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幕間SSの1 パトリシア日本紀行5

 ナツミ嬢の案内で、馬車溜まりのように大型の車が集まっている場所を歩く。

 バスというらしい。

 とても大型の車だ。

 それが何台も止まっている。

 それぞれ行き先が違うらしい。


 なんと乗り物の多い世界なのか。

 網の目のように、乗り物が街を走り回っている。

 なるほど、我が君の足弱は、ここから、と、何度も思い返した考えに、また捕まりそうになったので頭を振ってかき消す。


「ここですよ、このバスに乗って、東寺尾という街に行きます」

「ヒガシテラオ。うむ」


 そういえば、我が君の実家も、どこかこの空の下にあるのだろうなあ。

 何度か聞いた、お利口な妹さまの、ヒカリちゃんや、優しいと噂のお母堂にも会ってみたいものだ。

 しかし、どこにあるのか雲をつかむような話だ。

 むむ、我が君がパンゲリアに来る、きっかけの話を聞いていない。

 オッドのやることであるから、さぞとんでもない事態になったのだろうが、しまったな、我が君の実家と共に聞いておくのであった。


 しばらく、停留所に立っていると、バスとやらが来て、ナツミ嬢の先導で私は乗り込んだ。


「お、お客さん……、あの」


 バスの御者であろう中年の男が、目を丸くして私に話しかけた。


「なにか?」

「あ、日本語ペラペラなのね、その、あー、いやいや甲冑を着てバスに乗ってはいけないという規則は無いしな」

「ごめんなさい、この人、友達のサプライズパーティに出るので、こんな格好なんですよ。まずいですか?」

「あ、その、ビックリしちゃっただけで、別に問題はありませんな。すいません、どうぞどうぞ、日本にようこそ」

「ありがとう、御者よ」

「あ、運転手ですよ。お嬢さん」

「うむ、すまぬ、運転手よ、運転を頼む」

「はっ、おまかせください」


 なにやら、お客がクスクス笑っているが、なにかやらかしたのか?

 とにかく、この格好は偉く目立つようだ。

 しかも、この国は平たい顔民族ばかりで、私のような人種は珍しいようだ。

 道中で、一人しか見なかったな。


 二人がけの肌触りの良い椅子に、ナツミ嬢と並んで座った。

 しばらくしてバスは発車した。

 電車ほどではないが、パンゲリアの馬車に比べると揺れないな。

 快適であるな。

 この世界は、旅客を快適にする事を第一に考えて作られているのかもしれぬ。

 乗り物に乗って移動する事が、人生の目的なのであろうか?

 不思議な世界だ。


 バスは、坂を越え、谷におり、快速に進む。

 道は黒い石で綺麗に舗装されていて、凹凸が少ない。

 なにか一人乗りの不思議な細い馬のようなからくりにのって走っている人間もいた。

 細い車輪が二本あり、その間に人がまたがって足を動かしている。

 あのような華奢な物が走れるのも、この黒い石の路面のおかげなのだろう。


 バスは谷を抜け、かなりの斜度の坂を上っていく。

 かなり強い魔導エンジンを積んでいるようだ。

 後ろの灰色の煙は冷却剤の煙だろうか。


 ふむ、魔導機を動かすエンジンならば、パンゲリアでもバスは作れるな。

 だが、この黒い路面が無ければ、するするとは走れまい。

 諸王国でも、バスや列車を考え無ければならない時代に来ているのかもしれぬな。

 物流が豊かになれば、世界も豊かになるのだろう。


 しかし、行けども行けども、人家のある街中だな。

 なんという大きな街なのだ、ヒガシテラオとは。


 所々に停車場があり、人が下りたり乗ったりしてきた。

 あの運転手とやらの横の箱に硬貨を投げ入れて運賃とするようだ。

 紙を箱に当てている者もいた。

 ギルドカードに類する物なのか、まとめ払いなのだろう。


 バスは橋を渡り、丘の尾根の部分を渡っていく。

 というか、人家が多すぎて尾根かどうかは不明だが、そんな感じがしたのだ。


 なにか、丸い塔のような物の前を通りすぎる。

 ツタが這っていて、古い建物のようだな。


「貯水塔を過ぎて、坂を下ると、東寺尾ですよ」

「む、ここはヒガシテラオではないのか?」

「ここら辺は、馬場町ですね。昔、御城の馬場があったと言います」

「お城があるのか?」

「今はありませんね、廃城になってしまったらしいですよ」

「うむむ、御領主に挨拶をしておきたかったのだが……」

「いや、今は御領主さまとか居ませんから」

「居ないのか! 王様とか、領主とか」

「居ませんよ、ニホンは民主国家ですから。選挙で議員が選ばれて、いろいろと決めています」

「メイリンと似たシステムなのか」

「あ、天皇陛下はいらっしゃいますよ、国家の象徴です」

「皇帝陛下がいらっしゃるのか、なるほど、帝国の祖の生まれ故郷だけはあるな」

「わ、日本から転移した人が、帝国作ったんですか?」

「もう、五百年も前の話だがな」

「五百年前、戦国時代の人でしょうか?」

「いや、時空がどうやら平行には流れていないようなんだ。パンゲリアで五百年前でも、チキュウで何年前かは解らぬのだ」

「ほうほう、パラレルワールドと言うわけでもないのですね」

「うむ、そうらしい」


 そんな話をしながらも、バスは快速に進み、坂を下りていく。

 坂の下の盆地のような場所がヒガシテラオらしい。


「坂の下も馬場町です」

「ヒガシテラオはどっちなのだ!」

「この道、水道道の左側が東寺尾ですよ」


 ヒガシテラオとは、大きな街の地区の名前のようだ。

 バスは盆地に下りて行き、大きな交差点の向こうで止まった。


「東寺尾ですよー、おりますよ-」


 ナツミ嬢に引かれるように、私はバスを下りた。


 あたりには大きな建物が建ち並んでいるが、駅前よりはのどかな感じか。

 通行人にジロジロ見られながら、私はナツミ嬢の後をついて歩いた。

 しかし、みな綺麗な豪邸ぞろいだな。

 サイズは小さいのだが、作りが綺麗だ。


 ナツミ嬢は大きな建物の中に入り、鍵を出して、何かの機械に当てた。

 把手の無いガラス戸がするりと開いた。

 なんともガラスが好きな世界だな。


 建物の中に入り、ナツミ嬢はエレベーターへ私をいざなった。

 乗り込むと、するするとエレベーターは上に上がって行く。

 点々で出来た数字がどんどん上っていく。


 5という表示の階でエレベーターは止まった。

 外に出ると、城のベランダのような通路だ。

 しかし、四角い建物であるな。

 これを作った石工の腕の見事な事。

 垂直水平がきっちりしていて、寸分の狂いも無い。

 この世界の石工は恐るべき腕というほかはあるまい。

 外の無数に立っている建物も、垂直水平が狂っている物を見たことがない。

 手練れと言うべきであろう。


 通路をナツミ嬢は恐れ気もなく歩き、ドアの前で止まった。

 鍵を使ってドアを開ける。


「おねえちゃん、今帰ったよ-、コ○ケでお客さん連れてきちゃった」

「んー、早かったねえ、ガスコン堂の新刊買えた-?」

「買ってきたよ-、あと満州園のヤキソバとギョウザも買ってきた」

「おお、ありがとう妹よ、愛してる……」


 ナツミ嬢に似た、おっとりとしたメガネの女性が私を見て固まった。


「パトリシアさん、これ、私のお姉ちゃん、遙花はるかおねえちゃんです。おねえちゃん、この方パトリシアさん、異世界の女騎士さん」

「こんにちわ、女騎士じゃなくて、聖騎士です」

「あ、そうだったごめんなさいっ」

「ロ、ロッシァン? きゃんゆうすぴーくじゃぱにーず?」

「日本語はしゃべれませんが、我が世界は共通言語なので、通じますよ」

「あ、そうだったの? あんまり日本語が上手いから、気がつかなかった、違う言葉なんだ」

「ふぇぇ、本物の女騎士さん……。マジですか」

「マジです」

「ほんとにほんとに異世界の人?」

「はい、そうですよ」

「わ、気を付けてみると、口の形が違う、凄い、共通言語すごい」


 ナツミ嬢が興奮した面持ちでそう言った。


「セ○バーみたいに凜々しい、異世界の聖騎士さんが、我が家に……。夢みたい……」


 生まれたての子鹿みたいにプルプルと震えて、ハルカさんはそう言った。


【次回予告】

ハルカさんに会って、ナツミさんちでまったりして、パトリシアの日本紀行の一部は終わりです。

その次は、一回ずつのSSですな(^^)


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