幕間SSの1 パトリシア日本紀行6
「夏美ちゃん、あんたはなんちゅーものを持って来てくれるの、おねえちゃん幸せで、くっ殺せって感じよ」
ハルカ嬢は、うるうると感涙の涙を流していた。
な、なにゆえ、それほど感動しているのか。
「お姉ちゃんは、異世界転移物が好きで、自分もそういう漫画を描いてるんですよ。でも、最近煮詰まってるみたいで、コミケに新刊落としちゃって、だったらパトリシアさんのお話しを聞いたら刺激になるかなって」
「そうだったのか、芸術家のお姉さんの為に、私を。なんという姉思いの人なのだ、ナツミ嬢は」
「そうなの、夏美ちゃんは、いつも私の事ばかり思ってくれて、自慢の妹なのよ」
「そんなあ、おねえちゃんは何時も大げさだよ~」
そういう事なら協力せねばなるまい。
私の話などで、ハルカ嬢が挫折から立ち直れるというならば、安い物だ。
居心地の良い部屋で、床に直接座って、私はお茶を貰った。
ジュードー場にある畳マットだな。
さすがはニホン、このような普通の女性もジュードーをたしなんでいるのか。
家具が多くて、ジュードーは難しそうだが、そこがキモなのであろう。
なにか、ジュードー場で講座がはじまるまでの雑談をしているような気分になる。
センベイという、甘くないお菓子を食べながら、パンゲリアでの我が君の話をする。
ハルカ嬢もナツミ嬢も、食い入るように聞いてくれる。
我が君との出会い。
ケンリントン城へ、無理矢理のように招待したこと。
その夜、バーグの奴の夜討があったこと。
なにか、バーグと我が君の話が気に入ったようで、ハルカ嬢も、微に入り細に入り、詳しい話を聞きたがった。
なぜ、あんな男色吸血鬼の奴の事が聞きたいのだ。
我が君の本領は、メイリンのダンジョンを四人で抜けた事と、戦場でメリッサゲールを倒した事で、バーグなどは、オマケのような物なのだぞ。
まあ、聞きたいのならばしかたが無いのである。
妙に詳細に話してしまった。
ハルカ嬢はすらすらと紙に絵を描き始めた。
おお、なんとも達者な絵だな。
だが、目が大きい。
「バーグさんと、げんきさんって、こんな感じですか?」
「バーグは、こんな感じだ、よく似ている。我が君は、あー、その、もうちょっと冴えない感じか」
「イケメンじゃないんですか!」
「ちがう、もっさりしておる、我が君の素晴らしいのは魂であって、外見では無い」
「わあ、なんだか素敵な思いですね」
「うむむ、でも私はイケメンの方がいいなあ」
「有りよ、おねえちゃん、この物語はフィクションであり、実在の人物とは何の関係は無いのよ」
「は、そうだったわ、リアルに捕らわれてはいけないわね。リアリズムなんか糞食らえだわ」
ハルカ嬢が何を言ってるのか、理解出来ないな。
芸術家という物は難しいものだな。
「創作意欲が湧いてきたわっ!! ありがとうパトリシアさん、お話しの続きをどうぞ」
話は聖堂都市の乱にさしかかった。
ハルカ嬢とナツミ嬢は、ニホン人が作った、聖堂宿坊と、大浴場の話に食いついた。
「日本人は、パンゲリアでも頑張っているのね」
「もの凄い大きい温泉、行ってみたいわ」
「でも、マッチョ騎士団と混浴は勘弁だわね」
「マッチョも有りよ! おねえちゃんっ!」
ジョージと我が君の友情。
風虎との、魔導機での決闘。
二人は目を輝かせて、聞き入っていた。
「ジョージも良いわね!」
「マッチョも有りでしょ!」
「そうね、夏美、おねえちゃんの心が狭かったわ!」
話は聖堂都市のクーデターを鎮圧して、ルベル峠を抜けて、バーグの再来襲にかかる。
バーグが現れたと聞き、二人は歓声を上げた。
なんとも、あのたわけが好きな二人だな。
「そうよね、バーグさんが、簡単にげんきくんを諦めるわけはなかったんだわ」
「聖堂都市に入れなかった、呪われたバーグさん可哀想」
バーグとの戦いは、私は直接には見ていなくて、後で我が君とアヤメに聞いた事を元にしてるから、ちがっているかもしれない。
バーグのメガトンゴーレム三体を倒して、話はミルコゲールの初登場へと移る。
カワシマの登場だ。
「わ、日本人のパイロット。げんきくんの学校の同期生だなんて!」
「ライバル登場ね! 盛り上がってくるわね」
まあ、ミルコゲールは、オッドが暴れて追い払うので、あまり盛り上がらないのだが。
やはり我が君の英雄伝説に、オッドは邪魔であるな。
話は、あっというまに、メイリン市に移り、オッドと魔王の勝負が解った下りにかかる。
「ああ、やっぱりオッドちゃんのせいだったのね」
「パンゲリアのもめ事のほとんどは、オッドのせいだ」
「魔王さんと勝負を勝手にしていたなんて、それでどうしたんですか?」
「コルキスという、魔王軍四天王の一人がやってきて、占い師サイマルがさらわれた」
「新しい四天王! バーグさんは!?」
「バーグさんは、処刑ですかっ!!」
「そんなの嫌です」
どれだけ、この二人はバーグの事が好きなのか。
「バーグは、メガトンゴーレム四体と、ミスリルナックルの責任を取って、降格されて、事務職についたそうだ」
「ああ、良かった、バーグさん、生きてるのね」
「でも、可哀想、魔王城で、げんきくんを想いながら事務仕事をしなければならないのね」
「元々事務方上がりだと聞くぞ、バーグめは」
「吸血鬼なのにっ!」
「吸血鬼なのにっ!」
「不死なので、仕事を覚える時間がたっぷりあるのだ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものだ」
そして、オッドをどうするか会議を開き、最終的に、魔王とオッドの勝負について協議に行くという結論になった話をする。
「オッドちゃん……。困った人ね」
「げんきくんはやさしいわね」
「まあ、さすがの我が君も切れ気味であったがな」
ふう、長く話していて、喉が渇いた。
お茶がすっかり冷めてしまったが、ぬるい茶が喉に優しいな。
「あら、もうこんな時間、ご飯の用意をしなくちゃ。お話しの続きは夜に聞かせてくださいね」
「せっかくだから、美味しい物を作りましょう。すき焼きにしましょうか」
「それはいいね、おねえちゃん」
「あまり、おかまいなく。なにもお返しができぬのに親切にされて心ぐるしいのだ」
「何をいうの、パットさん、あなたは私に凄いインスピレーションを運んでくれたのよ。それが一番のお返しで、もう、大歓迎されても気にしなくていいのよ」
「かたじけない」
しかし、単なる話で、こんなに親切にされて良いのだろうか。
後で、薪割りなどがあれば手伝おう。
「パットさん、一緒に買い物に行きますか?」
「うむ、行きたいのだが、甲冑が」
「おねえちゃん、お兄ちゃんの服あるよね、だいたい同じぐらいだと思うんだけど」
「そうね、隆君の服がちょうどいいかも、ちょっとまってね」
「兄上がいらっしゃるのか?」
「いたの、交通事故で死んじゃったけど。あーあ、お兄ちゃん、パンゲリアに死亡転移してないかなあ」
「居るかもしれないな、戻ったら探してみよう」
「うん、おねがいね」
幸せの国と思っていたニホンにも、悲しい事はあるんだな。
あたりまえだな。
どんな世界でも、人が動かしているのだ、幸せだけの理想郷なぞは無いのだろう。
ハルカ嬢が出してくれた、男物のシャツとズボンは、しつらえたように私にぴったりだった。
背の高い人だったのか。
パンゲリアに戻ったら、調べて見よう。
過去に居たなら、文献に残ってるかもしれないし。
我が君がいる現在に居るなら、帝国に存在しているかもしれぬ。
ああ、早く、パンゲリアに帰りたいな。
我が君に会いたい。
そして、ハルカ嬢とナツミ嬢の話をしよう。
我が君と同じ匂いのする、優しい二人の姉妹の話をしよう。
そう想いながら、ナツミ嬢と共に、男物のシャツとズボンをまとった私は、買い物に出かけたのである。
(パトリシア日本紀行 第一部 了)
【次回予告】
ちょっと長くなってしまった、パトリシア日本紀行の第一部終わり~。
次は、五章が終わったあたりに(^^)
次回は、コルキスと文句の多い蜘蛛 という、コルキスさんが、ベルナデットにうんざりする、幕間SSです。




