、も、もう、いいのです……」


 めっさ涙目のギルドのお姉さんをかこんで僕たちは沈黙した。


 良いなら、うん、良いよね。

 おねえさんは説明とか出来る精神状態にないんだろう。

 ここは僕たちが大人になって、気配きくばりという奴でおねえさんを解放してあげるべきだね。

 きっとこれ以上は号泣ごうきゅうしちゃうんだろうね。


「あ、ありがとうございました」


 僕らがお礼を言うと、お姉さんは涙目で、こくこくと無言でうなずいた。


「カードの説明一つできないなんて、まったく田舎とはいえ、ギルド職員の質も落ちたものね」

「オッドちゃん! あんた、空気読めよなっ!!」

「空気よめですだよっ!!」


 そう突っ込む僕ら二人の後ろで、ギルドのお姉さんは上を向き大きな口をあけて無言で号泣ごうきゅうしていた。

 ごめんね。本当にごめんね。

見知らぬ村を行くげんきたち。

装備を調えた一行の前に、禿げマッチョが再び現れる。

路地裏で待ち受ける彼の目的は一体何か。


オッドちゃん(略 第八話【お買い物と宿屋で一泊】にご期待ください!

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