350. キルコゲールの自爆
「ガランゲールを地獄の道連れにするの?」
「しないっ、しないっ、あんな屑の鳥と一緒に地獄に行きたくないっ! コクピット、パージ、緊急脱出!」
あやめちゃんが泣きながら、ボタンをピッポッパと押した。
そういえば、初めてキルコゲールに乗った時、あやめちゃんは恐れずに平気でボタンを押していたなあ。
なんて、思い出していた。
ごとん。
後ろ向きにコクピットが動いた。
”自爆シークエンス継続、魔導炉暴走まで、あと、二十虫秒”
『やめろおっ!! 何をする気だ、小娘っ!!』
コクピットはがくんと、後ろにバーニアで後退した。
キルコゲールの身体から出た、その形は、まるで小型戦闘機だった。
コ○ファイターかよ、お父さんは、本当に趣味の人だなあ……。
「キルコゲール、最後のお願いだよっ!! ジェットパック全力噴射!!」
あやめちゃんが、目を閉じ遠隔操縦をすると、キルコゲールはジェットを吹かし、ガランゲールを抱きかかえたまま、平原を遠ざかっていく。
遠ざかって行く。
キルコゲールが去って行く。
え?
僕は頭を振った。
え?
「あやめちゃんっ!! 自爆ってっ!!?」
「……」
あやめちゃんは黙ったまま、コパイ席に着き出した操縦桿を操作して、旋回した。
僕は、振り返り、飛び去って行くキルコゲールを見た。
「もどって!! キルコゲールを自爆させる? そんな事っ!!」
”魔導炉、臨界に達しました。あと、十秒で崩壊します。九、八、七、六”
「あやめちゃんっ!! もどって、キルコゲールが、キルコゲールがっ!!」
「もう、手遅れなんだよ……」
”五、四、三”
「川島君も逃げてっ!!」
『お、おう……』
川島君はミルコゲールを一瞬変形させようとして、止まった。
その視線は、メイリンの共和国側のスラムを見ていた。
彼は、ミルコゲールの変形を戻して、こちらを向いて仁王立ちした。
「川島君」
『市民は、関係ないからなっ』
爆発の影響をミルコゲールの身体で止めるのかっ!
”二、一”
『やめろーっ!!』
「だめだっ!! そんなのっ!!」
ピカリと真っ白な光りが走った。
無音で、爆発が広がる。
音は後で来た。
必死に飛ばしているキルコのコクピットジェットに爆炎が近づいてくる。
「僕も、魔力をっ!」
「駄目っ! 死ぬっ!!」
僕の手が痺れて、プルプル痙攣している。
魔力が枯渇しているのか?
ドッガアアアアアアアアアアム!!!!!
爆風に巻き込まれて、コクピットジェットは木の葉のようにくるくる回った。
「キルコゲールっ!!」
平原の遙か向こうで、キノコ雲が上がっていた。
ああ。
あああああ。
「あああああああっ!!!!」
僕は絶叫した。
あああ、キルコの中の人とも、お別れなのかっ!
彼女も去って行くのか。
あやめちゃんは操縦桿を操って、気流の穏やかな部分をつないで必死に飛んでいる。
ミルコゲールがしゃがみ込んで、爆風からスラムを守っているのが見えた。
川島君。
君は。
あやめちゃんはゼイゼイ言いながら、コクピットジェットを操縦して、メイリンの近くの丘に着陸させた。
着陸のショックを感じた時、あやめちゃんは、身体を丸めて、うぐうと噛みしめるように泣いた。
「しょうがなかったんだよっ! しょうがなかったんだよ! げんきくんを魔力枯れで、死なせるわけにはいかなかったんだよっ!! 鳥に殺させるわけにもいかなかったんだよっ!!」
「あやめちゃん……」
あやめちゃんは、声を上げて、子どものように泣いた。
僕もボロボロと涙が零れて、頬をつたい、あごからおちた。
キルコゲールは、僕たちの友達で、頼りになる仲間で、僕の身体で、本当に大事な存在だった。
もう、二度とキルコゲールに乗れないと思うと、はらわたが無くなったような喪失感がある。
ぽっかりと胸に穴があいたようだ。
「キルコの中の人と話していたのは、これなの?」
「そうだよ、キル君、前のガランゲールとの戦いで、負けて、ずっとずっと、一万年も、どうしたら勝てるか、パイロットを生き残らせる事が出来るか、ずーーっと考えていたんだって……」
「キルコの中の人も、もう会えない、死んでしまった……」
コクピットジェットのコンソールに字が浮かび上がった。
『いえ、生きてますよ』
「キルコの中の人ーーっ!!」
「キル君は生きてるよ、このタブレットに人格情報を移し込んだから、ずっと一緒だよ」
「よかったー、よかったーっ」
僕は泣いて、キルコタブレットを抱きしめた。
「キル君を復活させるんだ」
「は?」
「型番に無い、十三番目のゲールがあるとキル君言ってた、それはまだ人工魔導知能が乗ってないんだ。それを掘り出して、キル君をインストールする」
「そ、そんな物、どこにあるの?」
「パンゲリア大陸の北西、帝国の迷宮都市ガラリアにある、と、キル君は言ってる」
迷宮都市ガラリア。
大陸の果てだな。
でも、そこにいけば、キルコゲールが復活できるのか。
「キルコゲールMarkⅡなんだよっ」
主人公機乗り換えイベントかあ。
それは、いいなあ。
僕は脱力して、ぐったりと椅子に身体をあずけ、空を見上げた。
爆風の影響か、飛ぶように雲が走っている。
オッドちゃんを追う。
聖魔導護拳を集める。
猫装備を揃える。
キルコゲールを復活させる。
なんだか、次の旅は、凄い事になりそうだ。
オッドちゃんも、キルコゲールもいない。
あやめちゃんと二人ぼっちの旅だ。
ぬっと、日が陰ったと思ったら、ミルコゲールがのぞき込んでいた。
「川島君」
『……』
「街を救ってくれてありがとうな」
『べ、べつにお前の為に救ったわけじゃねえよ。市民は大事だしな』
『……カワシマ、そいつを、ころせ……』
諜報王、まだ生きているのかっ!!
ミルコゲールはふり返った。
『ガランゲールは大破した……、だが、チャンスだ、勇者ゲンキをころせ……』
『いやだよ』
『魔王軍を裏切るつもりか……』
『裏切るつもりはないよ。だけど、今回はあんたの負けだ。もう、俺も今回はあんたを連れて帰る』
『チャンスなんだ、チャンス、ころせー、ころせー』
『じゃあ、飛高またな』
「うん、川島君、また」
ミルコゲールは飛び上がると、空中でファイター形態にチェンジして、飛んで行った。
途中急降下して、爆心地から、ぼろぼろのガランゲールを引き上げると、そのまま、光球となって、地平線の向こうへ消えた。
爆心地。
千年か、二千年したら、またここに迷宮都市ができるのかな。
キルークのかわりだね。
ああ、なんだか疲れたなあ。
僕は目を閉じる。
なんだか凄く眠い。
「げんきくん」
「なに?」
「死んじゃいやだよ」
「死なないから、約束するよ……」
「うん……」
僕は目を閉じて、眠りに落ちた。
ガラガラガラガラ。
ガラガラガラガラ。
誰ですか、福引き機を回してる人は。
ガラガラガラガラ。
福引きを回しているのはオッドちゃんだった。
「げんき、みてみて、金の玉、一等賞よ」
「おめでとう、商品は何?」
「新しいゲールですって、もっと欲しいからもっと回すわ」
「福引き券はあるの?」
「沢山あるわよ、商店街でもらったの」
ガラガラガラガラ。
オッドちゃんは福引き機を回す。
ころころころころ。
色とりどりの球が転がっていく。
オッドちゃんは笑う。
僕も笑う。
ガラガラガラガラ。
ガラガラガラガラ。
揺れる揺れる。
なんだこれ。
「お、兄ちゃん気がついたか。うまるちゃん、兄ちゃん目をさましたぞ」
「お、目をさましたが、ゲンキ、大活躍だったなあ。キルコゲールは残念だったけどさ」
「……福引きは?」
「「福引きってなんだ?」」
身体を起こすと、荷馬車の上だった。
うまるちゃんが、御者席で、馬を操っているっぽい。
荷台で、あやめちゃんも毛布を被って寝ている。
「丘の上に出た変な機械の中に、兄ちゃんたちがいるって、マイカル様が言ってたからさ、荷馬車で迎えに来たんだ」
「そうか、ありがとう」
「早く馬車に帰って、セシリアちゃんを安心させてやってくれよ。泣いちゃってさあ、困った」
「あと、メリリンさんも来たがってたが、うるさいから置いてきたよ」
「うまるちゃん、ナイス判断」
起き抜けに取材されても困るからね。
あたりは、だんだんと暗くなってきている。
もうすぐ夕暮れかあ。
一日、ご飯も食べないで闘っていたのか。
長い長い戦いだった。
「とりあえず、セシリアちゃんがごちそう作ってくれてるはずだから、食べろ、兄ちゃん。そして、行水して、寝ろ。それが一番だ」
「そうだな、面倒ごとは明日に回せ。今日は飯食って寝ろな、ゲンキ」
「うん、ありがとう、二人とも」
荷馬車はスラム街の大通りを走る。
人々が出て来て、歓声を上げて、花を投げてくる。
「すげえ、感謝の声」
「僕より、ミルコゲールの方に感謝すべきだよ」
「ああ、あいつも偉かったな、見直したよ」
「本当は、あいつも、良い奴なんだよ」
ミルコゲールが立ち塞がって、爆風を押さえたおかげで、スラム街に被害はほとんど無かったそうだ。
なんか、その功績による賞賛が、僕らに向けられて、少々おもはゆいなあ。
荷馬車はガタガタと音を立てながら、メイリン市に凱旋していった。
(第四章、さよならなんて、聞いてないっ! 了)
【次回予告】
章と章の間なので、ちょこっとあちこちのSSをいれますですな。
一応こんな感じ。
・パトリシア日本紀行
・バーグさんの事務的日常
その後に、第五章、ふたりぼっちだなんて、聞いてない!
パンゲリア横断二人旅が始まります。




